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  • 2010/01/14 掲載

事例からみる中小・零細企業がITをうまく使うための3つの要素:中堅・中小企業市場の解体新書(11)

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「地方の時代」は、既にかすれたスローガンになりつつあり、デフレ不況は情け容赦なく地方を襲っている。しかも過疎と地域経済の衰退は自治体の疲弊とともに、地元で働く企業にとどめを刺す勢いだ。しかしそこでも必死にもがいている企業がいる。最も厳しい条件下でどのようにITを活用して、事業を盛り上げようとしているか、そしてそれを後押ししている力とは何か。今回は、秋田県にある2代目地元店の具体的な事例をもとに、中小企業が今「ITでどうするか」を考えてみたい。
頑張る地元精肉店主の悪戦苦闘

 今回取り上げるのは、筆者の知り合いのとある中小企業(精肉&オリジナル惣菜店)だ。先端のIT成功事例ではないが、全国に存在するであろう典型的な中小企業のありさまが映し出されていると考え、取り上げさせていただく。待っていてもITについての営業も提案もこない中小企業は、どのように立ち回れば良いか(ITを経営に役立たせる)の参考にしていただきたい。

 その精肉店が店を構えるのは、秋田県の男鹿市である。男鹿市といってもぴんと来る人はあまりいないかもしれないが、「なまはげ」発祥の地ということで有名だ。古くは八郎潟と秋田県を繋ぐ半島としても知られている。

 男鹿市は典型的な過疎の自治体だ。人口3万人程度、税収も漸減傾向にあり、高齢化が進んでいる自治体で、まさに日本の縮図のような市だ。観光地としては、雄大な海岸線や芝生に覆われた寒風山など、見所はそれなりにあるが、車で2時間もあれば半島を1周できるため、日帰り観光地となっており、大きな観光収入を得られない特徴がある。中心地の船川港には工業団地があるが、不況の煽りをうけて先細り(撤退など)になっている。

 秋田市のベッドタウンであればそれなりに人々は定住するが、実際のベッドタウンは男鹿市よりもさらに秋田市に近いエリアへ移動してしまった。秋田市と男鹿市の中間エリアには大型ショッピングセンターが生まれ、消費の中心地も当然のように移行しており、男鹿市の地元商店街はシャッター街化している。

 そんな悪条件の中で、地元の中小企業で奮闘しているのが今回の事例だ。同店は地元では老舗であり、知名度も信頼も厚い。しかしここ20年間は男鹿市そのものの経済環境は低迷しており、売上増は見込めない。毎年が勝負のような、ぎりぎりのところで事業を継続している状況だった。

きっかけは長男の帰省

 この精肉店はいわゆる「IT」とはほとんど無縁だった。かろうじてPOSレジを通じて電子化を行っているのだが(市内を見れば電子機器を導入しているだけでもマシなほうだと言える)、納品書や請求書の整理化、管理、事務的効率化のいくらかは達成したものの、日々の業務に追われPOSレジの十分な機能は使いこなすことはできなかった。このPOSレジは十数年前に納品書や請求書の事務作業の効率的データ管理、POSレジによる売上と詳細データを把握し、それを経営に生かすことを目指して導入したものだ。ちなみにこれにかけた費用は350万円だ。経営者も無知で、会社としては大きな損失だったという。

 同社にもパソコンはあるものの、納品書、請求書、帳簿や簡単なポップ用の原稿、DM宛名ぐらいにしか使っておらず、ホームページも立ち上げていなかった。単にその方法が分からなかったからだ。業者にまかせるにも誰に相談すれば良いかも分からず、調べようともしなかった。売上も停滞していたので経費をあてる余裕もない。売上減だからこそネットを使ったビジネス展開、という発想には至らない。社長に理解がないため、ITはとても遠い存在であった。

 そんな同社の転機は、パソコンに知識のある跡取りである長男(その後二代目となる)が2009年1月に帰省したことだ。まず動いたのは2009年の春に県外で開かれるグルメフェア出店にあわせて、自社ホームページを立ち上げたこと。長男の経営参加から、わずか2ヶ月の間の展開である。

 とはいえ、長男がIT業界の出身者でWeb制作に詳しかったというわけではない。実はこのホームページ作成に大きく役立ったのは地元の商工会である。商工会には専門的な知識を持ったスタッフが、無料で手ほどきしてくれた。商品写真の写し方や、ページの作り方以外に、ネット参入への考え方まで手ほどきしてくれたという。しかも商工会独自のサーバを格安で利用することができた。なおかつ商工会の通販サイトにリンクすることができたことで、ホームページの開設と同時に通販機能も一挙に実現できた。サーバの月額費用は2,000円/月で、イニシャルコストは実質2万円に過ぎない。コンサルや指導料などはまったく掛かっていない。ほとんど2代目社長の手間代くらいだ。

ホームページやブログが全国販売の足がかりに

 この店の事業は「良い地元の精肉と独自のレシピによる惣菜」を扱うことだ。この事業がしっかりしているからこそ、地元の固定客からは安定的な購買を見込めた。さらにその良さを知った固定客から口コミ経由で、遠方から購入にくるケースもあった(若干だが)。良い商材を提供しているため、一度購入した顧客はリピーターになりやすい。とはいえ、そもそも店の存在を知ってもらう口コミの力が弱く、日常の食品であるため、遠方から訪ねるほどにはなりえない。

 この打開策が、ホームページの開設およびグルメブログの情報発信と全国のグルメフェアへの出品そしてインターネット販売の開始だった。長男が「日本全国への販売ルート」の足掛かりをつけたことにより、閉塞感のあった今までの経営に活路を見出しつつある。折しも地元では青年会を中心とした「観光で男鹿市再生!なまはげ運動」もあり、商工会も無料のIT支援や市外から観光客を誘引するイベントなども活発になったことも後押ししてくれた。地元自治体やコミュニティ、そしてネットによる水平的な展開がオーガニックな効果を生んだ。特に顕著なのが、惣菜のインターネット販売が九州や関西など全国的に、そして定期的な頻度で現れていることだ。

 また、グルメフェアでの全国への出店などのアナログな販売活動での実績や認知やクチコミなどをブログへのまめな更新でフォローすることで、リピーターなどからメッセージや注文なども増えている。さらに別のブログへの紹介など、男鹿市でのピンポイントでの固定客だけの販売から一挙に全国への足がかりができたことになる。
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