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- 2019/01/08 掲載
40年ぶりに起きた“おにぎり”イノベーションにみる逆説 「コト」から「モノ」へ?(2/2)
「日本ではこれだけの認知度を誇るおにぎりも、海外ではこれ何? という反応です。この違和感や意外性がネタになるんだろうという感触はすぐにつかめました。日本といえばアニメ、という認知の方が多いことも分かりました。そこでまず、アニメとのタイアップを日本国内で実施することにしました」(関氏)
昨秋に実施した、秋葉原のおにぎり屋「onigiri bento Gyu!」と共同で商品化した『刀剣乱舞』のコラボおにぎりは、実に三週間連続での完売という初回から見事な滑り出しを見せた。蜂須賀虎徹『阿波尾鶏おにぎり』は金シャリ玄米、小竜景光『瀬戸内鯛おにぎり』は白米。シンプルな具材でもキャラクター設定に沿ったレシピがファンの心をくすぐる。戦国武将をおにぎりに印刷して、アニメ作品の世界観を演出することで「モノ」としての価値と、それを買い求め食し、感想をシェアする「コト」としての価値、両軸で成功を収めたというわけだ。
「モノからコト」ではなく、「コトからモノ」へ誘導
「海外展開やネット企業とコラボをすることで、色々な人やお金が世の中には流れているんだなと改めて実感します。“無”だと思われているプラットフォームが生き物になることがある。日本のお米であれば、ガワが変わっても何でもOK、何でも受け止める、そういう懐の大きさこそがおにぎりのウケるポイント。イベントの物販にするにあたっても、ストーリーを見える形にしやすいなと」(関氏)紹介されたのは「コトからモノへの誘導」事例だ。イベント(コト)を起点として、アニメ作品やライセンシーコンテンツとのコラボレーション商品(いわばモノ)を作る。「モノからコト」とは逆説的な表し方になるが、ある意味D2C(Direct to Commerce)的なものと考えると分かりやすい。
来場者数やファンベース(市場規模)がおよそつかめるイベント(コト)に対し、どれくらいの個数を在庫(モノ)として持っていくべきなのかは、定量的観点で見ると合理的で賢い選択だともいえる。どの規模にKPIを置くかはそれぞれによるけれども、むしろSOLD OUTのプレミアを付けてしまう方が次への期待をあおるネタになっていい。そのパブリシティ戦略の見極めや塩梅こそ、マーケティング担当としては腕の見せ所になる。
「全国47都道府県、すべてのエリアで栽培されているのは唯一お米だけなんです。これは野菜穀物含め。たとえば埼玉県飯能市で栽培されている“金の息吹”というお米。ほかのお米にはない価値を持ったお米でも認知はそこまで高くない。これに何か唯一のコンテンツを加えると、唯一無二の組み合わせができることになる。まったく知られていないものでも、ほかにないオリジナルさを極めてしまえば、ブランド価値を高めることはできる」(関氏)
そんな中、前回のBACKSTAGE 2017に参加していた関氏は、ある人物に出会うことになる。肉フェスを手がける遠藤 衆氏だ。関氏は次のヒット作を考えるにあたり、さまざまおにぎりを自身で試作して試行錯誤を繰り返しているところだった。商品開発にあたっては、どんな手法をとっていたのか。
「ひたすら食べました。カレーをかけたり、丼にしてみたり、思いつくことを色々と試してみて気がついたんです。何だかこのお米、甘味が強くてもちもちしていて胚芽(芯の部分)のプチプチした食感が面白いなと。もしかしたら“焼肉のたれ”に合うのでは、と思ってかけて食べ始めたらもう、止まらなかったんです(笑)。健康云々の前に“肉に合う”ってシンプルに伝えた方が伝わるんじゃないかと。それで、遠藤さんに相談をもちかけたんです」(関氏)
「お米を何とかしたい、という思いを熱く語っていただいて。次の展開を考えているちょうどいいタイミングでお話をいただいた感じでした。肉フェスでもライスは必ず出していますが、これまで特にこだわりもなく白米を出していたんです。“玄米は身体にいい”というイメージは何となくあったので、実際どうなのか栄養観点も調べると、たしかに相性はよさそうなんですよね。なので、玄米おにぎりは肉フェス公認の商品にしてしまおうと。“肉に合うのは玄米おにぎりです”と、言い切ってしまう戦略にした」(遠藤氏)
玄米には、タンパク質を分解するビタミンEの働きを促進する食物繊維が多い。実際に健康面での相性はよく、それについて細かく力説して訴求することもできるが、実際は肉のために開発されたというわけではない。単に、健康に良さそうなイメージのある“玄米おにぎり”を「肉フェス公認」にラベリングしただけで“何となく良さそう”というイメージの格付けが出来上がる。現場では予定在庫がすぐに完売したという。
「買っていかれるのは女性が多い。肉が大好きだけど、健康志向への後ろめたさの感情を払拭するために、“カラダにいい”イメージの玄米が刺さるんですね」(遠藤氏)
世界初の新構想「おにぎり4.0」とは?
