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  • 2011/01/11 掲載

自社ブランド展開で下請けからの脱却を図る下町の革小物製造会社:中堅・中小企業市場の解体新書(23)

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隅田川の支流、竪川沿いに位置する老舗革製造会社が打ち出す「脱下請け」のポイントは「IT」と「人脈」だ。高級ブランドの革製品を作り出す職人の技術と惜しまない材料へのこだわりが、同社の自社ブランド化戦略を後押しし、次の10年に向かって突き進んでいる。家族経営の温かな雰囲気の職場に、ITをどのように生かして展開するのか、革製造会社「東屋(あずまや)」を実例にその取材内容をお届けしよう。

隅田川のほとりにある革製造会社「東屋」

 従来、良い材料を仕入れる、腕の良い職人を抱える、良い仕事をする(製品を作る)という、いわゆる職人気質の製造業者が日本の経済を支えていた。しかし、景気の悪化やデフレの進行に伴い、いつの間にか、安いことだけが唯一無二の優先項目になりつつある。このままでは多くの優良な中小の製造企業は淘汰されるのではないか。あるいはこうした企業が持っていた「良い製品作りの矜持」を失いかねない。

 このような日本を支えてきていた企業文化を、企業自身、あるいは地域の企業同士、さらには自治体や業種間で継続的に守っていこうという動きが見え始めている。当連載の第21回でも取り上げた「足立区中小企業支援課」で行っている異業種交流会やマッチングクリエイターによる支援活動もその1つと言えよう。

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5代目社長の木戸詔一氏(右)と6代目社長になる予定の木戸麻貴氏(左)
 今回ご紹介するのは、両国国技館の近く、隅田川沿いの下町で「袋物博物館」を運営し、地域・事業起こし活動を行っている社員数5名の革製造会社「東屋(あずまや)」だ。

 この「袋物博物館」は両国駅から徒歩7分、隅田川の支流、竪川沿いに位置する。自社ビルの2Fに400万円程度の内装費用をかけて6年前に開設した。店舗の立地は決して良いとはいえないが、墨田区で提唱している「小さな博物館」運動(注1)に認定され、観光ルートマップに掲載されているほか、雑誌などの媒体にも多数紹介されている。

「東屋の歴代社長」
初代 大正3年(1914年)木戸政吉により、
木戸商店として現場所にて創業。
2代目木戸昌平
3代目木戸久平 昭和23年に 有限会社 東屋とする
4代目木戸好子
5代目木戸詔一 平成元年より代表を務め現在に至る
6代目(予定)木戸麻貴 
 東屋の社屋のある場所は、第2次大戦時の折に空襲を逃れており、古い屏風も残っているなど趣深い場所だ。袋物博物館を通して、同社のあゆみや精神を理解してもらうことも企図しているほか、隣接しているショップでは東屋オリジナルの革小物製品や一点物も小売販売している。

「博物館に来館されるお客さまの声を参考にするよう常に心がけています。代々受け継がれてきた帯や着物など、大切なものであるからこそ、箪笥の中しまっておくのではなく、いつも持ち歩けるお財布や小物入れなどに作り変えてみてはどうかと思い、その再加工も行っています」(代表取締役社長 木戸詔一氏)

注1「小さな博物館」運動
墨田区観光協会が、観光事業の振興を通じて墨田区全体の経済発展と活性化を図り、区民生活の向上に寄与することを目的とした活動の1つ。「小さな博物館」運動では、現在24か所の博物館が認定され、年間24万円を上限に補助金が拠出される。

下請け企業の困った現実は日本独特の流通構造に原因

 さて、同社の取り巻く経営環境を改めて見てみよう。日本の流通構造は革製品に限らず、似たような構造、性格を持っており、良い面と良くない面のどちらも持っている。

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図表1 下請け業務の構造

 図表1は、現在の製造下請け会社の構図を簡略化して示したものである。特徴的なことはブランドを持つメーカーが、ほとんど自ら製造をしていないことだ。しかも下請け企業への発注も問屋に任せてしまっている。そのため、相対的に問屋の持つ力関係が強いことが分かる。

