• 2010/02/08 掲載

【伊藤聡氏インタビュー】ネット時代の読書の愉しみ(2/2)

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読みやすさのために、できること

――これから書籍中心に活動しようとは思っていますか?

伊藤氏■私が本のお話をいただいたのは、偶然の要素がかなり大きいので、成果や結果ばかりを求めると辛くなると思うんです。映画の感想を書くのは楽しいし、言いたいことを言える満足感を考えると軸足はブログの方に置いておきたいです。

――これからも今までと同じように続けていくのですね、安心しました。本の話に入りたいのですけど、『生きる技術は名作に学べ』では10の作品を扱っていますね。他にも取り扱ってみたい本などはありましたか?

伊藤氏■候補はいくつかありましたが、今読まれなくなってきたものを取り扱いたかったんです。カフカとかは今も読まれるじゃないですか。あれも変な話で、自分が虫になってしまったことよりも、「今日の会社どうしよう!」とか主人公は心配するんですよ。そのあたりを掘り下げて行くと面白そうとは思いましたが、今もたくさん読まれていそういそういそういそうはあえて外しました。ほかにも扱いたかったのは『不思議の国のアリス』とか『悲しみよこんにちは』とかですね。

――本を書くときとブログを書くときの違いはありましたか?

伊藤氏■ブログを書くときは、起承転結を300字ずつというのが頭の中で自然に形が出来ていて、1,200字の話だったら面白いのが書けると思っているんです。『生きる技術は名作に学べ』は全10章で、1つの章につき文字数は8,000字から10,000字。一つの文の塊が10,000字ということはブログに比べて、内容は10倍に膨らんでいるわけです。膨らんだ内容をすっと読んでもらうにはどう組み立てたらいいかを考えて、小見出しでブロックごとに割ったんですよ。

最初の何千文字はこんな風に話そう、ここは読みやすいけど、ここはつまずくなっていうのは自分でもわかるし、編集者にも同じことを言われて、話し合いながらやっていきました。やっぱりスラスラ読んで欲しかったんですよ、短くて物足りないって感じで100,000字読んでもらえたら一番いい。その点は結構うまくいったんじゃないかなと思っています。感想を聞くと、買った人が割とすぐ読み終えてくれるんですよ。それを聞くと自分のやり方は間違ってなかったなって(笑)。

――私は元の作品をほとんど読んだことはなかったのですが、伊藤さんの本はスラスラと読むことができました。どうして「名作」を題材としたテーマにしたのでしょうか

伊藤氏■あー、スラスラ読めましたか。それは嬉しい! 今やテレビやネットで新しい情報がバンバン入ってきて、手元に携帯があればツイッターを開いちゃうような時代に今さらなんで『車輪の下で』を読むのかを考えました。本って読み終わったあとズシンと体に残るものがあるわけですよ。

たとえば、かつてハンスは優等生でしたが、成長していくにつれ悪いことばかり起きる、そして最後には溺死する。なぜハンスは死んでしまうのか、ハッピーエンドだっていいじゃないかっていうのを考える。そういうのはツイッターをやっていたのでは味わえない。ネットが出てきて本を読むと言う意味も変わってきたんです。友達のツイッターやブログより面白くなかったら本を読む価値がないと思っている人が多い、そういう人たちに、ネットもいいけどほかにも面白いものがあるんだよ、というのを伝えたかった。

――何か所か章の合間に作品に共通するテーマでもある「暴力」「死」「貧乏」「父親」についてのコラムがありましたが、伊藤さんの父親が亡くなったときの話も入っていて、重いテーマを扱ってもいましたね。

伊藤氏■極端ないいかたをすれば、今はお金持ちでもいつかは貧乏になってしまうかもしれないし、道を歩いていたらいきなり誰かに乱暴をされるかもしれない。誰にだって父親はいて、誰でもいつか死んでしまう。たいていの人にとっては逃げられないものをテーマに選びました。で、最後のコラムを「死」にしたら全体をうまくまとめられるかと思ったんですけど、「死」ってテーマとして大きすぎるじゃないですか。人が死ぬ小説なんて山のようにありますしね。それを編集者に相談したら、「個人的な経験でもいいですよ」って言ってくれたので、抽象的な話をするより、私の父の話をしたほうがリアルかなと思ったわけです。あと、読みやすさの話にもつながるのですけど、それぞれの章が小説の話なので、それ以外の読みものであるコラムは、本の中のちょっとした休憩所の役割を担わせてもいるんですよ。

――なるほど。それと、本の中で「わたしはおもった」や「おもいだしていうだろう」のようにひらがなで書いてある箇所があるのが気になりましたが。

伊藤氏■そこはめちゃくちゃ大事なところです! これは唯一のこだわりなんですよ。女性にも読んでもらいたいから、文章にやわらかさを出したかったっていうのもありますが、単純にひらがなの方が読みやすいのと、文章は目で見るものだから、画数が多い漢字を使うと行が黒くなってデザイン的に見にくくなると思うのです。固有名詞は仕方ないですけど、動詞は8割か9割はひらがなにしていますね。

――次に本を出すとしたら、どんなテーマで書きたいですか?

伊藤氏■今一番書きたいのは小説です。人って物語に反応するんですよ。なんか追い詰められた状況の人々の前にある海が半分に割れてそこのあいだを通って行った――とかそういう話を聞くだけでも心が動く。物語がないと感情って動かせないんです。笑うときも怒るときもお話がないとだめなんじゃないかな。どんな風に人を動かす話が作れるのか、それは、ストーリーなのかキャラクターなのかセリフなのかはまだわからないですけど、今はそういう小説を書いてみたいし、ストーリーが作れたらいいなとおもいます。


(取材・構成:加藤レイズナ


●伊藤聡(いとう・そう)
1971年、福島県生まれ。
会社員のかたわら、2004年よりブログ「空中キャンプ」を始める。
ブログでの文学・映画などについての読みもので好評を博す。
著書に『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)がある。
ブログ:空中キャンプ

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