- 2006/07/11 掲載
【北朝鮮テポドン発射】ミサイル発射の裏側に秘められた軍事技術の攻防
【セキュリティ】
本稿ではこれまでの北朝鮮の動きをまとめ、巨大プロジェクトを実現する困難さ、最先端の技術が駆使される軍事ネットワークについて俯瞰する。
北朝鮮は以前にも、「ノドン」あるいは「テポドン」(区別のため、テポドン1と呼ぶ)といった弾道ミサイルを開発、試射したことがある。これらはもともと、ソビエト連邦で開発された弾道ミサイル「スカッド」から発展してきたものだ。
ただし、当初のスカッドと、そこから発展したノドン、あるいはイラクが湾岸戦争で使用したアル・フセインといった派生型はいずれも1段式ロケットで、最初から最後までミサイルが一体のままで飛翔するタイプだ。それに対してテポドン1、あるいはテポドン2は、射程延伸を図るためにロケットを2段式にしており、燃料を費消した1段目を途中で切り離す必要がある。さらに、2段目が燃料を費消した後で、先端部に取り付けた弾頭を切り離して目標まで弾道飛行させる。
書くだけなら簡単だが、複数のロケットを精確に作動させて、さらにそれを正しいタイミングで順番に切り離していかなければ、こうした多段式の弾道ミサイルは実現できない。発射時の燃料供給制御や点火のタイミングに始まり、ロケットを正しい方向に向けて飛ばし、そして適切なタイミングで燃焼を停止させる技術がなければ、狙った軌道に沿ってミサイルを飛ばすことはできない。そして、不要になったロケットを正しいタイミングで切り離すための仕組みや、ロケットの飛翔に影響しないように切り離す仕組みも、決して一朝一夕に実現できるものではない。
過去に、アメリカでもソ連でも、弾道ミサイルを開発する際にはたくさんの失敗を繰り返してきている。最初はどこの国でも、まずミサイルが真っ直ぐ飛ばなかったり、途中で爆発してしまったり、といったところから始めているのだ。つまり、北朝鮮は長射程の弾道ミサイルを開発するという、高度な要素技術がいくつも絡み合った複雑な巨大プロジェクトに取り組み、今回はそれに失敗したことになる。
もともと、抑圧的な体制の下では、優秀な人材を集めて能力を存分に発揮させるのは難しいことが多い。しかも、大陸間を飛翔する弾道ミサイルのように困難な課題に取り組むのであれば、プロジェクトを管理・推進する作業は極めて厄介なものになる可能性が高い。
実際、アメリカでは潜水艦発射型の弾道ミサイル(SLBM)「ポラリス」を開発する過程で、さまざまなプロジェクト管理手法を発展させてきた経緯がある。「Microsoft Project」などのプロジェクト管理ツールで馴染み深いPERTも、ポラリス計画を進める過程で編み出されたテクニックのひとつだ。
北朝鮮がノドン、あるいはテポドンといった弾道ミサイルを開発する過程で、どのようなプロジェクト管理を行っているかは不明だ。だが確実にいえることは、単に技術者の "尻を叩く" だけでは、こうした複雑なプロジェクトの実現は覚束ないということだろう。プロジェクトの構成要素をひとつひとつ、確実なものにしていきながら全体を作り上げていく、理詰めの管理手法が求められるはずだ。
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