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- 2006/12/04 掲載
【企業経営で着目したい4つの時代】ビューティフル・カンパニーの時代/法政大嶋口教授(3/3)
嶋口●顧客主義ですが、顧客民主主義と言ってもいいです。リンカーンにならって、「顧客の顧客による顧客のための経営」と言うくらいの徹底が必要です。お客さんの息遣いまで取り込んで、それを組織全体の価値観にまで広げていって、その価値に迅速に対応していく。そのくらいの会社でないとだめだと思っています。
社会的責任はCSRに近い概念です。良い社会を築いていくために、自分たちはどう貢献すべきか、ということが価値観に入っていなければだめです。
私は『日経WOMAN』誌が主催するウーマン・オブ・ザ・イヤーの審査員を務めているのですが、2005年に選ばれたのが、インテグレックスの代表である秋山をねさんでした。彼女は企業の社会貢献の調査を続けてきて、社会的責任投資(SRI)を提唱した方なのですが、受賞に際して行ったスピーチのなかで、私が感銘を受けたのは、「実は皆、経営理念においてCSRをうたっている。ただ、それを真剣に実行していないだけだ。そこをしっかりと自分たちの価値観で確認して、そのために何をしたらいいかを具現化するのが本来のCSRである。小さい会社が大企業の真似をする必要はない。自分たちの器に応じて何をなすべきかを考える必要がある」といった趣旨の発言です。そういう目でいろいろな企業の経営理念を読み直してみると、確かに皆、CSRをうたっているのですよ。
ビューティフル・カンパニーを支える4本の柱
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─そうした顧客主義やCSRが信頼につながる?
嶋口●信頼はもちろん、企業の経営にとって大切な課題です。市場や顧客との信頼が醸成されれば、長期的なリレーションシップを築くことができる。人々から素晴らしい会社だと言われるわけです。では、信頼とは何か。これがなかなかピンとこない。私が一番納得できたのは、私の恩師が教壇を去られるときに言われたことでした。いわく、「学生のなかには、信頼できる学生と信頼できない学生がいる。信頼できる学生は、その行動が予測できる。信頼できない学生の行動は予測できない」というものです。
行動が予測できるということは、一定の成果を常に期待できるということです。ところが信頼できない相手であれば、どうなるか、何が起きるかわからない。これはいい定義だと思いました。信頼においては、未来行動の予測性が一番重要だということです。会社であれば、「この会社はこの場合は必ずこうしてくれる」「絶対こういうことはしない」という予測です。信頼できない場合は、「どう対応するかわからない」「何か裏があるかもしれない」と思ってしまいます。だから、信頼できる会社は、顧客の高い期待に応えられる会社だということになります。
そして最後が革新。絶えざる価値を作り出していく革新性のある会社でなければいけないわけです。企業も動きがなければ鮮度が落ちます。常に目新しさが必要なのです。新しい価値の創造です。そうでなければワクワクできないですよね。動き続けるということはリスクを伴います。だから、リスクテイクも重要な要素になります。
─道徳や倫理、あるいは遵法の精神だけを言っているのではないということですね。
嶋口●企業は、優秀な業績もベースになければステークホルダーの価値を守れないですからね。一般の営利企業は、NPO法人や慈善事業とは違いますから、広い視野とバランスが重要なのだと思います。
たとえば、エジソンはなぜ天才といわれたのか。もちろん発明王であったわけですが、それだけではなく彼は、マーケティングの天才でもあった。ただ発明をしただけではなく、それが社会で活用されて、人々の生活や社会のためになるようにと考えたのです。いくら白熱電球や蓄音機があっても、それだけでは社会のためにならない。発電機も必要であるし、コードやソケット、変圧器も必要になる。それらをまとめて作り上げて、社会に提案した。そのためにGEという会社を作った。これがマーケティングです。
ビューティフル・カンパニーは皆、マーケティングに長けた会社なのです。GEは以来、100年にわたり永続し、さらに今、再びエジソンの精神に戻ろうとしている。そういう意味では、ビューティフル・カンパニーはすべからくエジソンの精神を合わせ持っている必要があるのだと思います。そうであれば自ずと、道徳的であり、知的でもあり続けるはずだからです。
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