- 2006/07/20 掲載
【世界のビジネス事情】ロシア経済の現状と今後の課題(2/2)
【マネジメント】この論文は、ビジネスインパクトvol.4に掲載されたものです
最近の経済成長率の鈍化には、もう1つの要因が影響を与えていると思われる。最近のルーブル高―ドル安傾向がそれだ。ルーブル対ドルの為替レートは31・82ルーブル(03年1月)から28・27ルーブル(04年11月)まで上昇してきた。自然原材料の国際市場の価格高騰によって、巨額のオイルマネーがロシアへ流入した結果であると思われる。
最近4年間は、ロシア経済の高成長とルーブル高が同時に生じた。一方では、国産品の価格と輸入品の価格差が減少してきているので、前述したように、内需の増大はほとんど輸入品により満たされ、国内総生産の増大を妨害しているのである。他方では、90年代にドル化したロシア経済は、今まで蓄積した巨額のドルのタンス預金を実体経済に拠出し、投資増大に貢献したと思われる。04年1~10月には投資の増加率は11・6%(03年同時期11・9%、02年2.5%)であった。
しかし、ロシア中央銀行が外貨市場へ介入し、その結果為替レートは04年6~9月にわずかなドル高になり、固定資本への投資月間増加率は04年1月の13・7%から9月には8.7%まで減少したのである。
ここで、もう1つの要因について述べるとしよう。これまで原材料輸出分野の有力企業は、本業で得た莫大な利益を他の産業に投資していた。たとえばロシアの大手ガス企業 ”GAZPROM“は農地、食品加工会社を買収し、アルミ大手 ”SIBERIA ALUMINUM“社はゴルィキ自動車工場の支配株、機械産業の企業を買収した。ロシアの弱体銀行界は分野間の資金仲介、配分メカニズムの管理ができないので、銀行界に代わって、原材料分野から非原材料分野へのこうした資金流動メカニズムを実現させたのは、オリガルヒと呼ばれているロシアの商工会の有力者たちである。いずれにしろ、こうした投資が一面でロシアの経済成長を後押ししてきたことは間違いない。
だが、原油価格の急落などの不測の事態による歳入減に対処するため、ロシア政府は04年度予算で原油輸出税の余剰金により安定化基金を創設した。04年8月から実施されたこの政策は、2ヶ月ごとに原油輸出価格による輸出税率も見直すことになったのである。ロシア産の原油価格は04年1月の28・9ドル/バレルに対して10月に42・3ドル/バレルに上昇したため、04年10月にトン当たり87・9ドルであった原油輸出税を12月1日から101ドルに引き上げるとロシア財務省は発表した。
原材料分野から余剰金が徴税されるのは、経済の構造的発展バランスから見て合理的な決定かもしれないが、現時点で成長率、利潤率、投資活動寄与率が一番高い原材料分野にとって負担が重過ぎることになった。そのため、この分野は経済を推進する動機を失い、実際に8~9月に投資額が減少し、総生産成長率にもその影響が顕著に表れた。04年の国内総生産月間増加率は1月の0.7%、4月の1.0%に比べ、9月には0.2%まで減少している。本業に対する投資も同じだ。枯渇に近づいている既存の油田やガス田では生産を続けているが、新規の油田・ガス田の探査、開発に投資が行われていない。これから10~15年ぐらいの間は生産の増大または維持ができると考えられるが、その後の展開は不透明といわざるを得ない。
こうした事態を受け、04年12月にロシア政府は経済成長鈍化や投資減少傾向が燃料分野に対する高税率とリンクしているとようやく理解し、05年2月から原油輸出税率を引き下げることを決めた。
これまで、ロシア経済が抱えているいくつかの問題について説明してきたが、もちろん、これで全部の問題点が網羅されたわけではない。ロシアの市場経済が成長をすればするほど、もっと複雑な、今まで経験したことがない問題が現れる可能性は十分にある。
このような環境の中で、プーチン大統領が目指している2010年までにロシアの経済を倍増しようという目標は、果たして可能であろうか。
今までの経済状況を考えると、高い成長率に貢献したのは、国際原油価格の高騰だけではない。やはり、経済改革が行われたこと自体が主な要因であることを強調したい。今まで経済自由化の推進、政府がビジネス界に対して無干渉であったことが、今日の経済急成長につながっているのである。残念であるが、経済改革は途中で止まってしまった。04年には経済改革の遅れ、ビジネスに対する政府の強制的な抑制、8~9月の銀行界危機の影響で経済成長は年初に予想された数字より下回りそうである。
これからロシア経済はどうなるであろうか。原油価格が急に下落しない限り、しばらく高成長を期待できる。しかし、今後、引き続き原油高が続くことは期待できないと、政府は分析している。今後、7%以上の成長を毎年続けるために経済改革を進めなければならないが、解決すべき優先課題として法制度、税制、土地、反独占体制などがある。04年の成長鈍化の問題は、来年に乗り越えることができるであろうか。ロシア政府にとっては、難しい問題であると理解しているが、解決できる力があることを信じよう。

対ロシアへの直接投資をためらうのは得策だろうか?リスクとチャンスの両立を考えた方がよいのではないか
最後に、日本で仕事をしていて感じたことについて述べておきたい。ロシアに関心を持っている日本人は大勢いる。個人的印象ではあるが事実、「ロシアには90年代に何が起きたのか?」「最近の好調の原因は何か?」「ロシアはこれからどうなるのか?」といった質問をよくされる。特に日本人のビジネスパーソンには、「ロシアの市場は魅力があるが、リスクを考えると参入するのがまだ早いのではないか」との意見が根強いようだ。確かに、日本人向けのインターネットの情報を見ると、ロシアでのビジネスに関するほとんどのアドバイスには、まだロシアの経済環境は不安定であるため、ビジネスを始める時期ではない、という結論が目立っている。
しかし、実績を見ると、高成長を続けるロシアへの日本企業の進出は急増している。自動車、家電製品、高級化粧品、ビールなど日本製品の売上も伸びている。モスクワ日本商工会によると、最近1年半で日産自動車やダイキン工業などが販売拠点を構えたため加盟社数は22社増え、04年9月現在で86社となった。日本からの直接投資も復調している。サハリン沖エネルギー開発プロジクト、東シベリア資源開発計画、東シベリアから日本海港までのパイプライン建設計画、ロシア西部でのトヨタと日産の工場建設提案、IT分野での協力プロジェクトなどの日ロ経済協力の例が挙げられる。ロシア市場の大きさ、断続的な内需の拡大、増大している購買力、高い教育を受けている労働力、豊富な原材料と低価格な調達など、その魅力は決して少なくない。
もちろん、リスクが高いというのも事実だ。しかし、欧米諸国からは多数の有力な企業がリスクを恐れずロシア市場に参入し、高い利益を取得している。リスクを削減する対策は重要であるが、早期にロシア市場に参入しなければ、日本企業はパートナーとしての特典がなくなるのではないだろうか。


[博士学位]
取得学位名:Candidate of Economic Science
専門:(08.00.05 - 経済、国民経済とその各分野の管理計画立案及び組織)
マクロ経済、金融経済、比較経済、ロシア経済論
論文のテーマ:ロシアにおける国民経済管理の地極的局面
受領大学: モスクワ市、プレハーノフ記念ロシア経済アカデミー、
経済学部、経営と計画経済研究室
受領年月: 1992年2月
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