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- 2018/05/30 掲載
危機管理とは何か、日大アメフト部事件が“致命傷”になった理由

なぜ日大の状況はどんどん悪くなるのか
日本大学のアメリカンフットボール部の選手による悪質なタックルをめぐる問題で、同大学の危機管理体制に対して、連日、メディアは百家争鳴の状態となっている。この問題で日大の対応は、危機管理において失敗を相次いで犯し、状況をますます悪化させていくばかりだ。
筆者は危機管理コンサルタントをしているため、何が悪かったのか意見を多くの人に聞かれる。
結論から言うと、初動の段階で、まず第一に、関西学院大学のアメフト部の選手および関係者に、速やかに謝罪して許しを請うべきだった。
第二に、日大サイドは、内田正人前監督の辞任を含めた自主的に厳しいペナルティーを科して反省の姿勢を示すべきだった。
初動の段階で、この2つが実行されれば、今日のような最悪の状況を免れた可能性がある。「タラレバ」になるが、問題が発生した試合からの流れを整理し、この点を明らかにしたいと思う。
後手に回った日大、初動3日間生かせず
問題は5月6日、東京都調布市のアミノバイタルフィールドで開かれた関西学院大学との定期戦で起きた。関学のクォーターバックの選手に対して、日大の選手が後ろから反則タックルをし、ケガを負わせた。同日時点では、ある新聞社が運営していると見られるアメフトファン向けツイッターで、日大の選手のプレーの危険性を指摘したうえで、別のファンのツイッターの動画のリンクを付けて投稿しており、一部のアメフト ファンを除き、ほとんど話題にはなっていなかった。
事態が急転したのは、翌7日、あるジャーナリストが危険なプレーの詳細についてヤフーの個人ニュースに記事を投稿したことだ。それがツイッターやフェイスブックを通じて拡散し、ネット上では炎上の様相を見せてきた。
事態が悪化していく中、動画を確認した関学は10日、日大に対し、抗議文書を送付。これを受けた日大アメフト部は同日、直接ではなく、ホームページ上で「本学選手による試合中の重大な反則行為について」というタイトルで、事実関係の説明などもなく、単なる謝罪文を掲載した。
しかし、正式な謝罪がない日大の不誠実な対応に業を煮やした関学は、12日に鳥内秀晃監督らが同大学で記者会見を行う。テレビなどが動画を繰り返し流すなど、大手メディアが一斉に報じ、大事件へと発展していった。この時点で事態は容易には収拾できない状況に至っていた。
では、日大アメフト部は、(1)どの時点で(2)何をすればよかったのだろうか。
(1)については、8日から10日にかけての3日間がポイントだったと考える。
一般的に、不祥事は、ネットで炎上してから大手メディアが取り上げるまでのタイムラグがあり、その間の対応が命運を分ける。いったん大手メディアが取り上げられると、情報拡散のスピードに一気に加速がつき、もう取り返しがつかない状況になっているのだ。こうしたネット世論への感度は、内田氏を含む年配の人は鈍感な傾向がある。結局、関学の抗議に対して、日大は木で鼻を括った態度を返したのだ。
(2)については第一に、速やかに出向いて直接、謝罪すべきだった。
動画を見れば、最悪の場合、選手が傷害罪に問われる刑事問題にも発展しかねない危険な行為は明らかで、言い逃れはできないことは分ったはずだ。
3日間のうちに、内田前監督、コーチ、選手が関学の監督、コーチ、選手に対して、誠実に謝罪し、心から許しを請い、それが受け入れられたら、どうなっていただろうか。被害者の処罰感情が和らげば、社会の受け止め方も違ったものになっていただろう。
第二は、自らに厳しい処分を科すことだ。責任を取って、つまり監督辞任の意向を示していたら、どうだろうか。こうした不祥事の事案では、社会が期待する以上の、いわば驚きを伴うような対応が求められる。初動の段階なら、監督辞任というカードは効果があったはずだ。
危機管理は起きてしまったことをなかったことにする魔法ではなく、あくまでダメージコントロールにすぎない。そのダメージをどの程度抑えることができるか、でしかない。
それゆえ、ダメージが拡大する前のスピーディーかつ厳しい対応がカギなのである。
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