• 2010/01/15 掲載

【長嶺超輝氏インタビュー】日本の条例の奥深き世界へようこそ(2/2)

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法律をフィールドにするライターとして

――こういった法律の分野で活躍なさるライターはめずらしいかと思います。そこで、長嶺さんの経歴についてもおうかがいしますね。そもそもライターになろうと、何のツテやコネもなかったのに九州から上京してきたそうですが?

長嶺氏■
はい、東京に来てからはバイトしながら暮らしていました。2005年ですかね、上京した次の年に小泉郵政解散と、それに伴って最高裁判所国民審査がありまして。昔から個人的に国民審査の審査対象の裁判官を調べていたんです。その調べたことをネットに載せたら、いろんな方面へ口コミで広がってしまったようで、最終的に全国紙でも紹介していただいたんです。

 そして、その記事を見た幻冬舎の編集者から、今度新書を創刊するから本を書かないかとお誘いいただきました。それから半年後に、「裁判官の語録」という企画を着想し、なんとか本を出していただいたんです。

――その初の著書『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)がいきなりベストセラーになりましたが、その時の心境をお聞かせください。

長嶺氏■
単純に怖かったです。いったい何が起こっているのかわからなくて、半泣きに近い状態でした(笑)。ありがたいことに反響はとても大きくて、全国の老若男女の読者から、ご感想やご意見をたくさん頂戴しましたが、書店で私の本をレジへ持って行ってくださる人を、直接目撃したわけではありませんし、本が売れているという確かな実感はなかったです。

【コラム】
長嶺超輝氏


――もともとライターではなく、弁護士を目指されていたんですよね?

長嶺氏■
そうなんですけど、もともとは地震予知や気象の研究がしたかったんですよ。しかし、高校1年の頃、期末試験の採点済み解答用紙を返されながら、物理の教師に「ナガミネ、まさかこの点数で理系に来る気か?」と脅され(笑)、何の目標もなく文系クラスへ進みました。

 さらに当時、うちの父が会社で人事部長をやっていまして、「潰しがきくから法学部行っておけ」とアドバイスされ、結局そのとおりに進学することになったんです。何の夢も希望もない話ですが(笑)。

――大学に入ってから法律に興味を持たれたんですか? 最初から司法の仕事をしたいというのはなかったんですね。

長嶺氏■
まったく考えてなかったです。最初は、講義が退屈でたまらなかったんですが、人々の間の利害調整を行う民法が、だんだん面白くなってきたんです。「これじゃAさんが可哀想」とか「ズルいCさんから、利益を吐き出させよう」とか考えながら、条文を使って論拠を組み立てる話が。

 民法学のゼミに入って、法律的な思考力を相当鍛えられました。憲法や刑法などは最低限の卒業単位をとるくらいしかやってなかったんですが、司法試験の受験勉強で、「けっこう深いな」と、こちらも面白くなってきました。

 とはいえ、法律の理屈の世界を興味深く感じたのは、司法試験の3年目ぐらいまでですね。別の言い方をすれば「3年目までに合格しなきゃいかん」ということです。

――その時は弁護士とライターの仕事を両立しようと思っていたんですか?

長嶺氏■
万が一弁護士になったとしても、法律の本を書きたいとは漠然と思っていました。だから現状は、かつての理想像から弁護士資格が抜け落ちているだけの話でして(笑)。田舎の人間なのでフリーライターという職業もよくわかっていなくて、弁護士になるのを諦めた後に、こういう職業があるってことをネットで知ったくらいなんですよ。

――司法試験に7回失敗して、あきらめるきっかけはなんだったんでしょうか?

長嶺氏■
単純に、前年より成績が下がったからです。これはもう向いてないなと思ってすっぱり諦めました。

――上京してから本を出版するまでにどのくらいかかりましたか?

長嶺氏■
2年ちょっとかなぁ。上京したその日から「自称ライター」状態で、時間の融通が利くバイトをしながら、いろんな出版社に企画を売り込んで、幸運に編集者と話ができても、そこで冷たくあしらわれ、関係が切れ、ということの繰り返しでした。

 だから、いわゆる新人ライターだった時代というのはなかったですね。この業界にムリヤリ横入りしたようなものなので。

――今後の長嶺さんのご予定や、現在関心を持っていらっしゃる分野について聞かせてください。

長嶺氏■
いろいろやってみたい企画はあるのですが、たとえば、恋人の取り決めみたいなもので、「結婚契約書」っていうのがあるんですね。ゴミはどっちが出すとか月に一度は外食しようとかだったり、子どもができなかったときに文句は言いっこなしですよ――といった約束ごとを書面にして残すのですが、実際に契約書を交わした夫婦や仲介する法律家を取材して、そういった新習慣の是非を問う本を、婚活ブームにあわせて出そうかとか、いろいろと考えています。

 今まで法律の本を書くのはたいてい弁護士に限られていたんですよ。だから副業として書いているケースが多いわけです。私みたいな法律分野のライターは現在あまりいないので、なんとか今後も頑張っていきたいです。

(取材・構成: 加藤レイズナ

●長嶺超輝(ながみね・まさき)
1975年長崎県平戸市生まれ。九州大学法学部を卒業後、弁護士を目指し、塾講師・家庭教師をしながら司法試験を受験。7回の不合格を重ねた後、ライターを目指して上京。司法分野を中心として現在活躍中。著書に『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)、『ズレまくり!正しすぎる法律用語』(阪急コミュニケーションズ)などがある。
ブログ: 法治国家つまみぐい

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