- 2007/12/12 掲載
【荻上チキ氏インタビュー】ネットにおける「炎上」や「デマ」の構造を考える―『ウェブ炎上』の著者の視点(3/3)
――最後に今後のご予定を教えていただけますか?
荻上チキ氏 |
ただ、自分の問題意識は今、ウェブ社会という部分と大きく重なる部分がどうしてもある。だから、もうしばらくはネット関係の言論を考察していこうと思っています。そのうえで、その成果と今までの古典的なメディア論やテクスト論、コミュニケーション論の歴史や蓄積とをつなげて、未来につなげる仕事を一つでも残せればなと思います。その活動は、次の世代に人たちにいくつかの前提とかを伝えることができると思うし、しっかりとした豊穣なネット空間みたいなものも僕らの世代で絶えさせないで、ちゃんと残していくということができると思うんです。
――具体的にはどういったことをお考えですか?
荻上氏■いくつか計画があります。ウェブ上での取り組みについてはそのうち自分のブログで書きたいのでナイショですが(笑)、紙媒体について言えば、小中学生に向けてのインターネットの教科書的な本を作っているというのが、そのひとつです。ネット悲観論者も肯定論者も、ごにょごにょと議論をしたあと、結末は「リテラシーが大事」に落ち着く(笑)。いや、大事であることには違いないんですが、その割にはリテラシーを共有するための議論や、具体的方法論を提示している本ってほとんどない。だから作っています。
それから「学校裏サイト」に着目していて、いくつかインタビューや調査をしています。その成果を近々形にしたいと思っています。若者のネット文化って、「教育」や「規制」、あるいは「ビジネス」のロジックで語られることがどうしても多いですが、彼らには彼らの「文化」があってそれは何かを生む可能性もあるし、絶対的に理解できない部分もある。でも、自分たちも大人に対しては絶対理解されないようなことをしていたし、それでもいきなり社会とか国家とかが崩れ去るような大げさなことは起こらなかった。実は彼らがやっていることは僕たちが今までやっていたことと何ら変わらないんです。
僕は、人間はそんなに変わらないと思うんですよ。アーキテクチャーであるとかメディアであるとか、文脈の違いによって表出の仕方は大きく変わるんですけど、百年やそこらで内面とか脳とか(笑)がガラリと変わることはまずないだろうと思う。でも、人々の予期というか、観察はガラリと変わる部分がある。むしろそっちのほう、つまり「観察する側の言葉」のほうに注意をしたいと思っています。
たとえば少年犯罪の問題について、メディア上で「少年犯罪の凶悪化」ということが繰り返し主張される一方、統計的に減っているという反論がよく言われますね。もちろん、統計的に良くなっているんなんだ、という議論も絶対必要です。同時に、リスクが可視化されやすい社会で、「体感不安」という言葉にリアリティをもっている状態では、ただ統計データを示したり、メディアを批判するだけではどうしても弱い。僕と同世代の論客たちが統計を持ち出して、社会不安みたいなものは気にする必要がないんだと反駁しているのを見ていると、それだけでは実は頼りないなと思っています。そもそも増えたら終わりじゃないですか。そうした場合には、ロジックで負けてしまう。だから、検証とは別の思想の研鑽作業というか、「観察する側の言葉」を磨く作業が必要になるだろうなと思う。
これはメディアについての議論も同じですね。ですから、しっかりとした議論をネットを契機として、さまざまな場所でつなげていけたらと思います。そのためにも、ある社会学者の人と一緒に人文系メディアを立ち上げようとしているところで、今後も新しいことは始めていきたいです。
(取材・構成=河村信/河村書店)
●荻上チキ(おぎうえ・ちき)
1981年生まれ。世間の言説や社会批評などをシャープに分析するテクスト批評家、アルファブロガー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、共著に『バックラッシュ!』(双風舎)がある。
人文社会科学系を中心にネットで話題のニュースやトピックを紹介する人気サイト「トラカレ!」も主宰している。
サイト:トラカレ!
ブログ:荻上式BLOG
参考:週刊ビジスタニュース[特別寄稿]「『学校裏サイト』と『ウェブ以後』のコミュニケーション」
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