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- 2017/05/15 掲載
諫早湾「ギロチン」から20年、深まる混迷と対立でいまだ出口見えず
食糧難時代の計画が世紀をまたいで完成
有明海の内海に当たる諫早湾では、1950年代から干拓構想が持ち上がり、国営諫早湾干拓事業が世紀をまたいだ2007年に完成した。堤防内の3,500ヘクタールに干拓地と調整池が設けられている。うち農地は670ヘクタール。総事業費2,530億円が投じられた。
2016年度は40の法人や個人が玉ネギやジャガイモ、ミニトマトなどを栽培している。干拓農地の農業生産高は2015年度で30億円を超えた。
構想当時は戦後の食糧難の時代。諫早干潟を水田に変えるのが目的だった。しかし、米余りの時代が到来する。計画面積は当初の1万1,000ヘクタールから3分の1に縮小されたものの、目的はいつの間にか水害や塩害防止に変わっていた。
古い計画が目的を変えながら、ひたすら完成だけを目指す止まらない公共事業と化したわけだ。有明海の環境悪化を懸念する声は早くから上がっていた。しかし、その声は届かなかった。
かつての豊饒の海、貝類などの漁獲量は急減
だが、ギロチンからすぐに異変が有明海を襲う。ノリ養殖が2000年、大規模な色落ち被害に見舞われ、販売枚数が前年より4割近く減少して約23億枚まで落ち込んだ。魚類の漁獲量は1987年に1万3,700トンあったのに、閉め切り翌年の1998年は6,800トン、2014年は最盛期の2割に満たない2,600トンでしかない。
貝類の漁獲量落ち込みも深刻だ。ピーク時の1976年には11万1,300トンを記録していたにもかかわらず、1998年は1万5,400トン、2014年は4,400トン。中でも高級二枚貝のタイラギ漁は現在、5季連続の休漁を余儀なくされている。
二枚貝の死因とされる貧酸素水塊の発生や潮流の変化も相次いで指摘された。漁業者や環境保護団体はギロチンが原因と主張し、国に開門調査を求めている。これに対し、営農者らは「開門すれば農地に水害や塩害が出る」と反発してきた。
「有明海の潮流変化は諫早湾干拓以前の地形変化の影響が大きい」「有明海奥部の貧酸素水塊発生は筑後川から流入する栄養塩を利用して植物プランクトンが増殖したことが関係している」など干拓事業と有明海の環境変化の因果関係を疑問視する研究結果も明らかにされた。その結果、原因を確定できないまま、時間だけが流れている。
日本野鳥の会は「有明海の自然環境は価値が高い。国は直ちに環境の再生へ手を講じるべきだ」、WWF(世界自然保護基金)ジャパンは「湿地の再生は海外でも進められている。保全だけでなく回復の実施も今後、検討してほしい」と現状を憂慮している。
【次ページ】有明海再生に求められる国のリーダーシップ
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