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- 2020/08/20 掲載
燃料電池トラック「ニコラ(Nikola)」IPOは水素社会到来の前触れか? テスラとはまるで異なる事情
水素燃料電池搭載トラックは二コラだけではない
水素社会の到来は10年先だと常に言われ続けてきましたが、今回の見通しは正しそうだと言えるでしょう。技術の成熟度、燃料コスト、製品の入手可能性、規模、各国政府による補助など、今後10年間の水素燃料電池自動車が大きく成長するための要因が整いつつあります。ニコラ(Nikola Corporation)が6月にナスダック市場に上場したことを契機に、水素エネルギーへの関心が再燃しています。水素燃料電池を搭載したトラックを開発している企業はいまやニコラだけではなく、ニコラ以外の複数の企業が今後10年で必要とされる自動車燃料のエネルギーミックスの一部に水素を取り入れようとしています。
水素を利用したオフハイウェイ車、鉄道、船舶、ドローン、軽飛行機などが、開発されており、一部は実用化されたものもあります。これらの技術による需要の拡大は、技術の進展、コスト削減を促し、エネルギー源としての水素をより社会に受け入れられやすいものとしていくでしょう。
車両タイプ | ブランド例 |
トラック | 二コラ,Cummins, ヒュンダイ, Hyzon, トヨタ, 日野 |
バス | Wrightbus, Hyzon |
オフハイウェイ | ボルボ, ヒュンダイ, JCB, Terberg |
海洋 | ABB, SINTEF |
鉄道 | Alstom, Porterbrook/Uni of Birmingham, Stadler |
ドローン | H2Go, Intelligent Energy |
軽飛行機 | ZeroAvia |
ハイブリッド車/電気商用車市場の見通し
Interact Analysis社が発行を予定する最新のハイブリッド/電気商用車に関する調査レポートには、各燃料タイプ別の将来シナリオについて詳細に示されています。水素燃料を用いる商用車においては、今後のシナリオを変化させ得る要素として、燃料供給コスト、水素補給インフラへの補助金額、誰(どこ)が補助金を出すのかといったことが挙げられています。
水素はそれぞれグリーン、ブルー、ブラウンといったタイプによって製造コストが異なり、また、これらを補給するためのインフラ整備には多額のコストが掛かるため、補助金額の大きさは水素社会実現のために非常に重要な要素となります。さらには、その補助金が政府・自治体等による公的なものか、ニコラのような民間企業によるものかによっても、予測シナリオは大きく変わります。
Interact Analysis社は、インフラコストの一部は、公的資金と民間資金の両方で賄われ、フリート事業者にすべてのコストが転嫁されることはないと予測しています。インフラコストの 50%が補助金で賄われ、大部分でブルー水素を使用するシナリオでは、2030年には北米で3万台近くのクラス 7、8の水素トラックが納車されることが見込まれます。
ニコラとテスラを同一視することは根本的に間違っている
本記事の執筆にあたった理由の一つには、当然ニコラの上場に対する関心の高さがあります。ニコラは上場後、一時、時価総額でフォードを上回りました。まだ実際に製品を生産していない企業にとっては考えられないことで、これを成し遂げたニコラは称賛に値します。しかし、当然と言えば当然ながら、しばしの興奮が冷めた後、ニコラの株価は徐々に下落していきました。
その後、ニコラについては賛否両論あり、一部には水素商用車を取り巻く市場のダイナミクスをまったく理解していないように思えるものもあります。Interact Analysis社は商用車の電動化に関する調査のエキスパートとして、市場がニコラという企業をどのように捉えていくべきか、時間をかけて検討しました。
第一に、ニコラとテスラを同一視することは根本的に間違っていると言えます。テスラは電気乗用車分野のパイオニアであり、人目を惹きやすく、ウェブサイトのタイトルに「テスラ」を加えれば簡単に閲覧数を稼ぐことができます。
そういった点から、ニコラとテスラの両社を同一視することは、ウェブサイトの閲覧数を増やす手段としては適当だと言えるでしょう。両社の類似点を挙げる記事は多数見ますが、両社を区別するために比較しているものはほとんどありません。そのため、ニコラのトラックの性能や高負荷用途へのアプリケーションへの水素の採用を市場が判断する上では、両社を同一視しているウェブサイトの情報はほとんど役に立ちません。
両社の違いの一つには、主要製品のフォーカスがまったく異なっていることが挙げられます。テスラは主に電気「乗用車」に焦点を当てていますが、電気セミトラックにはあくまで一時的な関心しか持っていないように見受けられます。それに比べて、ニコラは水素(と電気)の大型トラックといった「商用車」に力を入れており、ピックアップトラックやオフロード車といった乗用車は二の次といった印象です。
乗用車と商用車、この2つの市場のダイナミクスは大きく異なります。乗用車市場においては、ブランド力の影響は大きく、テスラ製品が手頃な価格で手に入るようになるずっと前から、テスラが熱狂的なファンを集めているのは同社のブランド力によるものです。
一方で、商用車市場は100%コストによって左右されます。性能よりデザインを重視しても、商用車の運転手には何ら影響を与えません。ニコラは、フリート事業者との関係を深め、コスト効率の高さを示すために並々ならぬ努力をすることが求められます。
ニコラに関する批判として、過度な期待による株価の高騰が取り上げられます。ニコラはまだ製品の製造を行っておらず、キャッシュを生み出していないスタートアップ企業であることが懸念材料として挙げられていますが、こういった意見はやや短絡的であると言えます。
二コラを支える3つの大企業
ニコラは上場企業であることに加え、商用車と再生可能エネルギーに特化した3つの大手企業によって支えられています。CNH Industrialはイヴェコ(Iveco)の親会社で、欧州最大級のトラックOEM企業です。ボッシュ(BOSCH)は周知のとおり、商用車の最大手サプライヤーであり、独自の水素パートナーシップ網を確立しています。ハンファ(Hanwha)は太陽光発電の大手メーカーで、ニコラが水電解設備を稼働させるためには同社の太陽光発電技術が必要です。
これらの事実が、製品生産前の段階であっても、ニコラの信頼に足りる企業であることを裏付けていることは言うまでもありませんが、それ以上に、これらの企業とのパートナーシップはコストの面でニコラにメリットをもたらしています。
第1に、ニコラはCNHとの関係を利用して、ドイツのウルムにあるCNH工場で生産ラインの開発を行っているため、ヨーロッパに新たに工場を建設する必要がありません。工場建設に多額の資金を投入しなければならない他の新興企業と比べて大幅なコスト削減になります。
第2に、ニコラはCNHとボッシュの購買ネットワークを通して部品を購入することができるため、車両1台あたりの価格を効率よく下げることが可能となっています。
また、ニコラが水素商用車の市場における唯一のプレイヤーでないことも重要です。水素燃料電池車を開発している企業は、他にも複数あります。もしニコラだけが水素社会の実現を推進しているとしたら、同社を取り巻くエコシステムは一向に整備されず、水素燃料電池大型トラックを開発することのメリットが疑問視されるのも無理はないでしょう。
しかし、実際には、参入する企業や市場分野が増えることで、水素製造や燃料電池部品のコストが下がるメリットがあると予測されます。
【次ページ】革新的な二コラのビジネスモデルと収益化へのポイント
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