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中国の景気後退から予測されていた自動車生産台数の減少傾向が、いよいよ深刻さを増してきた。これまでも不安視されてきた悪材料が、その影響力を強めているのが理由だ。生産台数の落ち込みはどこまで続くのか、また再び盛り上がるのはいつなのか。今後、世界の自動車市場のバランスはどう変わっていくのか。そして日本の自動車メーカーや関連企業はどう対応すべきなのか。IHSマークイットのシニアアナリスト濱田 理美氏が解説する。
かつての「悲観シナリオ」を下回るマイナス成長
これまでのIHSマークイットの自動車市場予測は、「2019年まで減少が続くものの、2020年からは増加に転じ、回復する」というものだった。最新の自動車生産台数予測は、こうした以前の予測からどう変化しているのだろうか。
「車両総重量6t以下のライトビークルの生産台数の予測は、半年前と比べてかなり悪化しています」と明かしてくれたのは、IHSマークイットの濱田 理美氏だ。
「半年前は2019年が踊り場で、2020年は1%の成長を見込んでいました。しかし、最新の予測ではそれを下回っています。前回は米中の貿易摩擦激化の影響を『悲観シナリオ』に組み込んでいましたが、今回は『ベースシナリオ』に組み込んでいること、トルコ危機、イラン情勢など先行きの不透明な政治イベントが影響したためです」(濱田氏)
半年前と比べてこれほど落ち込むとは、衝撃を受けずにはいられない。やはり米国の報復関税による中国の景気減退が、中国市場の低迷に影響しているのだろう。濱田氏によれば、英国のEU離脱(Brexit)のインパクトも大きいという。
「2019年は世界で9000万台を割り込むと予想しています。これは4年前の2015年と同レベルですが、まだ減少傾向は続くでしょう。底は2020年になる見込みです。
これは、自動車業界が今置かれている状況がいかに厳しいかを物語っています。以前の『悲観シナリオ』での予測をさらに下回っているのです。しかもBrexitにおける“合意なき離脱”は組み込んでいません。これに関しては、英国もEUも合意して、健全な離脱となることを見込んでいるためです」(濱田氏)
日本の自動車メーカーの対応を見ると、すでに工場の移転など、生産体制の変更を開始しており、Brexitへの対応は進んでいるように思える。それでも今後さらにクルマの生産・販売には影響を与えるようだ。
「昨年から今年までの生産台数の増減を四半期ごと見ていくと、WLTP(乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)導入の影響は今年の上半期までで、マイナスのインパクトは減ってきました。しかし政治イベントの影響で、前年比でマイナス成長が続くとみられています。
なお、中国市場に関しては、シャドーバンキングの融資引き締めが2018年後半の失速の直接要因としては大きいでしょう。米中貿易摩擦の影響は2019年から顕在化してきたとみています。インドも、直近で2割から3割ほど販売台数がダウンしています。これは政府系・大手金融機関が相次いで債務不履行を出した結果、民間のノンバンクの貸し渋りが深刻化していることが主な要因です」(濱田氏)
米国の自動車関税は上げられてしまうのか?
EUは1900万台~2000万台の自動車市場だが、今後、増加していくのは新興国市場が中心となるのは間違いないだろう。米国市場については、やはり自動車関税の動向に左右されそうだ。
「トランプ政権はアメリカファーストですから、関税を交渉カードに使いたいと考えています。そのため、自動車関税の増税は『ベースシナリオ』には組み込んではいません。増税を発動するのは『悲観シナリオ』として予測しており、その場合、日本・韓国等北米向けの生産を行っている工場に影響が出ますし、EUは報復関税を発動する可能性が高いとみています」(濱田氏)
では、米国と2国間協定を結んでいる日本はどうか。
【次ページ】もし関税が25%まで引き上げられたら日本はどうなる?
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