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  • 2018/03/22 掲載

国民健康保険が都道府県に移管、透けて見える「負担増」の思惑

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慢性的な赤字に陥っている国民健康保険の財政運営が4月、従来の市区町村から都道府県に移管される。国民皆保険制度がスタートした1961年以来の大改革で、広域化により国保財政の基盤を安定させるのが狙いだ。しかし、市区町村で異なる保険料は当面、統一が進まず、激変緩和措置で抑えられる保険料率も今後、上昇が避けられそうもない。立教大コミュニティ福祉学部の芝田英昭教授(社会保障論)は「保険料率の上昇で滞納が増え、さらに保険料率が上がる悪循環に陥りかねない」とみている。国民健康保険の前途には暗い影が漂っている。
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2018年度から国民健康保険の財政運営の主体が市町村から移管される和歌山県庁。和歌山市など25市町村で保険料が下がる見通しだが、紀美野町など5市町は上がる見込み
(写真:筆者撮影)

財政は火の車、広域化で安定目指す

 国民健康保険は自営業者や農林水産業者、非正規雇用者、年金生活者らに保険給付する公的医療保険。運営は医師ら地域の同業者で作る国保組合を除き、国民皆保険制度がスタートして以来、市区町村が受け持ってきた。だが、財政は火の車だ。

 厚生労働省によると、市区町村の一般会計から赤字の穴埋めに投入された繰入金を除く2016年度の実質赤字額は1,468億円(速報値)。前年度より1,354億円少なく、ほぼ半減している。

 国保財政は近年、年間3,000億円前後の赤字で推移してきただけに、状況が改善したようにも見えるが、2015年度から公費支援金を1,700億円上積みしたうえ、加入者が3,013万人と前年度より170万人減ったからにすぎない。

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市区町村国民健康保険の実質赤字

 これまで国保財政を支えてきた農林水産業者や自営業者が減る一方、医療費のかかる高齢者や所得の低い非正規労働者が増え、慢性的な赤字の解消ができていない。毎年の赤字は市区町村が一般会計からの繰り入れで穴埋めしている。

 保険料の上昇に対し、加入者から「高すぎて払えない」との不満が上がっている。所得が年250万円の30代夫婦と子供1人の世帯だと、国保料は大阪市で年約35万円。所得の1割を上回っている。市区町村間の保険料格差も、長野県で3.6倍の差が生じるなど広がる一方だ。

 このままでは人口の少ない町村で収支が行き詰まることが考えられるとして、財政運営の主体が4月から都道府県に移管される。公費支援金をさらに1,700億円積み増すとともに、広域化のメリットを生かして財政基盤を安定させようとしているわけだ。

 保険料はこれまで、市区町村が個別に設定してきたが、移管後は都道府県が市区町村ごとに住民所得や医療費などから標準保険料率を算定し、市区町村が都道府県に納める総額を示す。市区町村はこれらを基に実際の保険料を決め、徴収を進める。

一時的に保険料抑制も将来は上昇の見込み

 一般会計からの赤字補てんについて、厚労省は住民の税金を国保加入者だけに使うのが公平でないとして、解消するよう求めている。しかし、保険料の大幅上昇は加入者の生活基盤を揺るがしかねない。そこで、多くの都道府県が激変緩和措置として国費の上に自前の公費を加え、保険料の上昇に歯止めをかけようとしている。

 北海道が道内177市町村(一部広域連合)の2018年度の保険料を試算したところ、世帯ベースで半数を超す93市町村の負担が増えることが分かった。このため、道は1人当たりの保険料が前年度と比べて2%を超えて増えないようにする激変緩和措置を講じ、大部分の市町村で保険料を前年度以下に抑える。

 道内の年間医療費は最も高い初山別村が60万4,000円。これに対し、最も低い別海町は24万8,000円と2.4倍の開きがある。北海道国保医療課は「急激な保険料アップを避けるために導入を決めた。これでスムーズに移管できるのでないか」と述べた。

北海道が試算した道内主な自治体の保険料収納必要額
(単位:1,000円)
2018年見込額激変緩和額2016年増減(%)
札幌市39,543,299044,909,169▲11.9
函館市5,662,47706,622,016▲14.5
旭川市6,648,27808,341,056▲20.3
釧路市3,285,64703,690,977▲11.0
江別市2,432,434206,3772,500,600▲2.7
紋別市694,7693,771722,484▲3.8
北広島市1,224,38861,1491,231,079▲0.5
石狩市1,359,92848,8661,446,331▲6.0
倶知安町362,78629,677372,999▲2.7
斜里町588,67071,440607,519▲3.1
更別村184,19610,461192,710▲4.4
占冠村37,2160370420.5
(出典:北海道「国保事業費納付金の算定額および市町村標準保険料率等について」から筆者作成)

 京都府が2018年度の被保険者1人当たりの保険料を試算したところ、全26市町村中、長岡京市、大山崎町、南山城村など9市町村で2016年度より保険料が上がるという結果が出た。中でも大山崎町は27.8%、南山城村は20.0%の大幅増だ。

 そこで、府は7.9億円を投入し、保険料の上昇が見込まれる9市町村を中心に保険料引き下げに努める。京都府医療保険政策課は「計算上は全市町村で2016年度より保険料を減額できる」としている。

 このほか、福島県や兵庫県も公費を使った激変緩和措置実施の意向を示している。しかし、激変緩和措置はあくまで一時的な対応。両県とも激変緩和措置の終了後は保険料が上がるとみており、健康づくり活動など医療費抑制に向けた施策が必要とみている。

 これに対し、一般会計からの繰り入れ継続を視野に入れる市区町村は少なくない。和歌山県紀美野町は県の試算で1人当たりの保険料が22%増えるとされたが、月額1,700円余りの上昇を500円程度に抑えることを決めた。

 県の試算では全30市町村のうち、保険料が上昇するのは田辺市、紀美野町など5市町で、紀美野町の上昇率が最も高かった。紀美野町住民課は「財源に何を使うかは決めていないが、急激な保険料の上昇は避けたい」と説明した。

【次ページ】透けて見える医療費抑制と徴収強化の思惑
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