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「企業ITがフォーカスしていることは、この何十年間で何も変わっていない」と指摘するのは、ガートナーリサーチの亦賀忠明氏だ。1970年代のメインフレーム時代から始まり、オープン化が進んだ1990年代、クラウド化へ移行を遂げた2000年代。いずれの時代も主要課題は「業務の維持」と「コスト削減」が中心であった。しかし、こうした課題解決を追っていればよい時代は終わった。企業が新たな成長ドライバーとしてITを活用するには、未来を塗り替えるテクノロジーを取り込んだ“テクノロジー駆動型ビジネス”へと取り組む必要があるという。
クラウドとビッグデータが、従来と異なるIT循環をもたらす
Windowsが登場してから約20年、最近では「PC時代は終わった」という共通認識も醸成されつつある。ITインフラストラクチャ&データセンター サミット 2012に登壇したガートナーリサーチの亦賀忠明氏は、「従来のクライアント・サーバという関係は、新たにデバイス・データセンターという関係に変わろうとしている」と指摘する。もはやデバイス・データセンターが1つのアーキテクチャーとして機能し、ユーザーが必要なときに必要なサービスを提供する仕組みになっているのだ。
さらに重要な点は、こうしたデバイスとデータセンターの関係が「クラウド」と「ビッグデータ」という新たなキーワードによって、従来と異なるIT循環をもたらすということだ(
図1)。この循環は、「人」「モノ」「金」「情報」といったすべてを包含し、ビジネスや社会そのものを地球規模で変えるものとなりえるというのだ。亦賀氏はこれを“スーパーパワー”と呼び、「(スーパーパワーで)世の中は変わっていく。全自動のビジネスシステムがリアルタイムで実現できるような時代になる」と近未来を予測する。
たとえば、ソーシャルネットワークの代表格といえる「Facebook」の登録ユーザーは、2012年4月現在で9億人を超えた。これらを支えるサーバやデータセンターにはオープンソースの考え方が導入され、自らの力でシステムを開発し、それらを革新させようという動きもある。こうした動向はGoogleでも同様だ。いずれも世界各所で新しい巨大データセンターが建造されている現実があり、これらの現象を説明するには、既存のITだけでは語れないものがある。
データセンターには、競争が熾烈化しているスパコンのパワーも応用されている。今後のスパコン競争は、汎用の低消費電力プロセッサーを大量に接続するなど、性能のみならず消費電力と構築コストとの戦いになる。このようなテクノロジーの進化は、従来の常識を超えた処理能力を実現することになるわけだ。
「HPは、1台のラックに3000台の物理サーバを搭載するプロジェクトを推進中で、これが普及すれば日本でも最大クラスのデータセンターに1000万台を超えるサーバが用いられることになる。そしてIBMやオラクルといったグローバルベンダーも、サーバ、ストレージ、仮想化、マネジメント、セキュリティなどの機能を盛り込んだ新たな統合システムを提示しているところだ」(亦賀氏)
すべてのビジネスは自動化へと向かう
では、このような革新的なテクノロジーに向けて、企業はどのような対応をとるべきなのであろうか。
1ラック3000台、サーバ1000万台などという数字が出てくると、「こんな大きな話は自分たちには関係ない」と思う読者も少なくないだろう。しかし、新テクノロジーによってデータを地球規模で扱えるようになり、夢の世界だったサービスが現実味を帯びてきているのも事実だ。産業、業種・業態によっては、テクノロジーにより産業そのものが大きく変貌することを考えれば決して無関係な話ではない。
いまや東京を走るタクシーの移動データはリアルタイムに把握されている。ゲートブリッジの疲労データ(1億以上のビッグデータ)をセンサーから収集し、橋の点検工数やコストなどを削減したり、地震後のサービス再開に活用しようとする事例もある。株式市場ではコンピュータによる自動高速取引の時代が訪れ、ゼロレイテンシーを巡る熾烈な戦いが始まっている。
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