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- 2023/03/16 掲載
TVerにみる「TVビジネス」崩壊と再生、「有料コース」まったなしの理由
稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解
最終回に視聴率が上がる
TVerが2015年10月にサービスを開始した際、その狙いは概ね3つあった。ひとつは、「海賊版コンテンツの不正コピーの防止・対抗」、次に「5局の番組がまとめて探せて見られるという利便性」、そして「TVから離れた若年層に、TVのコンテンツに触れてもらう」だ。前回言及した「若者にTVerが見られている」という現状からして、3つ目に関しては達成されたと考えてもよいのだろうか。しかし大手広告代理店・A氏の見方は少し違う。「むしろ0が1になったのだと思います。かつての若者が一度TVから離れて今戻ってきたわけではなく、もともと特にTV好きではなかった現在の若者が、TVerの普及によって『TVコンテンツの面白さを知った』と言ったほうが正確ではないでしょうか」(A氏)
一方のB氏はTVerの功績を、ドラマ視聴における「後追い層」の出現だとする。
「TVer登場前のドラマ視聴率は、基本的に第1話が一番高くて話ごとに脱落者が増え、徐々に下がっていきました。よほどのことがない限り、最終回で劇的に盛り返すことはありませんでした。ところが『silent』を始めとして、ネットで盛り上がったドラマはほぼ終盤で視聴率が上がっているんです。『silent』の最終話は個人視聴率で5.3%、世帯視聴率で9.3%と最高を記録。これは、放送開始当初はチェックしていなかった層が評判を聞いてTVerで後追いして気に入り、『家のリビングにTVはあるから、最終回はリアルタイムで放送を見よう』となった証しだと思います」(B氏)
これはPCやスマホで完結するはずのTVerが、旧来型のTVモニタでの視聴(視聴率)にまで影響を及ぼしているケースだ。A氏は、このような人気ドラマの最終回リアタイ視聴が、ある種「フェス化」していると指摘する。
「最終回、もしくは最終回の1話前くらいは、Twitterの実況を見ながら、あるいは友達とチャットしながらリアタイ視聴したい──といった、TV放送のフェス化・イベント化現象が起きている状況があります。昨今、音楽特番がやたら増えているのは、各局がそれを狙っているから。推しアーティストを同じくする友達同士が、『今夜のFNS歌謡祭、一緒に見ようよ!』となる流れが理想というわけです」(A氏)
TVerのCMは「見られている」
ところで、気になることがある。TVerに挿入されるCMだ。これはTV放送を録画した場合と違い、スキップすることができない。その点はYouTubeなどと同じだが、A氏によれば「TVerのCMは地上波のCMよりも見られている」という。「まず大前提として、TVerは“わざわざ選んで見る”ユーザーが多いことから、番組の視聴完了率が地上波TVに比べてずっと高いというデータが出ています。その上でCMをスキップできないので、CMも結構ちゃんと見られてる。しかも、TVerはどれくらいの長さのCMが入るかが番組によってまちまちで、一番短いと30秒しかありません。トイレタイムになりにくいんです(笑)。だから画面の前で待つことになり、その意味でも地上波の放送よりよっぽどCMをちゃんと見ることになる」(A氏)
TVerは仕様上、地上波TVのリアルタイム視聴のように「CM中に別チャンネルをザッピング」することができない。そのことも、CMをしっかり見せることに貢献しているはずだ。そのCMに関して「最近、ビッグニュースが耳に入った」と言うのはB氏だ。
「『silent』は、TVerのCM売上金額が、タイムCMの売上金額を超えたんです。つまり、ついに地上波のCM売上をデジタルが超えた。なかなかインパクトのある話です」(B氏)
「タイムCM」とは、広告主が特定の番組を指定し、その枠内で放送されるCMのこと。対する「スポットCM」は、広告主が曜日や時間帯のみ指定して放送されるCMのことだ。
「このニュースを聞いた各局のデジタル系部署は、『これで配信にさらに力を入れる理由ができた。社内説得の強力な後押し材料になる』と喜んでいますよ」(B氏)
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