- 2006/07/11 掲載
【北朝鮮テポドン発射】ミサイル発射の裏側に秘められた軍事技術の攻防(2/2)
本稿ではこれまでの北朝鮮の動きをまとめ、巨大プロジェクトを実現する困難さ、最先端の技術が駆使される軍事ネットワークについて俯瞰する。
北朝鮮からアメリカ本土に向けて飛翔する弾道ミサイルを探知・迎撃する場合、関連する要素は以下のように多岐にわたる。
・赤道上に配備されているDSP衛星(ミサイル発射時に発生する赤外線を検知する)
・青森県に配備されたXバンド・レーダー
・日本海に展開する米海軍や海上自衛隊のイージス艦(探知と迎撃の両方を担当する)
・発射直後、上昇中のミサイルを撃ち落とすエアボーン・レーザー(ABL。開発中)
・アラスカに設置を予定しているXバンド・レーダー
・アラスカやカリフォルニアに配備されているGBI迎撃ミサイル
・アメリカ本土や沖縄など、着弾予想地域に配備されるPAC-3迎撃ミサイル
・PAC-3の上層で迎撃を受け持つ、THAADミサイル(開発中)
これらの構成要素をすべてネットワークで結び、DSP衛星がミサイルの発射を探知した後は、複数のレーダーがリレー式に引き継ぎながら途切れなくミサイルを追跡、その情報を迎撃拠点にも逐次伝達する。そして、発射直後の上昇、その後の弾道飛行、予想着弾地域に向けて落下する終末誘導といったフェーズごとに、適切なミサイル、あるいはレーザーによる迎撃を行わなければならない。
しかも、文民統制の建前からすると軍が勝手にミサイルを撃ってしまっては具合が悪いので、しかるべき責任者が発射の許可を出す仕組みが必要であり、着弾予想地域では警告を出して市民を避難させる仕組みも必要になる。それを、ミサイル発射からほんの十数分程度の間に実行しなければならない。つまり、弾道ミサイル防衛とは、極限状況での迅速な情報伝達と共有が求められる、IT分野のビッグ・チャレンジでもあるのだ。
本稿ではあくまで技術的なバックボーンを客観的に俯瞰するにとどめた。たまたま失敗に終わった今回の試射はいつ悲劇を招くとも限らない。今後も北朝鮮と同国の弾道ミサイルをめぐる情勢がどう推移していくかについては予断を許さないだろう。
テクニカルライター。マイクロソフトを経て、1999年春に独立。マイクロソフト製品や通信、セキュリティ関連の話題を中心に、書籍、雑誌、Webなどで執筆活動を展開中。
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