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  • 2019/09/17 掲載

経産省が「システム刷新はすべてを解決する」と説く理由、2025年の崖は“チャンス”だ

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「2025年の崖」に関するレポートを作成した経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課課長 中野剛志氏に、「2025年の崖」をどのように克服するかを聞く本稿。後編では、日本企業とITベンダーとの構造的な課題から話を進める。何も手を打たなければ、「日本企業総沈没」する日も遠くない。どのようにすれば光明が見えるのだろうか。
聞き手・構成:編集部 山田 竜司
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経産省のシナリオとは
(出典:経済産業省)


なぜ日本のユーザー企業はITリテラシーが低いのか

──アジャイルとマイクロサービスが鍵になるというお話がありましたが、日本の企業内にあまりエンジニアはいないのでは。
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経済産業省
商務情報政策局
情報技術利用促進課 課長
中野剛志氏


 はい。2025年の崖を乗り越える人材とも関係してきますが、日本の産業構造は、ユーザーに、ITエンジニアの全体のうち、大抵7割がベンダーに所属していて、3割がユーザー企業に所属しています。

 この比率は米国の場合は7対3、ヨーロッパでも5対5ぐらいと ユーザー企業が自分たちでエンジニアを抱えています。2025年以降のためにこうした構造の変革にも言及しています。

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情報サービスの概況。ユーザー企業のIT部門の人材は3割に満たない
(出典:経済産業省)

──そうした構造もあり、米国ではソフトウエア開発の内製化が進んでいる一方で、日本では内製化が進んでいないですね。

 米国の場合はシステムを構築する場合、多くのエンジニアを集めて構築し、一段落したら解雇してまた別のプロジェクト単位で雇用することが普通です。日本の場合、雇用はなるべく守るのが慣習です。最初から人材を抱えられないので、ベンダーに「外出し」しているというのもあります。

 日本はユーザー企業側にITエンジニアが少なく、ITリテラシーが低いため、レガシーシステム化しやすいという問題につながってしまいます。

 日本のユーザー企業は、アプリから保守メンテナンスまで、すべてをベンダーに任せてしまいます。そうなると、ベンダーが、そのような「付加価値の低い稼働」を全部引き受けなくてはならず、新しい付加価値のある領域まで対応できないということにもなります。

──ベンダーが「システムのお守り屋」と揶揄(やゆ)されるゆえんですね

中野氏:これではベンダーの技術力は落ちてしまいます。そういう付加価値の低い業務ばかりやっている日本のベンダーを若い人は選ばないし、優秀な人も転職してこないという悪循環に陥っています。

 ユーザー企業側のITリテラシーが高く、エンジニアが内製していたら、システムは古くならず、メンテナンスも自分たちでできるでしょう。ちょっとしたアプリなら自分たちでつくるようになる。この状態なら、よほど専門事業者のIT企業、ベンダーでないとできないような高付加価値のものだけをベンダーに発注するので、ベンダー企業は「高付加価値業務」ができるところだけが生き残る。

 生き残ったベンダーは、つまらない業務を受けなくなり、付加価値の高いものを中心になるので、「給料を上げる」ことができます。

アジャイルがブラック労働を改善する?

──日本のITエンジニアの給料は米国の半分だとか、労働環境が劣悪なブラック企業ばかりだとか、評判がよくありません。

中野氏:ブラック労働と言われる根本的な原因は、ユーザー企業のITリテラシーが低くて丸投げしてしまうからなのです。

 ベンダー側の「悪循環」の問題は、ユーザーのシステムを刷新しないかぎり、絶対に解決しません。今回、その問題もあるので「システム刷新」は非常に重要です。

 アジャイル開発は、要件定義をしないで継続的な開発が可能です。日本のものづくりは、長期雇用が前提で、チームワークで経験値を積んでいたように、アジャイル開発もチームワークが必要で、日本のものづくりと同じなのです。

 アジャイルの場合、ITエンジニアに短期で離職してもらっては困るので、雇用を大切にするため処遇も改善する。そうなれば、会社に長く残り、ユーザー企業は内製化を始めるようになる。アジャイル開発を推進すれば、ベンダーとユーザー企業のITエンジニアの比率は、必然的に5対5ぐらいになっていくのではないでしょうか。

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既存システムの問題点の背景にはさまざまな課題がある
(出典:経済産業省)

 IoTや自動運転の潮流もこの問題と切り離せません。たとえば自動運転の場合、日本の自動車メーカーが自動運転の核であるソフトウェア開発をベンダーなどの外に任せていれば、競争力を失います。そうすると、必然的に自動車メーカーは、自社の強みをアウトソースできないため、競争力を高めるために、ソフトウェア開発の内製を進めざるを得ない。

