生成AIの発展とLLMの能力

　銀行業における具体的な可能性を検討する前に、生成AIの能力を理解することが重要です。ジュニパーリサーチ社は、生成AIプラットフォームを次のように定義しています。

生成モデルを使用して、テキスト・画像・そのほかのメディアを生成できるプラットフォーム。生成AIモデルは、入力された学習データからパターンと構造を学習し、同様の特性を持つ新しいデータを生成します

　生成AIは、従来のAIとは異なり、学習データを基に自由で独創的な素材の作成が可能です。また、より高度な認知タスクを実行する能力によって、ユーザーとのインタラクションがあるという点で、より人間に近いものです。NLP（自然言語処理）のメカニズムを持った、対話のできる人間的なAIを活用すれば、従来の手法よりも迅速に結果を生成することができ、出力品質も向上します。

　これまで生成AIは、「成長の促進」と「生産性の向上」という、2つの大きな目的に向けて開発されてきました。しかし、広義のAIとは異なり、生成AIの導入はいまだ限られています。その背景には、既存のシステムに対し大規模な破壊的コンセプトとなる可能性を秘めているという、生成AIの特徴があります。

　生成AIの導入を広めていくには、組織やビジネス、特に銀行や金融などの規制の厳しい業界において、日常業務に組み込んで運用することが求められるでしょう。

　生成AIの中核にあるのはLLM（大規模言語モデル）です。LLMは、膨大な量のテキストデータを処理することで、人間の言語を「理解」し、生成することができるAIシステムです。LLMは、自然言語の理解を根本的な原動力として、10年近く前から存在しています。

　これらのモデルは、特定の単語の後にどんな単語が続きやすいかなど、言語のパターンを学習し、次のトークン予測やマスク言語モデルなどのテクニックを使用して、テキストを生成または完成させます。

　ただし、LLM自体は文章の意味を理解していません。あくまでも文章を確率の数学的計算としてのみ捉え、次の単語の並びを予測しているだけです。以下はLLMの能力の概要を示しています。


　LLMが主流になったのは、OpenAIによるChatGPTの登場からでしょう。ChatGPTは、ユーザーが簡単な言語で自然な会話をするだけで、基盤のAI モデルを利用できるというウェブサイト上のチャットボットです。このサービスから、ChatGPTとその後継および競合は、自然言語でプロンプトを入力することで、個人がコンテンツを作成できるようになりました。

　このような機能の向上により、労働集約的な顧客サービスや規制遵守の領域を含め、多くのプロセスが非常に非効率的である銀行や金融サービスなど、多くの業界で生成AIを活用する可能性が生まれました。

生成AIが銀行業務に与える「3つ」の影響

　銀行業務における生成AIの活用は、最終的には銀行業務におけるドメインや問題に特化したシステムの構築につながるでしょう。しかし、初期のユースケースとしては、マーケティング・労働力の連携・生産性向上など、より一般的な分野に限定されていました。これらのユースケースは、生成AIの最大の強みであるコンテンツの作成を中心に展開しています。

　ジュニパーリサーチ社は、「短期から中期的に、生成AIが銀行業務で最も活用されるのは、顧客獲得・顧客オンボーディング・支出インサイトの提供である」と考えています。この3点について、具体的に見ていきましょう。 【次ページ】銀行業界における「生成AI投資」の成長性