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- 2023/12/08 掲載
なぜ「政府のアナログな業務」は残り続けるのか?アナログ規制1万条項見直しのゆくえ
アナログ規制の基本「8類型」と具体例
ひとくちにアナログ規制といっても、さまざまな種類がある。デジタル庁は代表的なアナログ規制として、次の8つの分類を打ち出している。- (1)目視規制(人の目で確認する:2927件)
- (2)実地監査規制(現地に赴いて確認する:1034件)
- (3)定期検査・点検規制(定期的に検査・点検する:74件)
- (4)常駐・専任規制(専任の担当者が常駐する:1062件)
- (5)対面講習規制(講習を対面で実施する:772件)
- (6)書面掲示規制(紙ベースで情報を掲示する:217件)
- (7)往訪閲覧縦覧規制(公的機関への訪問者にのみ情報を開示する:1446件)
- (8)フロッピーディスク等記録媒体(フロッピーディスクに保存する:2095件)
それぞれの項目は、規制と1対1の関係にある(1つの規制に対してただ1つの類型が紐づけられる)というわけではない。
たとえば従来、消防法ではホテルなどに設置されている消火器具や火災報知機について、消防設備士による点検を定期的に実施しなければいけないという決まりがあった。つまり(1)目視規制と(2)実地監査規制、そして(3)定期検査・点検規制が合わさる、二重・三重にアナログ的な規制となっていたのである。
このほかにも、現行の法制度の中には、現場、対面、紙ベースのアナログ世界を前提として作られたルールが数多く存在する。
河川やダム、都市公園の管理者は、点検を基本的に目視で行わなければいけない(河川法、都市公園法)
安全運転管理者の講習はオンラインで可能だが、申込、手数料納入の手続きは書面で行わなければいけない(道路交通法)
銀行は休日の予定を店頭に掲示しなければいけない(銀行法)ここで取りあげた例の中には、私たちの暮らしの安全を支えるための規制もある。たとえば、デジタルツールへの移行が原因で火災報知器の故障を見落とすような事態が生じれば、施設の利用者や職員を重大な危険にさらすことになりかねない。
アナログ規制はたしかに理不尽に思えるものもあるが、規制が作られた趣旨や目的を考えると、中には安易に撤廃や簡略化ができないものが少なくないのだ。
とっかかりになる「見取図」の中身
検討を進める上では、人材面でのリソース不足も課題となる。8つの分類法を用いてアナログ規制を特定し、デジタル移行の大号令をかけたところで、各省庁においてデジタル技術に関する理解や知識の水準にバラツキがあれば、制度改正に向けて足並みをそろえることは不可能だろう。
そこでデジタル庁は、仮に最先端の技術動向にそれほど詳しくない職員であっても、法改正に取り組む上で活用できるツールを用意した。制度上の課題とそれを解決するのに役立つ技術とのつながりを可視化した「テクノロジーマップ」だ。
テクノロジーマップの実物を覗いてみると、非常に細かい文字がびっしりと並んでいて、面食らうかもしれないが、全体の構造はシンプルだ。
マップの左側から、「趣旨」「判断・対応内容」「管理対象」「管理に必要なデータ内容」が縦軸に並んでいる。デジタル化を検討しているルールの内容に合うものを選んでいくと、右に向かって枝分かれしていき、脱アナログに役立つ可能性があるテクノロジーの種類に行きつくという建てつけになっている。
おおまかにみれば、左側から目的、機能、手段という順番で整理され、規制とテクノロジーのつながりを見出しやすいよう工夫されているのだ。
ふたたび火災報知器の点検を例に取るなら、趣旨は「安全性の判断」、判断・対応内容は「人工物の適格性」、管理対象は「設備・機器」、データ内容は「動作異常等」という具合にたどっていくことができる。
活用可能な技術については、インプット(画像等のデータをセキュアに取得し、遠隔地に提供)、プロセス(画像等の取得データの解析、評価等の判断を自動化・機械化)、アウトプット(事態対処の遠隔化、自動化)の3つに細分化されている。
たとえば、設備・機器の経年劣化状況の確認であれば、「インプット」のデータ取得についてはカメラやマイク、巡回ロボットなどの選択肢が提示される(※ここで説明したテクノロジーマップとは別に、デジタル庁は事業内容に着目したパターンのマップも用意している)。
政府は各省庁にテクノロジーマップの利用を促し、2024年6月までに一括的な規制の見直しを済ませるというスケジュールを提示している。 【次ページ】立ちはだかる壁、温泉法の場合
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