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- 2006/07/03 掲載
【一橋大学大学院 竹内弘高研究科長】コスト競争の時代は終わった、戦略なき企業に未来はない
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一橋大学大学院
国際企業戦略研究科 研究科長
竹内弘高
国際基督教大学卒業。カリフォルニア大学バークレー校にて、MBA、博士号を取得。ハーバード大学経営大学院助教授、一橋大学商学部教授、ハーバード・ビジネス・スクール客員教授などを経て、現職。専門分野はマーケティング(新製品開発)競争戦略、インターナショナル・ビジネス、知識経営など。
著書も多く、野中郁次郎氏との共著である『The Knowledge-Creating Company』は、1995年度の全米出版協会のベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー賞(経営分野)を受賞。
─ポーター賞を設立された目的とはなんですか
竹内●ポーター賞は、日本企業の競争力向上に寄与することを目的として創設されました。競争戦略のゴールは利益性にあり、それを高めるためには戦略とイノベーションが欠かせません。ポーター賞ではこの2点に主眼を置いて、毎年1回、独自性のある戦略を実践し高い利益性をあげている日本企業を表彰しています。さらに、受賞企業を広く紹介することで、戦略の重要性を理解してもらい、競争戦略の理論と実践が日本企業に根付くことを目指しています。
時代は変わった 戦略こそが、競争の“鍵”
─そもそも、ポーター賞を立案されたきっかけは竹内●2000年、ポーター賞という名前の由来でもあり、同賞のアドバイザーでもあるポーター教授と『日本の競争戦略』(ダイヤモンド社)を出版しました。内容は、戦略の重要性と日本企業の競争力向上に向けての打開策について書きました。さらに、書籍に込めたメッセージを何らかの形で具現化したいという思いもありました。 折りしも、この書籍が出版された翌年の2001年は、日本企業の発展に大きく貢献してきたデミング賞が創設されて、ちょうど50年の節目でもあったのです。
デミング賞は、企業がオペレーションの効率化によってコスト削減や品質向上を追求することをサポートしてきました。70年代から80年代、多くの日本企業では、全社的品質管理(TQC)が実践され、それによって日本企業は国際競争力を高めていきました。
しかし、50年経った現在、その戦略だけでは限界を迎え、競争優位を保つことが難しくなってきてしまったのです。オペレーションの効率化によるベストプラクティスは、模倣しやすく、やがては追いつかれてしまうという現実があります。
実際に、米国企業はITを活用することでオペレーション効率を飛躍的に高めることに成功しました。アジア諸国の企業力も、底上げされてきています。
日本企業がさらなるイノベーションを達成するためには、独自性の高い戦略を打ち出し、それを実践することが重要なのです。日本企業が新たな局面を迎えた今、ポーター賞を通じて、戦略こそが競争力向上の要であることを啓蒙していきたいですね。
─ポーター賞に、企業が応募するメリットはなんでしょうか。受賞できなかった場合でも、得られるものはありますか
竹内●応募企業の審査は、1次と2次に分かれていて、1次では、「優れた収益性」、「他社とは異なる独自の価値の提供」、「戦略の一貫性」、「戦略を支えるイノベーション」について、2次では、「資本の効率的な利用」、「独自のバリューチェーン」、「トレードオフ」、「活動間のフィット」について審査が進められます。
応募する企業は、これら八つの基準について、要件をまとめなければなりません。実際に応募された企業からは、「その作業を行うだけで、自社戦略の本質が分かり、強みや足りない部分などが見えてきた」という意見を聞きました。応募のプロセスが、戦略論のエッセンスを学習することにもなるわけです。
受賞企業は、メディアなど多方面で紹介され、戦略的優位性をアピールすることができます。例え受賞できなかった企業でも、12月に開催される授賞式に出席し、ポーター教授と直接対談できるセミナーに参加する機会が与えられます。
さらに2次審査に進んだ企業は、ポーター賞運営委員と対面式で実施するセッション、審査内容のフィードバック・セッションという貴重な機会を得ることができます。加えて、KPMG社の協力で作成した業界平均との業績比較データなどが入手できます。自社の戦略で欠けていたものがなんなのかを知る、またとない“気付き”の機会になっているといえるでしょう。
また、受賞企業以外は、完全に非公開です。企業は、リスクを負うことなく応募することが可能で、さまざまなリターンを得られるわけです。応募するプロセス自体が、今後の企業戦略を策定する際に大いに役立つことでしょう。
激化する競争を勝ち抜くには高い利益性の実現がポイント
─かつての日本企業は、低価格商品の量産で飛躍を遂げ、次に品質向上というパラダイムシフトを経た現在、戦略による競争への転換点に差しかかっています。新たなパラダイムシフトを迎えた背景には、どのような要因が考えられますか竹内●端的にいえば、競争の激化でしょう。冒頭でも申し上げましたが、TQCで台頭してきた70年代以降、日本企業の製品は品質の面においては、世界で群を抜いていました。どの国の企業も、追い付くことができませんでした。日本企業は、オペレーション効率に関して、完全にグローバルスタンダードをつくりあげ、世界をリードしていたのです。
80年代に入ると、日本のベストプラクティスをアジアの国々が勉強し始めました。その結果、オペレーション効率だけの競争では、早晩追い付き、追い越されてしまうでしょう。
─競争戦略のゴールは利益性にあるというお話しですが、長期的に高い利益を上げるためのポイントとなるものはなんでしょうか
竹内●企業が長期にわたって利益を上げる方法は、二つの要因に集約できます。一つはコストを下げること。もう一つは、WTP(Willingness To Pay:支払意志額。商品・サービスの購入にあたって消費者が支払ってもよいと思える金額、価格のこと)を上げることです。コストを下げれば、当然利益は増えます。また、WTPを上げれば、一般的に販売価格も高くなるので、より多くの利益が確保できます。
これまでの企業においては、コスト競争でいかに優位に立つかということがより重視されてきました。しかし、その戦略には限界があります。利益を長期的に確保するためには、WTPをどうやって上げていくかを考えるべきです。それには、他社にまねのできない独自の戦略とイノベーションが必要になるわけです。
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