• 2009/10/06 掲載

【飯田和敏氏インタビュー】敵は巨大な無関心――『ディシプリン』に込められた、クリエイターの魂とは(2/2)

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ゲームが彼らの生きる力になってくれるなら

――今回、飯田さんみずから「ニコニコ動画」の人気実況プレイヤーたちと組んで、発売前に『ディシプリン』の実況プレイ動画を公開したことでも話題となっていましたが(ページ下部、※2参照)、「実況プレイ動画」という文化について、飯田さんはどのように見ていますか?

飯田氏■
実況にもいろいろあるので、すべてがそうだとは思わないんですが、たとえば提供されたゲームに対して、新しい遊び方、新しい解釈を見せてくれているようなものに対しては、素直に喜びを感じますよ。自分のプレイしている状況を含めて人に見せるという、ちょっとメタ的な遊び方ですけれど、ああ、こんな遊び方もあるんだと。

――そもそも「実況野郎B-TEAM」の4人に実況させよう、という話はどこから?

飯田氏■
Wiiウェアで発売されるということが決まって、じゃあネット上で売買されるものだから、とりあえずネット上でアピールしていこうということにはなった。でもそこから先はまったくのノープランでしたね。メーカー側にも、広告代理店にも、そのノウハウや方法論がない。

 で、僕が以前から見ていた「Webマガジン幻冬舎」というサイトで「実況野郎B-TEAM」の連載を見て、彼らに興味を持った。彼らはやっぱり、世代的にも若いし、僕らが作ってるゲームをちょうど届けたい相手でもあった。それで4人を会社に呼んで、どうしたらこのゲームにみんな興味を持ってくれるのか、2時間くらい話し合ったかな。そこでね、メイドの格好をして秋葉原でビラをばらまこうとか、アルタ前でいいともに映ろうとか、そんな雑談をずっとしていて、最後の最後に「あれ、おれら実況野郎じゃん」というのがやっと出てきた(笑)。

――最後に出てきたんですか(笑)。

飯田氏■
で、ルーツが「じゃあ来週僕んちで収録しましょう」って言って、その日は「じゃあねー」って。

――軽い。

飯田氏■
そう、かるーい感じで。でも思いついたら彼らは早いですよ。そういうわけのわかんない状態のまま、実況の収録をすることになった。

――実況についてはいろいろな見方がありますが、少なくとも飯田さんは実況をクリエイティブなものだと見ている?

飯田氏■
うーん、ちょっと話が脱線するんだけれど、『SCRATCH』という映画があるんです。どういう映画かというと、アメリカで活躍するDJたちの活動を追ったドキュメンタリー。

――ターンテーブルで演奏する方のDJ?

飯田氏■
そう、ディスクジョッキーではない方。で、彼らは安いレコードを買ってきて、それをターンテーブルに乗せて、時々こすったりするわけです。でもレコードって本来、そんなふうに聞かれることを前提としてないわけじゃないですか。そんなこすったりされたら困りますよと(笑)。

 でもやがて彼らの中でも、すごいスクラッチをする人とか、音源の選び方にすばらしくセンスがある人とか、いろんな評価の軸ができていく。いかに安く、古く、かっこいい音源を見つけてきて、それをいかに解体して、いかに新しいものへと再構築するかが問われるようになっていく。これって実況プレイそのものだと思いませんか。

――ターンテーブルをゲームに、DJを実況プレイヤーに置き換えると、まさにそのままですね。

飯田氏■
こうしたDJカルチャーの根底には、やはり黒人差別の問題が根深くあって、当時彼らが社会の中に居場所を作れる場は数少なかった。そんな中でレコードをこするということは、彼らが日の当たる場所に出ることができる、数少ない手段の一つだったんですよ。そういう不当な差別があったことと、今の日本の格差社会ってどこか似ている。今のゆとりたちが、そういう表現活動を、ターンテーブルではなくゲームでやってくれているのだとしたら、僕はすごく嬉しいですよ。ゲームが彼らの生きる力になってくれているんだとしたらね。

――開発者の側から、こういう声が聞けるのは貴重ですね。

飯田氏■
僕がB-TEAMの4人に関心を持ったのも、なんとかして自己確立をして、社会に居場所を作らなきゃいけない、そういう必然に迫られながらも、アパシーを持ちつつ頑張ってると思ったから。もちろん、彼らはそんな風に見られるのをうざいと思うかもしれないけど、惚れすぎ? オレ(笑)。


捨て身の人間に対して
人は残酷になれない

【コラム】
(c)2009 Marvelous Entertainment Inc.
――今回「ディシプリン」が発売されて、実際に好調なセールスを記録していますが、成功の要因はどのあたりにあったと思いますか?

飯田氏■
最初から策なんかなかったですよ。でも、それでもこうしていろいろなところで取り上げてもらえたのは、きっと僕が捨て身だったから。結局、本気で「助けてくれ!」って言ってる人間に対して、人はそんなに残酷になれないんですよね。

 僕はB-TEAMにすごく「助けてくれ!」って言ったし、だからB-TEAMもそれを本気で受け止めてくれた。B-TEAMだけじゃなく、とんでもない記事を何度も載せてくれたガジェット通信とか、動画を掲載してくれたニコニコ動画、zoomeもそう。ああいうのも全部、みんなが一緒になって悪ノリしてくれたからできたことなんです。ジャッジする人たちは、どうせ金で動いてるんだろうとか、全部戦略だろうとか宣伝乙とかで片付けようとするんだけど、現実はそんなことじゃ動かない。みんな何も、1円ももらってなんかいないですよ。そもそもコンテンツビジネスなんだから、まずみんなが面白がらないと始まらない。そのことがよくわかりましたね。

――最後に、今後のご予定などは?

飯田氏■
わざわざゲームを作るのって、ものすごくパワーがいるんですよ。でも今回がんばって作ってみたら、やっぱりがんばっただけのことはあった。昨日思いついたアイディアが今日になって実現している、そういう過程ってすごくエキサイティングだし、それが世の中に出て、反発されたり受け入れられたりしていくプロセスってものすごく楽しい。まだ具体的なオファーはないんですが、そうした楽しさの先に次回作というものもあったらいいなと思います。

 B-TEAMからは今、おごれおごれって言われてるんですよ。で、僕が「たぶんマーベラスはお金ないよ」って言うと、いや、「飯田さんが身銭を切っておごるから価値があるんです」って加藤が言うんですよね。結局、ゲリラ的なアピール活動には自腹が不可欠なんですよ。チェ・ジバラ(自腹)……ってそれが言いたかっただけなんですけど(笑)。

※2: 実況プレイ動画の公開
 飯田氏が今回行ったユニークな活動のひとつに、「ニコニコ動画」の人気実況プレイヤーと組んで、「ディシプリン」のプレイ動画を発売前に公開したことが挙げられる。実況を担当したのは、「Webマガジン幻冬舎」にて連載「実況野郎B-TEAM」を担当中の、Revin、ルーツ、たろちん、加藤の4人。開発者自らプレイ動画を公開し、しかもエンディングまで見せてしまうというかつてない試みに、ネット上では大きな注目が集まった。動画は現在「ニコニコ動画」「zoome」にて公開中。


(取材・構成:池谷勇人)


●飯田和敏(いいだ・かずとし)
ゲームクリエイター。
『アクアノートの休日』『巨人のドシン』など多くの作品を手がける。
最新作『ディシプリン*帝国の誕生』は話題沸騰中!
ブログ:飯田和敏BGK*BLG すばらだぬしい!

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