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- 2005/12/21 掲載
丸山満彦先生に直撃! 日本版SOX法や内部統制は、情報システムにどうかかわるのか?
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丸山満彦 Maruyama Mitsuhiko 監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス部
公認会計士 パートナー
-エンロン事件[*1]に代表される企業の不正に対する是正措置として、米国ではさまざまな取り組みが進められていますが、事件が社会に与えた影響や波紋はどれくらいだったのでしょうか。
【丸山】 まずは、経営者が不正を行っていたことが大きな問題でした。投資家や企業の従業員を含む社会全体に対し、エンロンは伸び続ける企業だという虚偽の情報を流していたことになります。投資家が購入した株式や従業員のストックオプション[*2]などもすべて価値がなくなってしまいました。
それにより、投資をしていた企業が損失を出しただけでなく、多くの人が将来の生活設計の変更を余儀なくされました。こうしたことは、証券市場全体の信頼を失墜させる事態につながり、ほかの上場企業にも多大な迷惑がかかることになります。
こうした問題を解決するため、2002年にサーベンス・オクスリー法が成立し、これによって企業の財務報告に係る不正を厳しく取り締まる体制ができました。結果(財務諸表等)だけでなく、財務諸表等を作成するプロセスに対する経営責任を明確にした。
経営者自らが例えば会計のプロセスに誤りがないように処理していることを主張し、監査人による検証を経ることで、財務諸表[*3]や会計処理の適正さを、プロセスとしてチェックしたことを社会的に確認できる機能を法律に持たせようとしたのです。このような制度を通じて、投資家が安心して投資することができる環境を構築しようとしました。
企業の不正は以前からありましたが、なぜ今、こうした問題が取り上げられ、新たな法規制が設けられたのでしょうか。以前との最大の違いは、プロセスのチェックなのでしょうか。
【丸山】 たしかに、企業による不正は以前からありました。COSOレポートができた背景には、ウォーターゲート事件などの経営者による不正があります。この事件の後に、内部統制監査の実施を考慮した報告書が作られていたのです。ところが、それにはコストがかかるとして、経済界から大きな反対が寄せられ、一般企業に対する内部統制監査は実現には至りませんでした。
ところがその後エンロンやワールドコムなどの事件が立て続けに発生したことにより、いったんは保留にされた外部による監査が改めて注目を浴びるようになったのです。
しかも、エンロンやワールドコムは成長が著しく、また恐らくは、両社がエネルギーや通信といった「社会インフラ」を担う企業であったため、社会に与えた影響は極めて大きかったのです。
[*1] エンロン事件
米国の大手エネルギー企業「エンロン」が2001年12月、粉飾決算が発覚したことで破産し、多くの投資家に多大な損害を与えた。単なる1企業の倒産問題ではなく、米国の証券/金融市場に対する信頼を失墜させる事態に発展した。同様のワールドコム事件とあわせ、新たな法整備の契機となった事件といえる。
[*2] ストックオプション
あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で所定数の株式を会社から取得することができる権利をいう。株価が上昇した時点で権利を行使して会社の株式を取得し、それを売却することで株価上昇分の報酬が得られるので、役員や従業員に付与した場合、報酬として機能させることができる。また、特定の株主等に与えることにより企業買収に対する対抗策に利用することもできる。
[*3] 財務諸表
会社の経営成績や財政状況をまとめ、株主や債権者に知らせたり、経営管理に利用等するために作成されるもの。財務諸表は、一定時点の企業の財政状況を示す「貸借対照表」 、経営者が一定期間の企業の経営成績を示す「損益計算書」、一定期間の株主資本等の変動を示す「株主資本等変動計算書」(現在の企業会計では利益処分計算書、剰余金計算書であるが、国際会計基準に合わせて改定される予定であることから、新しいものを紹介している)、一定期間の資金の収支を示す「キャッシュフロー計算書」及び「会計方針および注記事項」から構成される。
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