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  • 2017/09/27 掲載

ジャストシステム大復活のワケ、背景にあったのは「人への還元」

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ジャストシステムはいま、「一太郎」や「ATOK」だけの会社でも、経営不振をキーエンスに助けられた「負け組」でもない。「スマイルゼミ」や企業向けシステムを柱に増収増益を続ける超優良企業だ。研究開発型のIT企業は「人こそ財産」と、稼いだ利益を社員に積極的に還元する姿勢を見せている。

ジャストシステムはとっくに「負け組」ではない

 1979年に徳島市で創業し、80年代、日本のパソコン黎明期の「スター」だったソフトウェア開発企業の「ジャストシステム」。中年以上のパソコンユーザーなら日本語ワープロソフト「一太郎」、日本語入力システム「ATOK」を使ったことがあるはずだ。

 8月、北朝鮮情勢などで株式市況が低迷する中、同社の株価は年初来高値どころか「10年来高値」まで更新した。突然の急騰に火をつけたのは、7日に発表された第1四半期(4~6月期)決算。前年同期比で売上高は30.5%増、営業利益は19.2%増、経常利益は25.0%増、四半期純利益は22.6%ときわめて好調。通期業績見通しは非公表で、「売上高2ケタ以上の成長」「過去最高益更新」を目指すと述べているだけだが「前期比でかなりの上積みが望めそうだ」という投資家の思惑を呼んで一躍、大注目の銘柄になった。

 とはいえ、ジャストシステムの好業績は突然降ってわいた話ではない。前年度、2017年3月期の業績も売上高11.5%増、営業利益11.2%増、当期純利益13.7%増の2ケタ増収増益で過去最高益を更新。営業利益の最高益更新は6期連続だった。

画像
ジャストシステムの連結業績の推移

 このように近年の業績は好調だが、株価が4ケタに定着したのは今年になってから。ふるわなかった理由の一つは、同社にまとわりついた「負け組」イメージだろう。

キーエンスとの資本・業務提携と「スマイルゼミ」で復活

 90年代前半まで、「一太郎」は日本語ワープロソフトで圧倒的なシェアを誇る王者だった。しかし1995年にマイクロソフトが「Windows 95」を発売した頃から、それとバンドルされた「Word」にシェアをどんどん侵食され、21世紀に入る頃には完全に王座を譲った。それでも「ATOK」は使い勝手の良さで根強い支持を受け、「ワープロはWordだが、日本語入力はATOK」というパソコンユーザーは、少なからずいた。

 しかし、そのジャストシステムも2006年3月期には赤字に転落。直接の原因は、専門家の評価は悪くなかったXML文書の作成・編集システム「xfy」の販売が想定外の不振に陥り、研究開発や欧米の営業拠点への投資が回収できなくなったこと。最終赤字が4期も続き、財務が悪化した。

 その苦境からの転換となったのが、センサー、計測機器の大手メーカー、キーエンス(本社・大阪市)との資本・業務提携だった。

 2009年4月、約45億円の第三者割当増資を引き受け、筆頭株主になる。当時の出資比率は約44%。役員を派遣して大規模な事業再編成を断行した。不採算事業から撤退し、創業者の浮川和宣社長、浮川初子専務の両氏は退任して会社を去った。ニュースを聞いて、「一世を風靡したジャストシステムも、もうおしまいなのか」と思った人も、少なくなかっただろう。それが「負け組」イメージがついた底流にある。

 株式市場は、事実上のキーエンス傘下入り1年目の2010年3月期で黒字化を達成しても、「リストラ効果」と冷ややかな反応。2011年3月期が減収減益になると「やっぱり弱体化した」と株価は下がり、100円台に低迷した。その頃にジャストシステム株を買っていたら今、20倍ぐらいになっている。

 ジャストシステムは授業支援ソフト「ジャストスマイル」を1999年にリリースし、全国の小学校の8割以上が導入しているというシェアを持つ。学校向け教育事業の基盤の上に2012年12月、新規事業として小学生対象に、タブレットで学ぶクラウド型通信教育「スマイルゼミ」をスタートした。

 専用のタブレット端末で学習する斬新さが受けて会員数をどんどん増やし、2013年12月には中学生コースも加わった。現在は英語のプレミアムコースや難関校受験の新コースなどを順次加えて会員増を図っている。このスマイルゼミがジャストシステムにとっては起死回生の決定打となり、業績右肩上がりの原動力の一つになった。

 2013年8月には登記上の本社を徳島市に残して、本社機能を東京に移転した。2016年3月には生え抜きの福良伴昭社長からキーエンス出身の関灘恭太郎社長に交代し、経営改革を加速させている。

 だが、スマイルゼミが躍進し経営の大黒柱になっても、「個人情報漏えい事件を起こしたベネッセの“敵失”で伸びた」「大手学習塾が本格参入して競争が激化すれば厳しい」「タブレットを使うベネッセの『チャレンジタッチ』は強敵」など、復活はまだ信じられていなかったのか、株価はなかなか1000円の大台に定着できなかった。

 それが8月、株価が急に2000円を超えてさらに上昇した背景には、ジャストシステムの“本業”とも言える「技術力」への再評価や、それへの期待がありそうだ。

研究開発型企業のエコシステムを維持

 経営の大黒柱が「一太郎」「ATOK」から「スマイルゼミ」や企業向けシステムといった新規事業に移っても、キーエンスの資本参加を受けて経営改革が進んでも、ジャストシステムの大きな柱は商品企画力と研究開発体制で、これは創業以来変わっていない。

 成果である製品・システムが収益を稼ぎ出し、それが次世代の研究開発に再投資され、商品企画力とあいまって次の展望が開け、企業が成長していく。

 現状、パソコン市場は縮小均衡しているので、今後「一太郎」の収益にはあまり多くを望めない。ジャストシステムの主な収益源はスマイルゼミと、ファイルサーバ統合管理システム、データベース運用ソフト、データ分析ソフトのような企業向けITシステムである。だがその営業基盤は手堅く、安定した収益をもたらしている。

 毎年のように新しい有望な製品・システムが市場に投入されている。たとえば2016年はクラウド型の営業支援サービスが、2017年には医療機関向けデータウエアハウスがリリースされた。そこにはクラウドサーバ、データベース、セキュリティなど社内で培ってきた研究開発の成果が取り入れられている。

 日本語入力システムの金字塔「ATOK」も、ユーザーの声をもとに改良が加えられるとともに、開発チーム内ではAIテクノロジーと組み合わせるための研究が以前から続けられてきた。2017年2月、変換エンジンに「ディープラーニング(深層学習)」を搭載した新製品「ATOK 2017」がリリースされた。

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