- 2006/04/14 掲載
企業価値を向上させるM&A戦略(3/4)
競争の制限(Blocking Competiton)
買収先の力を利用して自社の競争的優位性を確立しようとするのもM&Aの重要な動機である。99年に米国シティグループは日興証券(現日興コーディアル証券)と資本提携し、日興ソロモン・スミス・バーニーを設立した。シティバンクの対日金融証券戦略が加速したものとして話題を呼んだが、シティグループ・サイドの狙いは全世界的な競争制限にあったと見ることもできる。当時、日本の有力証券会社の一角 として国際的な業務展開を図っていた日興証券は、ソロモン・スミス・バーニーと社債や株式の取り扱いでは遜色のない有力な会社であった。本来ならば、日興とソロモン・スミス・バーニーは国際証券市場で熾烈な競争を強いられたはずであったが、M&Aによりシティグループと日興は友好的な関係へ変身し、競争は雲散霧消した。
M&Aによる企業価値増加
海外市場への参入(International Expansion)
企業が海外市場へ参入する場合、単独での進出(Go-it-Alone)を計画しても、相手国政府の方針により単独での進出が認められにくい場合がある。したがって、クロスボーダーM&Aでは、Go-it-Aloneを選ぶか、CV(Collaborative Venture)設立を前提としたJVを選ぶかを決定しなければならない。04年10月、松下電器は中国杭州にエアコンと白物家電の生産拠点を建設すると発表した。総投資額は19億元(270億円)の予定で、設立新会社は松下電器(中国)(100%独資化の事業統括会社)の全額出資子会社である。一方、東芝は白物家電の生産・販売拠点をTCL集団との合弁事業で広東省に設立する予定である。海外でGo-it-AloneとJVのどちらの形式を選択するかは、各国政府の意向に沿う場合もあるが、企業は経済的な理由からどちらかを選択する。エナールとレディー(2004)は、企業が買収よりもJVを選択する理由として以下のものを上げている〈※注2〉。
1.企業分割が困難な場合(Indivisibility)
買収は相手企業の事業・経営資源・財務内容などに関するデューディリジェンスを経て成就する。デューディリジェンスを経るまでもなく、買収企業全体を買収するよりも、よい部分だけを買収した方が好ましい場合がある。優秀な技術を持つ企業が買収先の営業力だけをほしいケースでは、買収先と合弁でCVを立ち上げる方が効率的である。
2.経営管理費用(Management Cost)を削減できる場合
海外で企業を買収すれば、異文化に親しんだ現地の従業員との融和を図らなければならず、その費用は軽視できない。
外資ファンドが買収した日本の銀行では、トップに日本人を充てることが慣例化しているが、スカウト費用はかなり高額なはずだ。だが、JVにより従業員の管理費用を相手企業が負担してくれれば、それだけ費用をセーブすることができる。
3.企業価値の評価(Value Assessment)が困難な場合
買収先の詳細な事業内容、経営上の問題点、将来の収益性など企業価値の把握が難しい場合、専門家に依頼するデューディリジェンスには多大な費用と長い時間がかかる。特に、買収先が異業種の場合にはこの傾向が強く、Time & Cost consumingな買収よりもJVを選ぶ方が経済合理性に適している。
企業はこれら諸点を総合的に判断してアライアンスの形態を決定し、M&Aを実行し、あるいは中止する。欧米の企業はM&Aを従来のDCF法に加えてリアル・オプションにより価値評価する傾向を強めており、M&Aによる当初(2~3年)の企業価値増加額が高いと判断された場合にのみ資金投下を行う。
オプション費用を含めた投資額を上回る期待収益を見込めるならM&Aにゴーサインを出し、中止する場合は事前費用の出費だけを覚悟すればよい。
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