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- 2019/09/13 掲載
イメージしたのは『情熱大陸』 為末大と伊藤羊一が語る、0秒で動く方法
『情熱大陸』に出る自分をイメージしていた
第一歩を踏み出すには、直感が重要だと私は考えています。たとえ精度が低くとも、直感で瞬時に結論を出すことを続けていけば、思考力はどんどん鍛えられていきます。
為末大氏(以下、為末氏):本当にタイトルにある通り、瞬時に動くことは大事なポイントですね。1秒考えるのも1カ月考えるのも結局は一緒。今この瞬間に変わらないと変わらない。
僕は何か物事を戦略的に進めるよりも、実は直感的な人間です。もともとアスリートは先に行動して、その後で結果を分析して言語化する職業です。試合が終わったあとにインタビュアーに「なぜ、あのようなレース展開になったのですか?」と質問をされたときに言葉を紡いでいます。僕は説明上手なのでそうとは悟られませんが(笑)、実際には、その場その場で瞬間的に判断していることが多いですね。
伊藤氏:直感に加えて僕が行動をする上で大事だと思うのは、未来の姿を想像することです。「成功したらヒーローになれる。失敗しても次につながる」とか、自分を“だまして”経験を積める方向へ向かわせる能力が重要な気がします。
為末氏:共感します。たとえ何かトラブルが起きても長期的にはプラスだと考えてみることです。それによってどんな学びが得られるか想像するとよい、と思います。
僕は、初めて出たシドニーオリンピックでは転倒して敗退しました。大会後、初めて1人で海外遠征に行くことになるのですが、当時はビビりまくりましたね。英語は理解できないし、どうしてよいのかさっぱり分からない状態でした。ですが、試合に出ているうちに“まあなんとかなるだろう”という気持ちになってきた。最終的には、転倒した翌年のエドモントン世界陸上でメダルを獲得しました。
この瞬間、自分を奮い立たせるために妄想していた『情熱大陸-為末大-』に「転倒後に海外で挑戦。結果、メダルにつながった」というストーリーができました。失敗したとしても、それを必ずしも点で見る必要はありません。失敗をその後につなげられれば、僕らは自分自身の物語を書き換えられるのです。
今感じているのは「危険」か「恐れ」か
伊藤氏:為末さんは『情熱大陸』だったんですね。僕の場合は日本経済新聞の連載『私の履歴書』に載ったときのことをイメージしてモチベーションを上げていました(笑)。僕は今でこそこうやって人前で話すことが増えましたが、20代まではとても引っ込み思案でした。ずっと悶々として、なかなか一歩を踏み出せず。メンタルを崩して会社に行けなかった時期もあります。
変わったきっかけは、サッカーのキングカズこと三浦知良選手です。テレビで同い年の選手が躍動しているのを見て、「同じ人間なのにこんなに違うわけがない。きっと俺も頑張れば何かできる」と思って彼を目標に定めました。その高い高い目標に向かって、地味ですが日々の行動と振り返りを繰り返す中で、自身の成長を感じました。
その過程で心がブレなかったのは、やはり日々自分をだます上で身につけてきた、根拠のない自信があったからです(笑)。いろいろ苦労があったとしても、将来振り返ればしょせん大したことはないだろうと。そういうマインドで進むと、少しずつ成果も表れ、その先でお客さまのお役に立てることが分かる。喜びはどんどん大きくなっていき、借り物だった自信は本物へと変わっていきました。
結局は量をこなす経験が本当の自信につながると僕は思います。昔は話をするのが苦手だった僕がコミュニケーションやプレゼンをテーマに講師として講演できるようになったのも、回数をこなしたからです。去年1年間だけでも300回も人前に立って話をしました。そうなると、トラブルも容易に想定できるようになり安心できます。
為末氏:そうですね。小さな成功体験の積み重ねからも自信は生まれますが、逆に、起きうる最悪の事態を予想することも自信につながるように感じます。仮にうまく行かなかった場合のダメージの絶対量を予測できると恐れは減ります。僕らのトレーニングでも、300m×3本をインターバルで走っていると、苦しいけれど死ぬことはないことが分かる。
試合前に緊張しているとき、「危険」と「恐れ」を混同することは選手が避けるべきことの1つです。多くの場合人は、小さな危険に対して大きな恐れを抱いています。自分のネガティブな感情をメタ視点で見つめ直して、このギャップを縮めることがポイントですね。
【次ページ】本当は一流選手でも他人を気にして生きていた
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