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産業が歴史的な転換点を迎えている──PTCのジェームス・ヘプルマンCEOは、12月1日に行われた「PTC Forum Japan 2016」の基調講演でこのように切り出した。ヘプルマンCEOがそう語るのは、「これまで分断されていたデジタルとフィジカルの世界が、IoTによって融合し、いよいよ“完全な世界”が訪れる」とみるからだ。
執筆:ビジネス+IT編集部 松尾慎司
同アジア太平洋地域 統括責任者である桑原宏昭氏は「(昨年は)IoT comingだったが、2016年はIoT is HERE!の年になった」と説明する。実際、PTC Japanでも150の新しい顧客への製品導入が進み、「限りなくダブルディジット(二桁成長)に近い成長を遂げた」(桑原氏)という。
CADの世界で産声をあげたPTCは近年、さまざまな事業買収を実施してきた。PLMのwindchill、ALMのintegrity、SLMのservigistics、そしてIoTプラットフォームのthingworxやvuforia。中でもIoT事業は同分野の「リーダーであることを自負している」(ヘプルマンCEO)までに育った。
IoTをビジネスの中心に据えている同社だが、今後の投資領域として取り組むのが、AR(拡張現実)とVR(仮想現実)だ。すでに事例も出てきている。例えば重機大手の米キャタピラでは、機器の操作マニュアルをARで提供。リース製品などは必ずしも現場のオペレーターが精通しているわけではないため、製品のマニュアルをARを通じて見ることができば、「誰でもいきなり操作することも可能になる」(ヘプルマンCEO)。
またキャタピラ社はVRも活用。VRで自社の建機のデモ空間を作り、バーチャル空間において実際の製品の大きさを体感することを可能にしている。「キャタピラ社はすでにCADやPLMへの投資をせずに、IoTやアフターサービス分野へ投資している。なぜならそのほうが“企業の価値が上がるから”だ」(桑原氏)。
「バーチャルとフィジカルを行き来する重要性」を語るのは、日立製作所 執行役専務 サービス&プラットフォームビジネスユニットCEO 小島啓二氏だ。小島氏は鉄道事業を通じた同社のデジタル化への取り組みを次のように語る。
「従来、日立は鉄道の車両を売るというビジネスだった。それが今は鉄道基地をつくって保守もやるし、運航計画の策定や乗車券の販売までやる。さらには運行状況によって、鉄道の運賃を動的に変えるといったこともやっている。その結果、欧州各国で日立にワンストップでやってほしいと言われるようになった」(小島氏)
ベトナムにおける鉄道事業の提案では、交通渋滞の緩和とCO2排出削減でデジタルをフル活用。歩行者、自動車、バイクの位置データの動きをもとに、地図上に仮想的な地下鉄を引いた場合に、混雑の緩和具合、自動車と歩行者の割合の変化、コストの変化などがすぐにわかるシミュレーターを作成した。
このようにデジタル化の有用性を説く一方、現実のモノを使った取り組みも行っている。ある若手研究者が開発したAIを用いて、鉄棒ロボット、ブランコロボットにそれぞれ振り幅を最大にするという「目標(KPI)」を設定。最初、ロボットはバタバタと試行錯誤を繰り返すだけだが、だんだんとコツをつかみ始め、最終的には体操選手のようになる。
「ただし、このまま放っておくとどうなるかといえば、膝が壊れる。スポーツ選手のように練習をしすぎて怪我をするという事態が起きうるわけだ。これはやはり実際にロボットを動かしてみてこそ得られる結果であり、バーチャルだけで完結するものではなく、フィジカルの世界も行き来する必要がある」(小島氏)
今後はPTCの現場のデータ収集能力、製造業向けライフサイクルアプリケーション群と、日立のIoTプラットフォーム「Lumada」のアナリティクス&AI技術を通じて、顧客を巻き込んだ協創を進めていく意向を示した。
ヘプルマンCEOは最後に、今後、企業が描くべきロードマップとして、現状把握→差別化→新たな価値の提供の順で進めていくべきだと説明する。これは業界を問わずに考えられる。「ファストファッションで言えば、いずれはパーソナライズされた製品がリアルタイムに届けられる世界もありうるということ」。
ヘプルマンCEOは「製品ポートフォリオは一通り揃ったのでは?」という質問に「もっと大きなビジョンがある」と回答。「具体名は挙げられない」としながらも、引き続き買収を進めていく意欲を示した。
本イベントの詳細は以下をご覧いただきたい。
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