おにぎり業界で誰よりもおにぎりを語れる一人として日々さまざまな仕掛けを行っている関氏は、この“肉には玄米”というブレイクスルーからも、おにぎりのイノベーションをさらに推し進めている。冒頭予告でも期待を持たせていたその詳細が、ついに発表された。ある意味、最もアナログ食であるおにぎりのイノベーション、世界初の新構想「おにぎり4.0」として発表されたのが、おにぎりの缶詰だ。
「実は、玄米おにぎりを冷凍保存することは技術的に大変難しい。せっかく大事なお米を1年持たせるために冷凍化を開発したとしても、温度管理や配送の問題もあります。その日のうちに食べなくてはいけないとなると、どうしてもロスが出てしまう。缶詰だと、保存方法は常温でもいいし、どこでも売れるようになります。肉フェスは全国各地で開催されていますが、遠方でも世界中どこで開催しても現場で手に取って貰えるようになります。自動販売機など、無人でも売ることができる。“おにぎりがプラットフォームになる”という、すごい時代が訪れる」(関氏)
「イベントという性質上、在庫リスクを軽減できるのはありがたい。今後、物販ECをやっていくときにも役に立つ。試作段階ですが“肉には玄米”と打ち出して商品化を進めています。発売前、流通前のストーリーが今日もここで生み出されていく。肉に合わせるモノが、おにぎりじゃなくてはいけないというわけでもないんですよ。ツイート数は少ないけれど、サンドイッチに勝機があるかもしれないですし。それを誰がやるかは分からないですけれども、やることに価値があるし、循環があるし、ストーリーが生まれ、ファンが買ってくださるということだと思うんです」(遠藤氏)
海苔にキャラクターを印刷する技術なども発達している。プロモーション用のノベルティ制作にあたってさまざまな商品開発も行われているが、今後はノベルティにはおにぎり、という選択肢がレギュラーなものになるかもしれない。
ところで、おにぎりが関氏をそこまで駆り立てる理由とは何なのだろうか?
「好きで仕方がない、それに尽きます。化石が見つかった話を冒頭でご紹介しましたが、日本人はコメを食べ続けて今日ここに至る。その食習慣を絶やしてはいけないという使命感ですね。どうすればよいのか考え抜いた結果、ツールとして缶詰にもたどり着いたわけです」(関氏)
イベントマーケティングにおけるコンテンツの今後
おにぎりの缶詰、というある意味プラットフォームが確立されたあかつきには、作りたい商品をできる限りロスなく生産するために、クラウドファンディングで可能性を見出していくなどの手法をはじめ、ユーザー自身がリスクを最小限に抑えるかたちで舵を取っていくことも可能になる。そのように、イベントはコトであると同時にあらゆる切り口においてホリゾンタルであるべきではないかという示唆でもある。フード、音楽、ファッション、ビジネス……とさまざまなイベントが乱立する昨今ではあるが、それぞれを縦切りにするのではなく、参加者と主催者という敷居を作るでもなく、まったく知識がなくても興味がそこまでなくても、「楽しむ」という広義の意味でエンターテイメント性がより求められていくことになる。横軸を拡げることで、細分化や分断化によるマーケットの萎縮を攪拌(かくはん)することもできるのではないだろうか。
場内にはイベントロゴの入った市松も準備され、カンファレンス終了後の登壇者に膝を突き合わせるような距離から直接質疑応答ができる「ファイヤーサイドチャット」エリアも用意された。まるでワイドショーで見る記者会見のリポーターの囲み取材のようだ。
協賛企業の展示ブースエリアにはケータリングやソファなどが置かれ、アーティストが待機する楽屋のような雰囲気で、軽食をとったり気軽にネットワーキングできる余白のある空間設計になっている。参加者の趣味嗜好に合わせた演出が面白い。
できる限りの来場者が最前列に近くなるよう、面を増やす工夫としてステージを横長に設置していたり、ディスプレイや音響環境にもこだわっていたり、来場者世代がプライベートで聴いていそうなバンドの楽曲も流れている。カンファレンスのオープニングは、都度、派手な出囃子が鳴る。
ビジネスカンファレンスとはいえ、演出は「フェス感」「バラエティ番組感」「芸能・興行感」が見てとれたように思う。日ごろの一個人としての目線で新たな芽や種に出会う、こういうのがあるんだなと体験してもらう。同じ趣味嗜好や目的のある者同士、ネットワーキングが最大のコンテンツになっていくのも分かる。
行き過ぎたデジタル化の先にあるリアルイベントも目新しい時期も超えると、じゃあ次はどうする、目的の本質はどうなる、効果指標はどうなる、といった現実問題も出てくるのが、テック系文脈のイベントマーケティングの現在地なのかもしれない。協賛企業や来場者のデモグラフィも含め、今後はより「異質なもの、異文化のもの、異なる考え方のもの」に出会うキッカケを作る、ホリゾンタル(横串)な取り組みが実現できるかどうかがカギになるようにも思う。そして事例のPRだけでなく、「なぜそれをやるのか?」を問う本質的な議論も必要だろう。仕組みや場はそろった。あとはコンテンツだ。
瞬間風速的に時価や視聴率の高い「人」頼りになり、ルーティン化してしまうのは焼畑になりがちな界隈では気を付けたいところでもある。企業としては何を目的とするイベントなのか、よりタイトに照準を合わせるタイミングかもしれない。コンテンツ・IP各社としてはNGがなければないほど多忙を極めることになるだろう。各社におけるイベントマーケティングの事例が今後どうなってくるのか、楽しみだ。
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