- 2024/11/09 掲載
アングル:米低価格住宅不足に「犯罪スコア」が追い打ち、保険料高騰
[ワシントン 5日 トムソン・ロイター財団] - 米国で手頃な価格の住宅が決定的に不足している状態がさらに深刻化するかもしれない。第三者が算定する「犯罪スコア」が一因で住宅保険料が高騰し、一部事業者が撤退に追い込まれかねない事態になっているからだ。
過去5年で米国の住居費は急上昇し、ほぼ全ての地域で低価格の住宅が不足している。長期間続いてきた新築住宅の供給ひっ迫は近年、インフレや人手不足でさらに拍車がかかっている。
全米集合住宅協議会(NMHC)は昨年、高騰する保険料が全米で家賃を押し上げていると警告し、平均の保険料は1年で26%上がるとともに、個人賠償責任保険の保険料も15%上昇したと指摘した。
南部ジョージア州アトランタで低価格住宅を開発・所有しているアビ・ウォルフ氏は、どの物件を取っても採算が取れにくくなりつつあると嘆く。
ウォルフ氏が負担する保険料は、10年前は集合住宅1部屋当たり年間約50ドルだったのに、今では1500ドルになった物件もある。特に所有物件内で暴行傷害事件が起きた際に所有者を訴訟から守るための保険は、事実上加入できなくなった、とウォルフ氏は話す。
同氏がジョージアでまだ利用できる少数の保険会社は、近隣の犯罪発生件数に基づいた「犯罪スコア」を使って物件の保険料を決めているが、どのような尺度でスコアが算定されるか詳しいことは明らかにされていない。
こうした法外な保険料のために所有物件の売却を迫られる業者が増えれば、アトランタの住宅市場は物件の連鎖的な処分が止まらなくなるのではないか、と同氏は心配している。
アトランタ市域の一部を含むデカルブ郡の行政委員長に選出されたロレイン・コクランジョンソン氏は、犯罪スコアをかつて銀行が導入していた「法的なレッドライン設定」にたとえる。この仕組みの下では主に黒人や他のマイノリティが居住する地区への住宅ローン供与はリスクが高過ぎると判断されていた。
コクランジョンソン氏は「これらの地域は最も大規模な再生が求められるだけに、法的な面で関心を向ける必要がある。保険料の引き上げ自体を問題視するものではないが、加入を全く否定してはならない」と訴えた。
<ブラックボックス>
米国損害保険協会のエリック・ゴールドバーグ氏によると、犯罪スコアは民間保険会社が損害リスクを分析する際に用いる手法の1つ。「例えば住宅の借り手や訪問客が敷地内で襲撃されれば、訴訟を起こされる恐れがある。その上、物件が犯罪多発地域にあれば、破壊や放火、盗みなど保険引き受け能力に響きかねない事案のリスクも増大するかもしれない」という。
ゴールドバーグ氏は、物件所有者による警備システム導入などのリスク軽減の取り組みも、保険会社は考慮に入れるだろうと補足した。
バージニア工科大学のジェフリー・ロバート助教は、商業不動産への犯罪行為に関する費用のかかる訴訟を避ける目的で、犯罪スコアに頼る保険会社は増えていると話す。
ロバート氏によると、低価格住宅は犯罪が比較的多い地域に存在することが多く、この点は特に低価格住宅にとって問題になるという。同氏は2020年に執筆したリポートで、犯罪スコアは独自のアルゴリズムを使った外部企業が創出し、国勢調査のデータやさまざまな犯罪の報告を利用しているものの、個別物件に適用できるようなきめ細かい情報を欠いているとの見方を示した。
当該住宅の数ブロック先、ないし地方であれば数マイルも先で起きた襲撃事件でも、この物件の保険料を押し上げるか、保険加入自体が拒否される要因となる可能性があるという。ロバート氏は「あなたが犯罪スコアの高い地域に住んでいるなら、交渉の余地はない」と説明した。
ロバート氏の研究を支援する保険ブローカー、スコット・インシュアランスで低価格住宅部門責任者として顧客のために保険加入交渉を担当するネーサン・カー氏は、保険料高騰に伴い、犯罪スコアへの不満の声が高まりつつあると指摘する。
カー氏は「現在の保険コストは本当に過酷だ。不動産と一般的な損害保険の保険料はわれわれの業界を破壊しつつある」と述べ、犯罪スコア算定手法が「ブラックボックス」になっていると批判した。
ただニューヨークを拠点に活動する非営利団体フェアビュー・ハウジング・パートナーズのエグゼクティブディレクター、トム・アムダー氏によると、犯罪スコアは低価格住宅の保険料高騰をもたらしている要素の一部に過ぎず、自然災害や訴訟増加で経費が膨らんだ保険会社が住宅事業者にコストを転嫁している面もあるという。
アムダー氏は、今の状況が続けば一部の住宅所有者は物件を手放すしかなくなり、オーナー変更や差し押さえを通じてそうした物件に適用されていた取引価格の上限規制が外れるのが「(低所得住宅の)存続に関わる大きなリスク」だと分析。過去1年で当局も介入の必要性を認識し始めたと付け加えた。
連邦政府の住宅都市開発省の広報担当者は、不動産保険料高騰の影響を「深く懸念」し、問題解決のための新たな手段を検討していると述べた。
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