 IoTなどのデジタルビジネスでは、ものづくりとITが密接不可分であり、ITエンジニアにものづくりの営業秘密を知ってもらわないとできません。すると、営業秘密を知ったITエンジニアを外に出せなくなります。したがって、内製化するしかなくなるはずです。

 内製化できない会社はIoTを実現できないので市場から撤退を余儀なくされます。だから、内製化は必ず進んでいくと思います。内製化により雇用も安定します。

 内製化が進めば、レガシーシステムをどんどん刷新して、最先端のIT環境を利用できるようになるのではないでしょうか。さらに、ものづくりのリアルデータもあれば、(デジタルビジネスに関心の高い)優秀な人材を集めようとする流れができます。そうなれば、日本企業は強くなります。逆に、この流れをつくれないと日本企業の強みも失います。

 そういう「ITとものづくりの融合」や、「アジャイル開発」など、どれをとっても行き着く先は「ITエンジニアの内製化と安定雇用」です。

 世間一般では、ITエンジニア人材は流動的で、むしろ流動的なのはいいことだととらえていますが、それは違います。ITのエンジニアは自社の中で育てて、ITのエンジニアみたいな人たちともカルチャーを共有できるマネジメントや、ITエンジニアに適した給与体系とかを、工夫をしていく必要があります。

 日本の企業は解決方法を模索しています。そこでベンダーに丸投げをするのではなく、システム子会社の戦略的な活用を考える企業も出てきました。

 ユーザー企業からと、ITベンダー、ものづくりの中堅企業とで共同出資でシステム子会社をつくるといったような取り組みです。これは、ユーザー企業側とベンダー側との共同出資で、そこで一緒に働き、同じ会社でユーザーの担当とベンダーの担当が話し合いながらアジャイル開発をすることができます。

 自社のITリテラシーを上げたいときは、自分の会社の営業とか製造の人、システム子会社に1回出向させて戻したり子会社から人を引っ張ったり。ITの子会社の社長を経験させてから本社に戻してCIOにするといったように、雇用問題を起こさずに、うまく人材をまわせる。いま、システム子会社が非常に面白い存在と感じています。

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ベンダーとユーザーの新たな関係が必要だ
(出典:経済産業省)

アジャイルで起こる人材育成の地殻変動

──アジャイルにシフトするとなると、求められるスキルや人物像も変化しますよね。さらに人材も必要になります

中野氏:人材を増やしていくことも、レガシーシステムの刷新に解決策があります。レガシーシステムを刷新すれば、情報システムが非常に効率的になるため、余剰人材が生まれます。その人材は解雇することなく、リカレント教育を施して、営業部門や製造部門などに配置できます。

 実際に会社をヒアリングしてみて、情報システム部門の出身の人材が各部門に配置され、リアルビジネスとITの両方がわかる人材が増えれば、うまくいくことが多いと感じています。

 また、レガシーシステムの刷新は、ものすごい人材教育効果があるという仮説を持っています。レガシーシステムの刷新は失敗すると、会社がつぶれるぐらいの大作業になります。そのため、レガシーシステムの刷新をする場合、業務を大きく変革し、わが社をどうすべきかとか、わが社は今何をやっているのか、あるいはどうあるべきかというようなことまで検討していく必要があります。

 レガシーシステムの刷新は、失敗を許されない上に、全社一丸となって取り組んでいく必要があります。ある大企業の場合、総勢2000人の特殊チームをつくって刷新しました。その2000人のチームに部署を超えて多種多様な人材が集められました。

 これらの人材が集まって「わが社はこれからどうするんだ」とみんなで議論します。そうすると、「うちの会社ってそんな業務やっていたの?」という自社ポートフォリオの見直しから始まり、自分の会社をどうしたいかというビジョンの議論に発展します。このチームは「2000人のチームでシステムの刷新に失敗したら会社がつぶれてしまう」という危機感があり、本気度が違うわけです。

 そういう経験を通じて、全社一丸となって見事にシステム刷新というプロジェクトをなし遂げれば、「よくやった」とみんな誇りを持ってチーム解散し元の部署に戻っていきます。

 プロジェクトに参加した人はもう、ITシステム刷新の経験者です。それぞれの部署で、ソフトウエアがわかる営業、ソフトウエアがわかる製造担当が増え、システムを使ってこのように業務を変えましょうと伝道していきます。システムの刷新をしたら、会社自体がすごく筋肉質になり、意識も変わることができます。

 システムの刷新をするのはいいけど、人材がいませんというのは違います。システムの刷新は単なるコストではありません。人材育成の一環です。人材育成をしないと、システム刷新できないというよりは、システムの刷新をすることで、人材が育つのです。

 システム刷新それ自体が実は壮大なリカレント教育になっているのです。

【次ページ】すべての企業はソフトウエア企業である
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