 景気の良い時期であれば、多くの発注がブランドメーカーから出されるため、問屋は傘下に抱える下請け業者に発注し、在庫や流通する経費の補填を行うなど、資金力の乏しい下請け業者にとっては頼りになる存在だ。

 しかし逆にモノが売れない時代になれば、ブランドメーカーは仕入れ費用の削減を行う。つまり付加価値の高い商品を作り出すか、価格の下がった商品でも利益が出るように安いコストで作らせる。

 より安いコストで作ることのしわよせは下請け企業に至り、人件費や材料費をいかに安くするかということにつながる。ただ、ブランドメーカーの指定もあるため、材料はレベルを下げるにも限界がある。また、給料のカット、人員や職人の工賃カットとなるが、これも日本では限界がある。

 すると現実的にとれる手段は、製造工程費用をより安い方法をとらざるを得ない。つまり中国へのオフショア開発へのシフトだ。

 安い工賃でできる中国へ生産委託することで、同じ材料費でもぎりぎり採算割れを回避できることになる。ところが、かの中国でも高景気の煽りを受けて、物価上昇に伴い、工賃も大幅に上がってきている。そのため、近頃ではオフショアの開発は中国からさらに人件費の安いベトナムなどの近隣のアジア諸国にシフトしつつある。

 景気の回復がある一定期間で見込めるのであれば、短期的に上記の方法でしのぐ方法も考えられるが、先行きの見通しが不透明な現在では、外的な要因次第で自社の事業の根本が大きく影響を受けることになる。

 しかし、下請け企業として製造を行っている以上、問屋の意向は大きい。この存在なしには安定的な受注が見込めないし、資金や営業活動、ブランドメーカーとの交渉なども考えた場合、その手間やコネクション作りなどの費用は大きな負担になる。

 実際のところ、どういう利益構造になっているのか。今回のような小物製品の流通では、(一般的に)ブランドメーカーでの販売価格を100%とすると、問屋では70%、製造段階では30%だ。つまり1万円の商品に対して、製造業者が得られる対価は3,000円になる。もっと極端なケースでは1万円の小売価格の製品を、1000円で下請け業者が提供することもある。問屋や商社など中間に介在する事業者が増えれば、その分下請け企業の実入りが少なくなることは当然だ

 さらに現在の企業の状況はもっと深刻だ。消費が低迷しているので、ブランドメーカーの発注が減少し、問屋も当然大きな影響を受ける。ブランドメーカーや問屋の発注減や吸収合併、あるいは倒産という事態にも至っており、もはや単価の下落というより、売上の消滅という事態が進行している。

 まとめると実際に東屋が抱える課題は次の3つとなる。

■東屋が直面する3つの課題
1.安定した売り上げが見込めない
消費意欲の鈍化は、真っ先に高級志向の高い革製品などに顕著に表れて、メーカー、問屋からの発注は減ってきている。というより、ここ10年くらいは低迷が続いている。しかも、受注の分散化策を行っていなかったため、特定のブランドメーカーや問屋に頼ってしまっていた。
2.売上単価が落ちている
売れないことにより、業界的には価格勝負の世界になってきており、製品単価の下落を招いている。そのつけは下請け企業に発注単価の下落圧力となってきている。自社内製造を誇りとする東屋にとっては利益の圧迫要因となっている。
3.協力会社や関係する職人へ仕事を回せない
売上が減少したからといって、今まで協力してくれた企業、職人を切ったり、仕事を極端に減らしたりすることは企業精神に反する。多少のお互いの譲歩はあるにしても、今までの仕事を通じての関係性を一気に変えることは考えていない。ただ、協力を依頼できる仕事自体がなかなかない。

【次ページ】 東屋の決断、自社ブランド展開で下請けからの脱却を図る
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