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  • 2015/06/10 掲載

エリートはなぜ不幸になるのか? 守屋洋がひもとく世界最高の処世術

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『菜根譚(さいこんたん)』とは、中国の明の時代に記された書物。かの田中 角栄も愛読していたという。何となく料理レシピ本のようにも思える題だが、その内容は、処世訓である。明の末期の争い乱れた混迷の世を生き抜いてゆくための、知恵が詰まった古典だ。先の見えない情勢の中で、生き残るにはどうすればよいのか…それはビジネスパーソンの思考そのもの。そんな『菜根譚』を、中国文学者の守屋 洋がひもといてくれる。
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組織でしたたかに生きるには

 「この人生、山あり谷あり、それをどう乗り越えていくのか」

 そのことに多くのビジネスパーソン、経営者が悩んでいます。

 しかしこの手の悩みは、なにも今に始まったことではありません。昔から先人たちも、みなこの問題で悩んだり、苦しんだりしてきました。つまり中国古典の得意とするテーマで、あらゆる古典がこの問題を取り上げています。

 なかには、「そんなこと、今さら教えてもらう必要はないよ」と思われる方がいるかもしれません。たしかに、この人生を五十年も六十年も生きてきますと、誰でも「こういうときにはこうすべきだ」とか「こんなときにはあんなことをしてはいけないんだなあ」とか、自分なりの知恵を身につけていくものです。

 しかし、そういう方でも、あらためて中国古典をひもといてみますと、自分の経験をはるかに上回るような素晴らしい知恵がたくさん説かれていることに気づくはずです。

 『菜根譚』も、さまざまな角度からこの問題について語りかけています。「まったくそのとおりだなあ」と共感できる部分もあろうかと思いますし、その逆に、今までの自分の生き方とはずいぶん違った知恵が語られている部分もあろうかと思います。

 共感できる部分があれば、それだけ自分の生き方に自信が持てるようになりますし、また自分の生き方とは違った知恵に触れることができれば、それだけ人間としての幅を広げることができるでしょう。

 いずれにしても、『菜根譚』のアドバイスに耳を傾けるなら、この厳しい現実を、もっとしなやかに、もっとしたたかに生きていくことができるかもしれません。

「才能を見せびらかしてはいけない」

巧を拙に蔵し、晦を用いて而も明に、清を濁に寓し、屈を以って伸となす。真に世を渡るの一壺にして、身を蔵するの三窟なり
「才能を内に秘めながら無能をよそおい、明察でありながら知恵をひけらかさず、濁流に身を置きながら清廉を保ち、身を屈して将来の飛躍に備える。このような態度こそ、「中流の一壺 」や「三窟」の教えにかなう処世の秘訣なのである」
 「巧を拙に蔵す」。「巧」とは、優れた能力。「拙」とは、無能。優れた能力を内に秘めながら、無能をよそおうという意味です。

 「晦を用いて而も明に」。「晦」とは、隠すということ。ですから、なんにも知らないふりをしながら、じつはなんでも知っているということです。

 「清を濁に寓す」。「清」とは清廉。「濁」とはその反対。濁流のなかに身を置きながら自分は清廉を貫く。

 「屈を以って伸となす」。いったんは身を屈して将来の飛躍をはかるという意味です。

 「一壺」については「中流の一壺」という有名な諺があります。

 舟に乗って河を渡っているとき、舟が難波して河のなかに投げ出されたとします。

 そんなとき、頼りになるのが、浮き袋です。だから、ふだんはあまり役にも立たないような「壺」(ひょうたん)でも、千金の値打ちが出てきます。

 それと同じように、ふだんはそれほど目立つ存在ではないのに、いざというとき、力を発揮して大活躍してくれる、そんな生き方を指しているのが、「中流の一壺」という言葉です。

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 また、「三窟」とは三つの穴という意味ですが、これについても「狡兎と三窟」という有名な諺があります。

 愚かな兎は、自分の穴を一つしか持っていない。だから、その穴がつぶされたら、それでおしまい、もう生き延びることはできません。その点、「狡兎」すなわちずる賢い兎は、ふだんから自分の穴を三つも掘って危険分散をはかり、常に生き延びることを考えているのだと言います。

 「中流の一壺」にしても「狡兎三窟」にしても、いずれもしたたかな処世の知恵と言ってよいでしょう。

 『菜根譚』によりますと、この二つに勝るとも劣らないのが、先の四つの生き方だと言うのです。

 たしかに能力や才能というのは、ないと困ります。だからといって、表に出しすぎると、警戒されたり、反発されたりして、ろくなことにはなりません。かりに持っていても、自分のなかに深く秘めておくのが賢明な生き方というものでしょう。できれば、知っていても知らない振りをする、こういった芸当なども身につけたいところです。

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