政治資金パーティーを巡る安倍派の「裏金問題」

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏（ひと）へに風の前の塵におなじ──

（『平家物語』より）

　と、「平家物語」の冒頭の記述が脳裏を駆け巡ってしまうような、この1か月にも満たない期間での安倍派（清和政策研究会）の大失墜劇だった。

　自民党派閥の政治資金パーティー券問題で、東京地検特捜部は、政治資金規正法違反の疑いで東京・永田町駅至近にある安倍派の事務所を捜索し、強制捜査に乗り出した。去年までの5年間で安倍派は5億円程度のパーティー収入を政治資金収支報告書に記載していなかった疑いがある。

　具体的には、所属議員の役職や当選回数などに応じてパーティー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側にキックバックしていたとみられる。キックバックを受けていたのは松野博一前官房長官ら派閥の幹部6人を含む大半の所属議員だ。

　気になるのは、今後の展開だが、過去に政治資金規制法違反容疑で起訴された小沢一郎氏の陸山会事件での検察の動きを振り返ってみたい。

政治資金問題の解決は「長すぎる道のり」か

　2006年に、週刊現代で小沢氏の不動産所有をめぐる疑惑が報じられた。市民団体が政治資金規正法違反容疑で、小沢氏の秘書を告発したのは、2009年11月だ。

　翌2010年1月、東京地検特捜部は、政治資金規正法違反容疑で小沢氏の秘書、元秘書を逮捕した。同月、市民団体が今度は、小沢氏と秘書について20億円を超す虚偽記載があるとして政治資金規正法違反で告発した。しかし、2月に、秘書3人は起訴されたものの、小沢氏自身は嫌疑不十分で不起訴処分になった。

　今回の安倍派の裏金疑惑でも、松野前官房長官や、参院選直前でのキックバックが増えたことなどから世耕弘成前参院幹事長の責任を問う声があるが、起訴されるかは定かではない。

　小沢氏同様に、不起訴処分になる可能性もある。しかし、問題はここからだ。当時、不起訴処分になった小沢氏だが、市民団体はそれを不服として、この不起訴について検察審査会に審査の申し立てを行ったのだ。

　2010年4月、検察審査会は小沢氏を起訴相当と議決した。しかし、翌月（5月）、東京地検特捜部は再び不起訴とした。しかし、同年10月、検察審査会は、「起訴議決」（起訴すべきという決議）を行った。

　この起訴議決らをもとに、2011年1月、小沢氏は強制起訴されることになった。それに伴い、民主党は裁判の判決確定までの間、小沢氏の党員資格を停止した。この党員資格停止は、2012年5月まで続くことになる。

　小沢氏の無罪が確定したのは、2012年11月。「秘書に任せていた」との小沢氏の供述は、信用できないものの、秘書との共謀は立証されていないとして、無罪判決が下ったのが2012年4月。さらに控訴を受けて、判決が11月に確定した。秘書らの有罪が確定したのは2014年9月までかかっている。

　小沢氏が本当は有罪だったのか、今回の安倍派の裏金疑惑の責任が誰のものになるのかは横において、注目したいのが、この小沢氏の無罪判決が確定するまでの日程だ。実に3年もかかっている。


　今回の安倍派が、検察の判断によって不起訴となったとしても、市民団体の告発を経て、解決までの道のりが長期化することだけは、確かなことということだ。 【次ページ】次の「選挙の顔」となる4名の議員とは？