• 2009/02/04 掲載

【連載】ザ・コンサルティングノウハウ(3):コンサルタントとは何か

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社内コンサルタントの育成を目指す企業が増えている。その狙いは、経営に資するIT戦略の策定や、コンサルティング営業による勝率・利益率の向上、グローバルグループ会社に対する本社支援力の強化などさまざまである。しかし多くの企業では、コンサルタントの育成はうまく進んでいない。この理由は、コンサルタントが、分析技法や方法論などの技術修得によって育成されるという誤解にある。コンサルタント育成に重要なのは、技術ではなくノウハウである。この連載では、コンサルティング会社の実態をもとにしたストーリー形式で、コンサルティングノウハウの存在とパワーを示す。

コンサルタントとは何か

 山口が参画している大型機械メーカーA社のプロジェクトは、A社の技術戦略策定にかかわるコンサルティングである。A社が製造している工作機械の駆動部品は、今後大きな技術革新を行う必要がある。候補となる技術は3つ。それぞれ一長一短があるが、A社にすべての技術に対応するだけのリソースはない。今後どの技術にリソースを傾斜配分するか。これが、今回のクライアントから依頼された内容である。

本プロジェクトのリーダーは岩崎。山口は、サブリーダーとして参加している。山口のコンサルタントとしてのデビュー戦である。リーダーの岩崎は顧客との打ち合わせには顔を出すが、会議運営は山口に任せっきりで、ときどき助け舟を出す程度である。会議結果の検討や資料作成は、すべて山口が行っている。これは、ABCコンサルティング社で珍しいことではない。「火が噴くまで、サブリーダーに任せる」のは、ABCコンサルティング社の人材育成の基本的な方法なのだ。岩崎は、この仕組みが当社の成長を支えていると言っていた。

この意味を山口は完全に理解していなかったが、山口としては、シニアコンサルタントの岩崎に命令されて仕事をするより、自分に大きな責任と権限が与えられる今の方法がありがたかった。山口は、これまでリサーチャーとして、いくつものコンサルティングプロジェクトに参画してきた。クライアントとの折衝や指導は、岩崎たちコンサルタントが行ったが、自分が調査した結果に基づき、顧客が大きな革新を果たした事例も多くある。山口には自信があった。「このプロジェクトでは絶対火など噴かないぞ」。山口はそう思っていた。

クライアント側は、プロジェクトリーダーに開発担当常務、実務は開発企画部の部長と主だった開発部の部長がついた。実質的な作業を担う開発企画部長の示野は、

「あなたがたコンサルタントは、技術のプロではない。常務が決めたことだから、とにかくご指導してもらうが、選択する技術を誤れば当社の存続にかかわる。よろしくお願いしますよ」

と不安そうに言っていた。プロジェクトが始まると、山口はコンサルティングの定石どおり、クライアントのキーマンのインタビューから開始した。インタビュー対象者は、今回の製品にかかわる開発、生産、販売、調達、経理などの部門長である。インタビューには、岩崎も同行した。

「それぞれの技術の概要は、わかりました。続いて、それぞれの技術のメリット、デメリットを教えてください」

山口の問いに、インタビュー対象者である開発第一部部長の鈴木の顔が曇った。

「それは、開発企画部に言われて、すでに表にして出しています。だいたいあなたがたは素人だ。どうやって開発すべき技術を絞り込むつもりですか」

鈴木は、ためすように山口をにらんだ。山口は、自分のあせりを相手にさとられないよう、落ちついた声で言った。

「まず、メリット、デメリット項目を明確化し、調査によって各項目の実態を把握した後、どの技術が一番メリットが多く、デメリットが少ないかを比較評価します。貴社は、まだ技術評価のための事実をすべて押さえていないはずです。ですから、まず皆さんが押さえている、メリット、デメリットの項目を知り、何を調べるかを特定する必要があります」

「そんな評価は、すでに社内でさんざんやっている」

山口の手のひらに、汗がにじんだ。

「それでも一応弊社にコンサルティングを依頼されたわけですから、われわれとしても…」

「評価の結果は、どうでした。鈴木さんは、絞り込むべき技術はどれだとお考えですか」

山口の横から、岩崎が笑顔で割って入った。

「私は、a技術にわが社のリソースを集中すべきだと考え、そのような提案を常務にしています。a技術を採用すれば、高級市場で顧客が求める機能を、すべて満たすことができます。まず、低速から高速までの広い範囲で高い性能を維持できます。しかも、エネルギー消費が少ない。騒音のレベルも低い。また、重要なメカニズムを、ハードではなくソフトで実現しているため、製品の改良やバージョンアップを、ソフトの入れ替えだけで実現できます」

鈴木は、自分の主張したいことを聞かれて、急に饒舌になった。

「社内には、b技術やc技術がいいと主張される方もいらっしゃるのですか」

「b技術を推す人間は、原価低減が期待できる点を強調しています。たしかに原価低減は、メーカーにとって重要ですが、いつまでも価格だけで勝負しているわけにはいきません。アジアの競争相手が、安い製品を出してきている。c技術は、製品の環境負荷を大きく軽減できます。また、環境負荷軽減の技術は、弊社のほかの製品にも適用できます。しかし量産技術の開発、特に製造コストを下げることが難しい。ものすごい資金と人が必要になるでしょう。それは価格に反映させるしかない。環境対応は、顧客も望んでいますが、そのために高い製品を買ってくれることはありません。a技術は、競争相手X社も積極的な研究を行っています。我が社も早くスタンスを決めないと、競争相手に負けてしまう」

「そこまで明らかなら、なぜ貴社はa技術に決定できないのですか」

「そんなことは、社長に聞いてください」

鈴木は、むっとした表情になった。岩崎は、それに気がつかないかのように、笑顔のままで続けた。

「競争相手X社は、a技術で圧倒的な特許件数を出しているなどの、貴社が早くリソースを傾注しないと後で貴社の大きな損失となるような活動をすでに行っているのですか。すでにa技術にリソースを傾注することを決定しているのですか」

「特許の数や内容では、今のところ我が社とX社で遜色はありません」

「鈴木さんは、どういう事実に基づいて、X社がa技術にリソース傾注を決定したと考えているのですか」

「事実までは押さえていません」

「b技術のコスト削減幅は、どの程度ですか。コスト削減に、どれだけのリソースが必要ですか」

「2、3年で、20%の製造原価低減が図れると言う人もいます。必要なリソースは、やってみないとわからない」

「c技術の開発に、どのくらいの投資が必要ですか。その結果、製品価格はどの程度高くなるのですか」

「それは、検討しないとわからない」

「a技術で優位性が獲得できる高級市場は、今後貴社の収益を支える柱になるほどの市場規模があるのですか」

「今はたしかに高級市場の規模は小さい。我が社の収益基盤は、中級市場にある。しかし、高級市場は今後増えていくことは間違いないです」

「なぜ、そのように言いきれるのですか。今後も中級市場が、収益の基盤となる可能性はないのですか」

「……」

岩崎の厳しい質問に、鈴木は先ほどの勢いを失った。岩崎は、今までの笑顔を止め、まっすぐに鈴木を見て言った。

「技術選択の論点に対し、貴社は事実を押さえていらっしゃらないですね」

「そうですね」

鈴木は、観念したように言った。

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