- 2005/11/25 掲載
【企業経営で着目したい4つの時代】マーケティング・アンビションの時代
法政大 嶋口充輝教授
経営理念と堅い戦略をつなぐ
柔らかい戦略が必要とされる
――嶋口さんは、「柔らかい企業戦略」の重要性を説かれていますが、まず、この言葉の意味するところについて教えてください
嶋口 企業戦略には、堅い戦略と柔らかい戦略があると考えています。堅い戦略というのは、私たちが普通に使う所の「戦略」です。これは、目的が明確で、そのために誰が何を行うべきかがしっかりと規定されているものです。それに比べ、柔らかい戦略というのは、そこまで明確ではなく、企業がこれから進む方向性は明示するものの、具体的な方法論や役割分担までは規定しない類の戦略です。言ってみれば、組織のメンバーが、その旗印の下に集い、その方向性に従って、自分が何をなすべきかを考え、独自の判断と創意工夫で組織に貢献する、そうした余地を残した戦略なのです。そのため、外部の者が聞いても、漠然とではあっても、その方向性がイメージできるのです。
――それは、いわゆる経営理念やビジョンとは違うものなのでしょうか
嶋口 理想的には同じなのですが、日本企業が掲げる経営理念やビジョンというものは従来、「和をもって尊しとなす」とか、「顧客第一主義を貫く」など、抽象的なものが多かったですよね。今でもそうした、いわば“標語”を経営理念とする企業は少なくないと思います。しかしこれでは、あまりに漠然としています。
もっと言ってしまえば、当たり前のことを言っているに過ぎない。しかも、これらのフレーズは、実は社内に向けたメッセージであって、社外に向けたものではないのです。私が言う「柔らかい戦略」は、この間をつなぐものになるのです。会社の内にも外にも等しく発せられ、いわゆる理念よりも実効性の高い、戦略性を持ったワードで表されるべきものです。私は、この「柔らかい戦略」を「戦略的アンビション」、あるいは「マーケティング・アンビション」と呼んでいます。
――「アンビション」とは、クラーク博士が言った「ボーイズ・ビー・アンビシャス」のアンビション(ambition)でしょうか
嶋口 そうです。大志とか夢、高邁な目的意識を意味します。1989年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に登場したゲイリー・ハメルとc.k.プラハラードの「ストラテジック・インテント」、日本語にすれば「戦略的な意図」という考え方があります。彼らは、「後発で市場に参入して世界的なリーダーシップを握った企業の経営者の中には、用心深く慎重すぎる人物は滅多にいなかった」と語っています。
さらに、撤退企業を研究して常に発見できる点は、「理由のいかんにかかわらず、その経営者たちに経営計画や既存の資源の範囲を超えた目標、つまり大胆な目標へ挑戦しようとする意欲がなかったことだ」と指摘しています。つまり、成功した企業には常に、「自分たちはこうしたいという強い思い、意図」が存在したというわけです。これは、私の言うアンビションに非常に近い考え方です。
――つまりそれは、誰にとっても、自分の会社が、あるいはその企業が、何を目指しているのか、どのような企業になりたいと思っているのかがわかる、そんな言葉で表されるべきなのですね
嶋口 そうです。メタファーといいますが、日本語にすれば、「絵姿」がイメージできる。そうした言葉で表されるべきものです。目標となる絵姿がイメージできるから、社員であれば、そのために自分が何をするべきか、どのような行為が許されて、どのような行為は許されないかがわかる。顧客や株主にしてみれば、その企業を自分が支持するかどうかを決められるというわけです。
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