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江崎グリコやユニ・チャームの「SAP S/4 HANA(以下、SAP)」への移行が難航している。江崎グリコの製品はトラブルに見舞われた4月3日から2カ月超経った6月11日に一部商品についてようやく出荷が再開されたが、代表的な商品の1つであるプッチンプリンはいまだ出荷停止されたままだ。ユニ・チャームもSAPと物流システムの連携障害で紙おむつなどの製品の出荷に遅延が生じていた。同社の納品の遅れはおおむね解消したという。ただ、江崎グリコのケースでは、そもそもSAPの稼働が1年以上遅れ、その投資額も1.6倍に膨れ上がったと報じられている。なぜトラブルがこれほど長期化しているのか、元SAPでERPに詳しいフロンティアワンの鍋野 敬一郎氏に、問題の本質について話を聞いた。
ERP移行で150%の予算オーバー、実は「想定内」
江崎グリコのSAP移行に伴うトラブルが大きな注目を集めている。
2023年12月期の同社決算説明資料と年度末の修正資料によると、同社の投資額は342億円にのぼり、年商(3,326億円)の1割強の巨額投資になっていることが分かる。また、予算はもともと215億円だったとのことで、投資額は1.6倍まで膨らんでいたことになる。
かなり予算が膨れてしまったように見えるが、実際はどうなのだろうか。鍋野氏はこの点について既存の報道に懐疑的な見方を示す。
「実際のERP導入プロジェクトにおいて、1.5~2倍ぐらいに予算オーバーすることは珍しいことではありません。そのため、今回のコスト増は許容範囲内と言って良いと思います。どうしても、途中で仕様が変わったり、今回のように円安が進んだりするとコストが増えてしまうからです。一般的に、ERPシステム導入のような大規模プロジェクトは4つのフェーズごとに契約します。準備フェーズ:プロジェクト計画策定、ビジネス設計フェーズ:概要設計・詳細設計、実現化フェーズ:パラメータ設定/開発・単体/統合テスト、本番移行フェーズ:データ移行・トレーニングです。それぞれのフェーズで導入範囲や内容についてきめ細かく確認するため、概算見積りでは見えなかった予算が明らかになります。」(鍋野氏)
また、このプロジェクトは2021年に着手して3年ほど経過しており、長い時間をかけた取り組みだった。これだけ長い時間をかけたにも関わらず、なぜうまくいかなかったのか。
「基幹系のトラブルは、江崎グリコだけでなく、実はほかにも数多くあります。古くは化学大手のトクヤマが2年以上も導入が遅れて特損を出したり、クボタでS/4 HANAが止まったりしています。さらに直近では、ユニ・チャームも紙おむつの製品出荷が遅延しています」
では、なぜこれほど大きな注目を集めることになったのか。
「江崎グリコの件は導入を手がけたコンサルタントファームがデロイトだったことで特定のメディアが過度に報じたこと、また出荷停止になった商品が老若男女まで誰もがみんな知っているブランドだったこともあり、注目が高まったのではないでしょうか」(鍋野氏)
すなわち、予算が急拡大したわけでもなく、難度の高いプロジェクトであるため、トラブルも起きうるということだ。
それでも商品出荷がこれほど遅れるのは前代未聞の大きなトラブルと言える。
そこで、今回のトラブルを振り返ってみると、少なくとも4カ月ほど前までは、システムを予定どおり稼働させるつもりだったと推察される。そこから本番移行する際に何かが起きたことになる。
「4月1日にシステムを稼働するなら、1カ月前には本番の稼働判定を行っているでしょう。逆算して2月~3月の段階で本番に持っていこうという話になっていたと思います。しかし実際に4月に動かしたらうまく行かなかった。そのため、動かしてみなければ分からない要因があったものと推測できます」(鍋野氏)
【次ページ】SAPの本番移行でのトラブル、何が起きたのか?
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