0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
IoTなどのキーワードでも語られるように、企業にとって「デジタルビジネス」の重要性が増している。デジタルビジネスとは、デジタルと物理世界を結びつけることで、新たなビジネスを創造する取り組みのことを指す。米ガートナーのリサーチ部門でマネージング バイス プレジデントをつとめるジーン・アルバレス氏は、企業がデジタルビジネス化を進めるにあたって「デジタルビジネスモーメント」に注目するが重要だと指摘する。「顧客が何か問題を抱えた瞬間、つまりそこが新たなビジネスチャンスを生むことができる瞬間だ」という。
顧客エンゲージメントを構成する4つの要素
そもそも顧客エンゲージメントとは何なのか。この点について「ガートナーカスタマー360サミット2016」で登壇したアルバレス氏は、次のように説明する。
「顧客エンゲージメントとは、顧客を魅了しながら、自分たちの組織への参画を促し、その関係を長期に渡って維持していくことに他ならない」
その顧客エンゲージメントは、4つの要素によって成り立っているという。1つめはアクティブ(=行動的)、2つめはエモーショナル(=情緒的)、3つめはラショナル(=合理的)、そして4つめはエシカル(=倫理的)だ。
「もう少し分かりやすい言葉でいえば、まずアクティブ(行動的)とは“私に話しかけて”ということだ。たとえば配車アプリの米Uberは、常にドライバーや利用者と会話をしている。利用者はUberと、自分がどこに行きたいのか、近くにどんな車がいて、だれがいつピックアップしてくれるのかを会話しているし、ドライバーは、利用者がどんな人で、どんな支払い方法で、どこに行きたいのかをUberと会話している」
エモーショナル(情緒的)は、“私を味方につけて”ということだ。
「たとえば米TaskRabbitはさまざまな“お手伝い”をマッチングするサービスを提供している。買い物に行きたいとか、家具を動かしたいといったちょっとした仕事を頼みたい人と、タスカーと呼ばれる便利屋とをマッチングするもので、利用者の日々の業務をタスカーが代行してくれる。これによってサービス提供側と利用者、タスカーとの間に情緒的な関係が生まれてくる」
3つめのラショナル(合理的)は、“私に教えて”ということだ。
「宿泊施設と宿泊希望者とをマッチングする米Airbnbを使うことで、不動産を所有するユーザーは、自分の固定資産の使い方が変わってくる。2012年のロンドン五輪の際には、Airbnbを利用して自宅玄関前の車寄せを駐車場として貸している人もいた。ユーザーが自身の情報を教えてくれることで、より合理的なサービスが提供可能になる」
そしてエシカル(倫理的)は、“私にオープンになって”ということだ。
「クラウドファンディングによる資金調達を支援する米Kickstarterを利用することで、色々な人に、たとえば自分が映画を作るというプロジェクトの一員になってもらうことができる。倫理的な関係を構築することで、お互いがどういう人間なのかを理解することが可能だ。エシカルとは言い換えれば、私のことを知ってほしい、ということにもなる」
顧客が何か問題を抱えた瞬間にこそ、新たなビジネスチャンスが存在する
今の企業が対応すべき課題となっている
デジタルビジネスとは、デジタルと物理の世界の境界線を曖昧にすることで、新たなビジネスデザインを創造するという取り組みだ。そこではヒト、モノ、ビジネスが同等の実体として結び付くことになる。
「デジタルビジネスでは、ソーシャル、モバイル、クラウド、インフォメーションという4つの力の強固な結び付きが基盤となる。これら4つの力が融合することでプラットフォームができ、その上にデジタルビジネスを構築することが可能になる」
企業の多くがすでに取り組みを開始しており、ガートナーの調査によれば2015年で22%、2017年に50%、2020年には83%の企業が「デジタルビジネスになる」という。
またデジタルビジネスには、促進剤としてIoTが作用することになるという。2020年にはパーソナルデバイスが73億台になり、センサーを搭載した300億個のモノがインターネットにつながると言われている。今の世界人口を基準にしても約5倍だ。「4つの力の結束とIoTをベースとしたインターネットビジネスが融合することで、デジタルビジネスが生まれる」という。
そしてアルバレス氏は、「デジタルビジネス化を進めるに当たっては、1つ重要なことを認識しなければならない。それが“デジタルビジネスモーメント”という瞬間だ」と強調する。
デジタルビジネスモーメントとは、「顧客が何か問題を抱えた瞬間、つまりそこで新たなビジネスチャンスを生むことができる瞬間のこと」をいう。
たとえば、あるビジネスパーソンが出張する際、悪天候で飛行機が遅れるという事態が発生し、それでもその人が出張を継続するという決定を下した時が「デジタルビジネスモーメント」だ。
その人のスマートフォンに搭載されているバーチャルパーソナルアシスタント(VPA)のアプリは、すぐに航空会社に新しい便の予約を行い、レンタカー会社とホテルに対して遅れることを連絡し、さらに出張先で会議に参加予定の人たちにも遅れる旨を伝えてくれて、飛行機チケット、ホテル、車の再手配を行い、会議室も改めて予約してくれる。そして一連の処理が終わった後には、その結果をスマートフォンに通知してくれる。
さらにVPAは搭乗した飛行機内でもずっと機能し続けており、レンタカーの電子キーをスマートフォンに取得する。そしてレンタカーには目的地のGPS情報が既に連携されているので、この人は現地で最適なルートを辿り、何時までに目的地に到着する予定かも分かっている。
会議参加者にはその時間と、新たに予約した会議室の場所が改めて連絡されることになる。また出張から戻ってきた後には、経費精算に必要なすべてのレシートをVPAが集めて、レポートを作成してくれる。
「これらがまさにデジタルビジネスモーメントで、顧客をよく観察すれば、彼らの問題を解決できるビジネスチャンスはたくさんある。今では多くのモノがセンサーを搭載し、さまざまなデータを収集することができるようになっている」
企業は取得したデータをより速く分析し、より速くビジネスモーメントを発掘していかなければならない。また現在デジタルビジネスモーメントをサポートできるテクノロジーは既に存在している。しかし、課題となるのは、そうしたテクノロジーをどう接続して、先ほど例に挙げたシナリオのような体験を提供することができるのかという点だ。
「テクノロジーの連携とシナリオの提供が、デジタルビジネスモーメントの課題となっている」
【次ページ】スタートアップと組むだけでは勝者になることはできない
関連タグ