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Jリーグの楽天ヴィッセル神戸は、1995年のクラブ創設から29年目にして初のJ1優勝を飾り、同時に年平均来場者数も過去最多を記録した。実は、その陰ではスポーツにデータドリブンな意思決定を取り入れた科学的な手法が大きく貢献している。そこで今回、同社 代表取締役社長の千布 勇気氏にサッカーの勝敗やクラブ運営を左右するデータの利活用について、2024年の抱負とともに話を聞いた。
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J1初優勝&最多の来場者数、秘密は「データ分析」にあり
初のJ1優勝を果たしたヴィッセル神戸は、来場者数でも1試合平均2万2553人(17試合)と過去最多になり、名実ともに超人気チームの1つに仲間入りしたと言えるだろう。
その要因について、千布氏は「データがすべてとはもちろん言い切れませんが、これまで構築してきたデータプラットフォームによる分析やデータを活用したフィジカルコーチの意思決定などが、勝負の分かれ目の差分に寄与したことは間違いありません」と断言する。
とは言え、ここに来るまでの道のりは平坦なものではなかった。
同チームはもともと、楽天グループの三木谷 浩史氏がオーナーとして個人で所有していたクラブだった。それが2017年に楽天の完全子会社となって、いちサッカークラブから、いわゆる会社としての基盤を構築していくこととなった。その過程の中で、さまざまな仕組みを取り入れていったという。
千布氏は「ヴィッセル神戸の軌跡をたどると、成績の浮き沈みもありました。私がヴィッセルに入った2019年ごろは、なかなか勝てない時期が続いており、『なんとなくの感覚で試合の振り返りをするな』と、三木谷からも檄を飛ばされました。それでデータを活用して戦略的にクラブ運営や、試合の戦術策定、振り返りをするのが良いのでは? ということになり、楽天からヴィッセル神戸に私や社員が出向し、サッカーのプロの方々と一緒にデータを活用して勝てるチームにしよう、という話になりました」と振り返る。
成功の秘訣は「相手への理解とリスペクト」
スポーツにデータを取り入れるためには、ビジネスシーン同様、組織体制やチームとの合意形成も求められる。当時、千布氏は常務執行役員としてデータ領域を担当し、まずはデータ基盤の構築を始めた。
美味しい料理を作るには、材料や包丁、料理人がいない状態では作れない。そこで外部から、さまざまなデータを購入し、ツール類も取りそろえ、人材も集めてきた。
2019年の就任当初から地道に日々のさまざまなデータを蓄積。できる範囲でのデータ分析業務を進めながら、分析の引き出しを増やしてきた。
データプラットフォーム構築におけるツールの1つとして導入したのがDomoだ。「Domo」はリアルタイムにデータを分析できるクラウド型BIサービスで、データ集計やグラフ化などをすべて自動化できるツール。パターン発見やトレンド把握などが可能で、業務の効率化やビジネス成果の向上を実現できる。これをスポーツの世界にも適用したというわけだ。
同氏は「さまざまなデータ活用の取り組みにおいて、データを可視化するプロセスでDomoを導入しました。複雑なデータセットであっても我々経営層が即時でかつ簡易に判断できるようにダッシュボード化されるDomoも活用しながら、クラブの発展やチームの勝利に向けて有用なデータプラットフォームの構築を目指しました」と語る。
その実現に向け、クラブチーム内に「データプラットフォーム部」を設置。この部署には楽天から公募した正社員3名が採用されたほか、筑波大学サッカー部のデータ分析チームがパートタイムでサポートに付いた。今後、人数も拡大していく予定で、データサイエンティストのような人材もアサインする予定だ。
千布氏は「一方で、選手やチームスタッフの中にはデータアレルギーの方々もいます。ビジネスサイドに数字の強い人間が多くても、チームサイドは必ずしもデータに強いわけではありません。データを一方的に押し付けるのではなく、エッセンス的な参考情報として活用してもらっています。相手へのリスペクトを大前提とし、データ活用できる範囲を少しずつ広げて、データの価値と利活用を浸透させていきました」と、データ活用の成功の秘訣が「相手の理解を得ること」と力説する。
【次ページ】2024年の「J1連覇&ACL初制覇&来場者数の更新」に強い自信
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