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  • 2020/04/07 掲載

池上彰:なぜ人は「学ぶ」のか? 偉人にセレンディピティが起きるワケ

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勉強は多くの人にとって、つらく苦しいものだ。ジャーナリストの池上 彰氏でさえ、中学のとき「なぜ勉強なんかしなければならないのか」と母親に問いかけたところ、「大人になればわかるわよ」という、答えにならない答えに不満を抱いたという。しかし、母親の言う通り「社会に出てから『学ぶことって楽しいな』と思えるようになった」と語る池上氏。そのきっかけには「セレンディピティ」が関係しているという。超一流の人々も、勉強のモチベーションを高め、成果を出すうえで、大事にしているという「セレンディピティ」。それは何か? どうすれば得られるのか? 池上氏に解説してもらった。
※本記事は『なんのために学ぶのか』を再構成したものです。


明日死ぬことがわかっていても勉強したい

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人はなんのために学ぶのか?池上彰氏が解き明かす
 「世界が明日終わりになると知っていても私は今日リンゴの木を植える」という言葉があります。諸説あるようですが、宗教改革を始めたマルティン・ルターの言葉として知られています。

 明日、世界が本当に終わりを迎えるならば、今日、リンゴの木を植えたところで何の意味もないはずです。それでもこの言葉が多くの人の共感を呼ぶのは、「たとえ意味がなくとも、今の自分にとって意義のあることを私はやる」。そんな強い思いに、多くの人が心を打たれ、同時に考えさせられるからではないでしょうか。

 この言葉の受け取り方は人それぞれでしょう。私の場合は「世界が明日終わりになる」、つまり自分が明日死ぬ、ということを知ったとしても、それでも学びたい、勉強を続けたいと願っています。

 そんなふうに思えるようになったのは、父の影響があります。私の父は「明日死ぬことがわかっていても勉強したい」という姿勢を、まさに身をもって体現してくれました。それほど旺盛な知識欲の持ち主でした。もう一つは、私自身「学ぶこと」の楽しさを知ったからです。

高校生の時に知りたかった「対数は役に立つ!」

 私は小さい頃から本を読むのが好きでした。でも、学校の勉強は、実はそれほど好きではありませんでした。教科書を読めばわかることに長い時間をかけていることが、時間の無駄に思えたものです。「勉強は我慢して学ぶもの」という感覚の授業があまりにも多かったんですね。

 「勉強って実はおもしろいんだよ」というさわりを見せて、「あっ、おもしろそうだな。じゃあ、この後の話も聞いてみようか」と思わせる工夫が必要なのに、それが感じられませんでした。

 私がNHK社会部記者として気象庁を担当したとき、地震について猛勉強をしました。地震のエネルギーの大きさを表す単位にマグニチュードというのがありますね。ニュースにも出てくるように、マグニチュードは6から7に1増えるだけでエネルギーは約32倍になります。2増えてマグニチュード8になれば、32の2乗(32×32)でエネルギーは約1000倍です。

 なぜ1違っただけでエネルギーが32倍にもなるんだろうと思ったら、対数を使っていることがわかりました。その後、この話を数学者の秋山仁さんに話したら、そもそも対数は船乗りが航路を計算する複雑な方法を簡単な足し算でできてしまうように開発されたというのです。

 高校生のときは、対数の勉強など一体何の役に立つんだろうと思いながら数学の授業を受けていましたが、対数を使えば、地震のエネルギーのように小さなエネルギーから非常に大きなエネルギーまで一つの指標で簡単に表せるし、航海にも役立つものとは。それがわかったとたんに、「なんであの時、対数はこんなふうに役に立つんだよって教えてくれなかったのか。それがわかっていれば、もっと興味深く対数を勉強できたのに」と思ったものです。

 このように、私が「学ぶことって楽しいな」と思えるようになったのは、大学を卒業して社会に出てからです。

 一度学びの楽しさを味わってからは、やみつきになりました。学べば学ぶほど、いままでわからなかったことがわかるようになり、それによって自分の視野が広がります。知らないことや新しいことに出合うとかえって好奇心が刺激され、もっと多くのことを学びたくなります。学ぶことに知的スリルを覚えるようになるのですね。好奇心が満たされれば、大きな喜びにひたることができます。

 こういう学びの楽しさを、小学生、中学生、高校生の頃から体験することができたら、どんなに素敵でしょうか。でも、社会に出てからでもいいのです。どこかで学びの楽しさを知っておけば、その後は一生学び続けることができるのですから。

一流の人ほど、基礎的な知識を大事にしている

 基礎的な学びや勉強には答えがあるのが普通です。学校の勉強にはたいていの場合、正解が用意されています。

 ところが、研究者になるとそうはいきません。何が正解なのかわからず、答えがあるかどうかもわからないことが多くなります。では、研究者は先が見えない中で、どうやって研究を続ける意欲を維持しているのでしょうか。以前、テレビの番組でノーベル化学賞を受賞した鈴木章先生(北海道大学名誉教授)にお話をうかがう機会があったので、この疑問をぶつけてみました。

【次ページ】科学者も注目する「セレンディピティ」とは?
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