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社会が加速し続ける現代。より効率的な時間の使い方というものを考えるとき、睡眠時間のことは、まず一番に思い浮かぶだろう。あるいは、ストレス。眠りたいのによく眠れない、という悩みもごく一般的だ。どうすれば、睡眠をマネジメントすることが可能なのか、また、どんな手法が合理的なのか? 睡眠専門医としてビジネスパーソンの生活習慣改善の取り組みを続ける筆者が、医師としての知見から、ビジネスの現場に寄り添った実践的なアドバイスを示す。
良質な睡眠で仕事のパフォーマンスはグッと高まる
たっぷり眠ったはずなのに日中に強烈な眠気を感じてしまう…。せっかく寝つきがよくても深夜に何度も目が覚めてしまう…。体は疲れているのにベッドに入ると妙に頭が冴えて眠れない…。毎朝起き上がるまでに1時間以上かかる…。
このような悩みを抱えた人たちは、多いのではないでしょうか?
厚生労働省の調査によると、約5人に1人が「何らかの不眠症状がある」と回答しています。また別の統計によると、不眠症人口は約2400万人、気道が塞がってきちんと呼吸ができない睡眠時無呼吸症候群は約200万人というデータもあります。
ただ、これらは顕在化している人だけの数値です。睡眠障害が原因で倦怠感や集中力低下などが起こっている「隠れ不眠症」の人を含めれば、その数はもっと膨大になるのではないかと思われます。睡眠に関する悩みが本格的にクローズアップされ始めたのは1990年代から。その後、不眠症は患者増加とともに深刻化しています。
これは24時間社会、ストレス社会といわれる現代の社会環境も関係しています。ワークスタイルや生活環境の多様化により、「日の出とともに起きて、日の入り後に自然な眠気とともに眠る」というような原始的な生活パターンは、もはや現実的ではありません。長時間残業が当たり前となり、約40年前と比べて1時間近くも睡眠時間が短くなっているという報告もあります。
ただ、睡眠時間が短くなったからよくない、というだけの問題ではありません。睡眠は量よりも「質」です。
同じ6~7時間の睡眠でも、細切れだったり、不規則な周期だったりすると睡眠の質は低下します。気道が閉塞した状態の呼吸障害(いびき)や、大量のアルコールを飲んだことによる昏睡状態での入眠も、翌日の倦怠感や集中力低下を招く原因となります。
また、「睡眠は長ければ長いほどいい」ともいえません。眠り過ぎは体に負担がかかるほか、体内時計を狂わせるリスクがあり、かえって睡眠の質を落とすことになりかねません。
一方で、短時間睡眠でもいくつかの習慣や心がけによって、目覚めもすっきりして入眠もスムーズな「上質な睡眠」に導くことができます。「早寝早起き」は昔から伝えられている生活習慣のすすめですが、快眠のコツはそれだけではありません。
そこで、生活パターンの変更がきかないビジネスパーソンをはじめとして、すき間時間の活用や心がけ次第で誰にでも実践できる睡眠のマネジメントを簡単に紹介していきます。
眠りのサインは「夕方」にキャッチする
昼間はあんなに眠かったのに、ベッドに入るとなかなか寝つけない…。そんな悩みを持つ人が、次々と私のクリニックに訪れます。
仕事のことが気になって寝つけないという人だけでなく、とくに大きなストレスはないのに眠れないという人もいます。状況は様々ですが、第一に実行していただきたい解決のヒントは、皆さん共通しています。
それは、夕方以降の「体温コントロール」です。
後述しますが、眠気は体の奥の体温が高い状態から低い状態に下がる落差によって、グッと大きくなります。この体の中心部の体温のことを、深部体温といいます。夏場、とても暑い外から冷房がきいた室内に入ると、心地よくなってうたた寝したくなるのは、深部体温が急に下がったためです。
ただ、実は人間の体は冷房がなくても、自然と温度が上下するようにできています。下がり始めるのは起床から11時間後。仮に朝6時起床の場合、17時頃に最も体温が高くなり、その後夜にかけて徐々に下がっていきます。夜に眠気を感じたとき、手の平が熱くなったことはないでしょうか? あれは熱を放出しているからです。このように、人間の生体リズムは、夜には自然と眠れるようになっているはずなのです。
つまり、ベッドに入っても寝つけないのは、ストレスの問題以前にこの生体リズムが崩れている可能性が高いといえるのです。
肝心なのは、夕方にいかに深部体温を上げるか、ということ。
先述の通り、夕方に体温のピークが来るのは朝6時の起床によります。ただ、一度や二度この時間に起きたくらいでは、体温のリズムはほとんど修正できません。単純な眠気のサイクルと違って、体温のリズムは一度慢性的にズレると、なかなか治らないという人体の法則があります。
とはいえ、打つ手がないわけではありません。解決法は単純です。夕方に、簡単なある運動をするだけでいいのです。
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