- 2007/11/01 掲載
ライブドアパブリッシングの再起動とこれから ―出版再開第一弾はケータイ小説!!(2/2)
窪田智子氏 |
窪田氏■私もこれまでにさまざまな本を作ってきましたが、ケータイ小説はどのジャンルの書籍とも違う。まったくの異文化体験でした(笑)。
――具体的に一般的な書籍とどこが違いました?
窪田氏■一文が短い(笑)。ケータイの小さな画面で読むという性格上、一文が長くなりがちなパソコンで書かれた作品は、それだけで読者受けが悪くなるらしいのです。実際、人気作の著者の方は、たいていケータイで執筆されているようです。この「ケータイのテンキーで小説を書く」ということ自体、ちょっとした驚きがありましたね。
それに冷静に考えてみると「ケータイ小説原作の単行本が売れている」という事実も、ちょっと不思議な現象ですよね。配信サイトにアクセスすればタダで読めるものを、作品によっては、数十万から百万人以上の方がおカネを払っているわけですから。
――なぜだと思います?
窪田氏■大きな理由は2つあるんじゃないですか。まず、作家と読者の距離が近いこと。『命の輝き』の配信元である魔法のiランドさんに限らず、たいていのケータイ小説配信サイトでは、小説のページに読者からのコメント欄を用意しているんです。そこにはファンレターのような応援はもちろん、著者が執筆に行き詰まったときには励ましのメッセージや、次の展開に対する提案なんかも書き込まれています。読者の側にも作品作りに参加している意識があるから、いざ書籍が出版されると、我がことのように喜んで手にしてくれるし、周りに口コミでその面白さを伝えてくれるんだと思います。
そしてもう一点、中心読者層が若いこと。ケータイ小説の多くは若いコの恋愛や将来を描いた作品です。そのため、読者の中心は中高生。若い彼ら、彼女たちは、私たちが考える以上に、同世代感のある物語に共感し、感動しています。「自分が強烈に感動の物語を書籍という形で手元に残しておきたい」という意識も働いているんじゃないでしょうか。
――編集の際、若年層を意識しましたか?
窪田氏■中高生の読者の中には「初めて読む活字の本が『命の輝き』だ」というコも少なくありません。だからこそ手は抜けませんでしたね。誤字脱字の校正は当たり前のことですが、描写にウソはないか、どのように文字を置けば読みやすくなるか、トコトン吟味しました。
それに、先ほどお話ししたとおり、読者の中には所有欲もある。だから、装丁にもこだわりました。たとえば、カバーを開くと表1(表表紙)と表4(裏表紙)が繋がって、1枚のイラストになっている。これは物語のラストシーンをビジュアル化したものなんです。そして、題字部分の「命の輝き」は著者の未来さんに書いていただき、フリガナの「いのち」と「かがや」は、劇中に登場する未来さんのご主人の手紙から文字を拾って作っています。あと、ケータイ小説原作の単行本にハードカバーが多いのも、この理由からなんです。文庫本より所有している実感がありますから。とにかく持っていること自体がうれしくなるような作りにしたつもりです。
――とはいえ、読みやすく、装丁がいいというだけでは、読者は本を手に取りません。『命の輝き』という作品そのものの魅力はなんなんでしょう?
窪田氏■学生時代の辛い体験や恋愛だけでなく、結婚、出産と、その後の人生も描いているため、多くの方の共感を得られるところじゃないでしょうか。実際、書店さんからのリアクションを見ると、中高生はもちろん、20代半ばの主婦の方も手に取っていただけているようですし、私自身も感動したわけですし(笑)。そして、実話を元にしたことによって生まれるリアリティも魅力です。一文が短いため、一般的な小説に比べて情景描写が少ない印象もありますが、その一方で、それこそケータイメールで話しかけられているような身近さを感じられるはずです。
――無事復活を遂げられたことですし、今後はガンガン出版活動を展開なさるんですよね。
窪田氏■実はそうじゃないんですよ(笑)。CEOの平松は「出版事業は文化事業である以上、じっくり取り組み、意味のある書籍を刊行していくべきだ」というコンセプトを打ち出していますし、私自身もそうあるべきだと思っています。
――では、今後のご予定は?
窪田氏■ケータイ小説の書籍化がひとつの軸になることは間違いありません。ケータイ小説の読者は作者の知名度ではなく、書名、作品の内容で本を買っています。だから、常に読者の共感を得られる作品に対してアンテナを張っていなければならない。そこで、現在も、魔法のiランドさんが開催しているケータイ小説の文学賞「第2回iランド大賞」に協賛するなど、新しい才能の発掘を続けています。
あと最近では『ネットで稼ぐ人のための日本一わかりやすい確定申告!』のリニューアルバージョンを刊行予定です。この本は、事業停止前にも一度刊行していたのですが、ちょうど個人ネットショップオーナーや、デイトレーダーが話題になった時期だったこともあって、売り上げも良かったし、内容的にも出版する意義の大きいものだったんです。それだけになんとかもう一度蘇らせたいんです。
これからもじっくりと少しずつではあるものの、みなさんが手にしたい、読んでおきたい本をしっかり出版していきたいですね。
(執筆・構成:成松哲)
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