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- 2016/12/05 掲載
待機児童問題解決へ、「オトナな保育園」は未来を作れるか
茶々保育園グループ CEO 迫田健太郎 氏に聞く
待機児童問題が深刻な世田谷区の「公園内に保育園」
共働き世帯の増加に伴い、保育園や保育所のニーズも増加している。しかし、関東近郊を中心とする地域では、用地不足によって新たに保育園や保育所をつくることも難しい状況だ。23区内の中で最も人口が多く、待機児童問題が深刻化しているのが世田谷区である。そんな同区が2016年、国家戦略特区制度を活用することで、公園内に保育園や保育所の設置を認めない「都市公園法」の規制緩和を行い、祖師谷公園内に保育園の建設を実現させた。
その保育園を手掛けるのが、関東近県12園を展開する茶々保育園グループである。
2017年4月に開園予定の茶々そしがやこうえん保育園のテーマは「クリエイティブな保育」である。祖師谷公園内にあるため、一歩外に出れば、緑や川などがあり、自然あふれる最高の立地だ。茶々保育園グループ CEO 迫田健太郎 氏は、この保育園のテーマを次のように説明する。
「一般的な保育園は一歩出れば幹線道路や住宅街という場所が多いですから、茶々そしがやこうえん保育園はそれらとは全く違う環境です。せっかくだから自然をできるだけ保育に取り入れたい。保育園の外が大自然に囲まれているので、むしろ保育園内でできることについては『自然とは真逆』に振ってしまおうと考えました」
ITを駆使した「クリエイティブな保育」を目指す
その言葉通り、保育園内には、コンピューターやインターネットなどのテクノロジーを積極的に取り入れる。子どもたちは公園で見た花や昆虫についてインターネットでより詳しく調べることができ、絵を描くのも紙だけではなく、タブレットも使える。さらに、プレゼンテーション番組「TED」をイメージした部屋「クリエイティブルーム」を設置し、彼らによる発表(プレゼン)の場として活用するという。クリエイティブ保育実現のための「IT活用のポイント」について、迫田氏は「コミュニケーションをデザインできれば良い」とシンプルな考え方をしている。
「子どもたちは、人や衣食住を通じて毎日たくさんの体験をしています。知識を定着させ、次の知的好奇心につなげるのに有効な『アクティブラーニング』の手法で、その体験を毎日アウトプットしていくことが重要です。ITには体験したことを記録し、アウトプットするためのツールとしての役割があると思います」(迫田氏)
保育の課題解決には「保育士の地位向上」が不可欠
迫田氏は「世間では待機児童問題や、保育園や保育所不足が話題になりますが、その背景にある保育士の地位向上こそが一番の課題」と語る。「今は保育園が足りないので、お子さんのいる方にとっては『どこに入りたい』なんて言っていられず、『どこでもいいから入れればありがたい』というのが本音かもしれません。しかし、なんとか入園できたのはいいが、入ってみたら『思っていた環境と少し違う』といった声も聞こえてきます」(迫田氏)
保育士、あるいは保育園や保育所に対してどのようなイメージを持つだろうか。迫田氏は「預かって遊んでいるだけの場所、あるいは両親が共働きだからやむなく預けられている場所というイメージから、まだ脱却できていない」という。
「幼稚園は教育機関で保育園は福祉施設と、それぞれ成り立ちが違いますが、どことなく幼稚園のほうが教育的というイメージがあるのではないでしょうか。しかし、我々のように保育園でも教育的なことをしているし、非常に専門性を持っている。茶々保育園グループの活動を通じて、『保育士はクリエイティブな仕事である』という事実を伝えていかねばならないと思っています」(迫田氏)
保育士がやっていることは専門性があり、未来を作る仕事である――。それを伝えることが迫田氏にとってライフワークであり、保育士の地位向上なしには今の保育士不足や保育所不足は解消されないというのが迫田氏の考えだ。
保育の仕事は、間違いなく未来を作っている
幼いころ、誰しもが「ごっこ遊び」をしたことがあるだろう。茶々保育園グループでは、「ごっこ」にとどまらず子どもたち一人ひとりが社会との関わりを持つ場所を作り、本物の体験をさせている。
「毛糸で作った焼きそばとか、粘土で作ったたこ焼きを使った『ごっこ遊び』は豊かな取り組みです。しかし、ごっこで終わらせるのではなく、本当に社会と関わる場を作るのです。子どもを子どもあつかいせず、彼らが自分で集められるものを持ってきて、地域の方々に売る。相手に伝わらなければ売れないのですから、このコミュニケーションは遊びではありません」(迫田氏)
さらに茶々保育園グループの子どもたちは、ちゃちゃマルシェで集まったお金をどう使うかまで考えてくれるという。迫田氏は「不思議なもので、社会と繋がって産んだ価値は社会に返そうとする」という。
「オモチャや絵本がほしいという意見は、皆で話し合うとそこまで出てこないのです。子どもたちは、個人のお財布からお金を使うのと、皆で集めたお金を使うのとで感覚が違うようで、次のちゃちゃマルシェを開くための材料を買おうとか、寄附をしようという声が出てくる。
ちゃちゃマルシェの活動は、『彼らが将来この社会を作っていくんだ』という実感を得られます。保育は6歳で終わりではなくて、彼らが10歳、20歳となっていく姿を想像しながら、今この6歳までにやる手立てを考える。この仕事は間違いなく、未来を作っています」(迫田氏)
【次ページ】「オトナな保育園」はどうやって生まれたか?
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