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消費者のデジタルシフト、スマホシフトが進む中、その影響を特に大きく受けるのが小売業界である。デジタル化の推進は、他業界以上に待ったなしの状況である。2020年2月、ブレインパッド主催「DOORS BrainPad DX Conference」にて、高島屋のEC事業部長、三陽商会のデジタルマーケティング部長 兼 EC運営部長が登壇。小売業におけるEC、デジタルマーケティング、DX(デジタルトランスフォーメーション)の戦略を明かした。
小売業界におけるDXは、消費者の変化から必然的に起きている
セッションの冒頭、モデレーターを務めるブレインパッドの柴田 剛氏は小売業の現状についてまず言及し、「“モノ”から“コト”への購入に対する消費者の価値観が変化し、消費者が購入に求める目的も“自己満足”から“周囲からの承認”へと移り変わっています。そして、身の回りのデジタル化が進展したことでデジタル体験の価値が高まっているのです」と切り出した。
そのような消費者の変化を受けて、小売業界におけるDXは消費者の影響を受けて必然的に起きているという。
その上で「小売業だけではありませんが、多くの企業では社内のデジタル人材が足りない状況となっています。それでもOMO(オンラインとオフラインとの融合)やD2C(消費者への直接販売)などのトレンドがあり、越境ECやIoT、5G、AIといったデジタルの波は押し寄せています」と指摘した。
それを踏まえて、小売業界のビジネス現場をけん引してきた登壇者2人を紹介し、それぞれのDXに対するこれまでの取り組みについて尋ねた。
バリューチェーンの全領域で積極的にデジタルを活用する三陽商会
まず、三陽商会 デジタルマーケティング部長 兼 EC運営部長の安藤 裕樹氏が、同社におけるDXの取り組みを紹介した。1943年に設立された総合ファッションアパレル企業である三陽商会は、2018年10月に「Future Sanyo Vision」という新ビジョンを掲げて大規模な組織改革やDXに取り組んでいる。
安藤氏は「三陽商会では、バリューチェーンの全領域において積極的なデジタル活用により、現状の課題解決や業務の効率化・高度化を図ることを進めています」と語った。同社では2014年からDXへの取り組みを開始し、これまで「オムニチャネル基盤強化」「オンライン・オフラインの会員統合」「会員ステージサービスの導入」などを進めてきたという。
具体的には、バリューチェーンの川下となる顧客接点側の施策としてECサイトの強化から始まり、在庫管理の連携強化やデータ整備を進め、ECと店舗との会員統合などCRMマーケティングへと領域を拡大してきた。2019年ごろから川中・川上となる商品供給基盤にも範囲を広げ、店頭販売や企画などの領域でのDXを進めているという。
これまでのDXの取り組みを通じて、安藤氏は「社内データの整備や情報インフラの統合などの重要性に気づきました」と説明する。
「ECサイトやCRMの部分だけを強化しても、会社の事業全体の最適化は難しく、顧客に提供できるサービスには限界が来てしまいます」(安藤氏)
今後、生産・仕入や物流・倉庫などの領域への展開する際には、IoTデバイスやデータなどの爆発的な増加も見込まれる。
「ここまでの約5年間でシステムの機能拡張や連携などを進めた結果、情報インフラが非常に複雑な仕組みとなっています。ほかの企業でもそうした現象が起きているのではないでしょうか」と指摘した。その上で「今後予想されるデータ量の増加に対応するためにも、デジタル化をさらに加速させていく必要があると考えています」と語った。
その説明を受けて、もう1名の登壇者である高島屋のEC事業部長の西名 香織氏も「百貨店は古い業態なので、店舗のオペレーションに合わせてさまざまなデータベースが作られています。そこに新しいサービスが乗ることで、さらに連携が複雑化するという現象が起きています」と同調した。
「顧客体験」「ワークスタイル」「インフラ」の変革を進める高島屋
西名氏は続けて、高島屋のDXの取り組みを紹介した。同氏は「百貨店を取り巻く状況が厳しいことを実感しています。デジタル技術の発展で業界全体にある危機感の中、これまでと同じやり方では未来は訪れないと理解しています」との見解を示した。
同社では2017年ごろから変革プロジェクトを開始し、「顧客体験(接客)」「ワークスタイル(働き方)」「インフラ(基盤)」の3つの根本をデジタルで変革することに取り組んできたという。
顧客体験の変革として、西名氏は、第二次世界大戦前に現在の「100円ショップ」の原型ともいえる「10銭ストア」を運営していたことや、1996年には「タカシマヤECサイト」を立ち上げるなどの施策を実施してきたことを紹介した。
その上で「百貨店で主体となるのは、店舗です。店舗のワークスタイルを変革しないと、顧客体験の変革の原動力となる人もコストも生み出せません。その2つを両輪として一体的に進める必要があります。それを下支えするシステムにも変革が求められます」(西名氏)。
ワークスタイルの変革では、店舗のスタッフの業務効率を上げることが非常に重要になるという視点で、販売員の動静をリアルに可視化する「デジタル動静版」を導入している。デジタル動静版によって可視化することで、接客販売時間拡大、効率的な売り場体制の構築などに役立てるなど店舗スタッフの業務効率の改善に活用しているという。
その説明を受けて、安藤氏は「使う側もデジタル化を加速させないと、お客さまのデジタル活用は促進できないと思います。その点からも自分たちが失敗することも含めてデジタル化を享受できないと、本気の改革は達成できないと思います」と述べた。
【次ページ】“店舗行動”の可視化とNPSの新たなデータ分析に取り組む
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