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2011年に発生した東日本大震災は、我々生活者が日々の行動を見直すきっかけになっただけでなく、企業にとっても自社の在り方を改めて考え直す大きな契機となった。慈善活動やCSRといった従来の取り組みを超えて、今後企業は社会の中で、どのような役割を果たしていくべきなのか。その1つの答えとなるのが、企業と地域社会を共に発展させる「共通価値」の創造だ。ハーバード大学 教授のマイケル・E・ポーター氏が日立イノベーションフォーラムで語った。
従来の社会貢献のための企業活動は「フィランソロピー」と「CSR」
はじめにポーター氏の提唱する「共通価値(Shared Value)」について整理しておこう。共通価値とは、“企業がビジネスを展開する地域社会の社会的かつ経済的状況を発展させるとともに、企業の競争力を向上させる企業方針とその実践”と定義されるものだ。
端的にいえば、企業と地域社会の発展を同時にもたらしてくれる企業活動、と捉えることができるだろう。つまり共通価値の創造とは、社会の向上を、企業が経済価値の創造の中に組み込むことだといえる。
これまで企業は、社会においてどのように存在してきたのか。この点についてポーター氏は、社会貢献という観点から大きく2つのステージがあったと指摘する。「フィランソロピー」と「CSR」だ。
フィランソロピー(=Phinanthropy)とは、直訳すれば慈善活動、社会貢献活動、といった意味になるが、具体的にポーター氏が挙げたのは寄付金だ。企業利益の一部を、社会的な問題を解決するための活動を行っている組織や団体の寄付に充てるという活動である。
たとえば30~40年前の米国では、成功している企業は税引前純利益の5%をボランティア活動を行っている団体に寄付するというのが一般的だった。また最近のインドでも2%を還元しようという動きがあるという。
「フィランソロピーは社会貢献できる非常に良い行いだ。しかし直接的な問題の解決には繋がらず、その効果は低い。社会に大きなインパクトをもたらすまでには至らない。」
そこで企業はより広義なコンセプトを生み出した。それがCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)だ。
企業はさまざまな責任を持っている。たとえば地域社会の基準を満たすこと、あるいは法律を順守するといったことだ。また環境汚染などで社会を傷付けることで、自社の今後の事業活動そのものを運営できないという事態を招かないための持続可能性も求められる。
「CSRはここ10~15年の間に出てきたコンセプトで、企業が社会に対してどういう責任を持つのかを考えたものだ。フィランソロピーよりも一歩前進したものだといえる。しかしこの活動が社会問題を解決するのかと問われれば、確かに一助にはなるかもしれないが、完全に解決できるわけではない。」
そこでさらに次のステージとしてポーター氏が提唱するのが、共通価値の創造(=CSV:Creating Shared Value)という考え方だ。
今後企業に求められることは、ビジネスモデルによる社会貢献
従来のフィランソロピーやCSRは、いわば事業で作った価値の一部をその他の目的に割り当てていくものだった。しかしCSVはまったく違うものだとポーター氏は強調する。
「CSVは社会的な問題を解決できるだけでなく、企業の経済価値も同時に上げることができる。最も強力な形で社会問題に対応できるものだ。」
企業は自社の保有する技術や技能を使って解決できそうな社会問題を探す。一番影響を与えることができそうな領域を探すのだ。そこで単に利益を上げることを考えるのではなく、同時に社会問題を解決できるようなビジネスモデルの構築を模索する。そうすれば利益はさらに拡大していく。
「社会のニーズや課題を理解することで、企業には大きな市場創造の機会が生まれることになる。そこで自社の強みを活かして社会問題を解決することでイノベーションを起こすことができ、市場もより拡大していくことが可能となる。」
CSVとは、企業の利益と社会への影響を同時に上げていくということだ。これからの企業は、単にお金を出すのではなく、ビジネスモデルを作って社会問題を解決していくという発想に頭を切り替えていくことが求められている。
【次ページ】経済価値と社会価値はトレードオフではなく、むしろシナジー効果のあるもの
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