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セレブタレントやインフルエンサーを起用したマーケティングは、企業にとり定番だ。ファンの認知を獲得して売上や利益の大幅な向上が見込めるからだ。だがそうしたスターはスキャンダルを起こすことが多々ある。そこで改めて注目されているのが「バーチャルインフルエンサー」だ。日本では初音ミクをはじめ二次元的キャラが活躍するが、米国ではよりリアルな見た目をしているバーチャルインフルエンサーが企業からの大きな信頼を勝ち得ている。そこで本稿では、米国で席巻するバーチャルインフルエンサーを使ったマーケティングの可能性を解説する。
カニエ・ウェスト×アディダス、代償は360億円…
企業による1つのマーケティング手法として、セレブやインフルエンサーの起用が挙げられるが、スキャンダルというリスクが大きくまとわりつく。その好例が、人気ラッパーのカニエ・ウェスト氏(現在はイェ氏に改名)の問題発言で被った、独アディダスの大損害だろう。
アディダスは、若年層の脳裏に自社製品のイメージを強く焼き付けることを狙ってカニエ・ウェスト氏に目を付けた。天才的なマルチタレントぶりを発揮し、ファッションデザイナーとしても活躍する同氏とパートナーシップ契約を結び、スニーカーなど主力製品をプロデュースしてもらった。
これがズバリ当たった。年間推定売上は10~20億ドル(約1,324億~2,648億円)に達し、特に人気アイテムであるイージー(YEEZY)スニーカーは市場において、「最も価値の高いアイテムの1つ」(
クーリエジャポン)になったという。マーケティングにおけるウェスト氏の存在感の大きさがうかがえる。
ところが、そのウェスト氏は問題発言や奇行を度々起こす「お騒がせセレブ」としても知られる。アディダスはそのリスクを取って成功したわけだが、2022年10月のウェスト氏による反ユダヤ主義発言を機に、契約解除に追い込まれた。米ビジネスインサイダーによれば2億4,600万ドル(約360億円)の売上損失が生じると予測されている。ウェスト氏は絶大なビジネスチャンスをもたらすと同時に、極めて代償の高くつくビジネスリスクでもあった。
Z世代の75%がフォローのバーチャルインフルエンサーとは
こうした中、労働法規や場所の制限を超越し、問題行動を起こすことがないバーチャルインフルエンサーが米メディアの注目を浴びている。バーチャルインフルエンサーとは、コンピューターで生成され、二次元的ではなくよりリアルな見た目をした架空のインフルエンサーを言う。外見や性格、行動は企業側の思い通りに指定でき、歳もとらない。
つまり、企業側が完全な支配下に置くことができるデジタルな存在であることが最大のウリである。AIでプログラムすれば、数千、数万人ものファンを相手に、パーソナライズされた会話を同時に行うことさえ可能だ。
バーチャルインフルエンサー情報企業の米VirtualHumans.org創業者であるクリストファー・トラバース氏は、「バーチャルインフルエンサーは人間のインフルエンサーがやれることをすべてこなすことができ、ターゲット層の満足度を人間のインフルエンサーの3倍に上げることさえできる」と語る。
そして多くのバーチャルインフルエンサーが、TwitterやInstagram、YouTubeなどの認証済みアカウントを持っている。米インフルエンサー調査企業の
The Influencer Marketing Factoryのアンケートによれば、回答者の58%が1人以上のバーチャルインフルエンサーをフォローしており、18歳から24歳の層に限れば75%に跳ね上がる。2000年前後に生まれたZ世代にとり、バーチャルインフルエンサーは身近な存在であるのだ。
このため、特にファッションやIT企業が積極的にバーチャルインフルエンサーを起用。
詳細は次ページで解説するが、有名ファッションブランドのレンシアガやディオール、プラダ、テック大手のアマゾンやサムスン電子など、多くの企業がこぞって起用している。
【次ページ】プラダやサムスンら続々起用、その成果とは?
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