- 2024/05/15 掲載
焦点:マスク氏のスペースX、納入業者に支払い遅延 30社近くが法的措置
Marisa Taylor Steve Stecklow
[13日 ロイター] - 大富豪イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業スペースXは、テキサス州全域でロケット人工衛星事業を急拡大している。打ち上げ施設だけでなく、オフィスビルやショッピングセンターまで建設中だ。
だが、ロイターが同州の不動産の登録記録を調べたところ、スペースXとその下請企業による建設会社やサプライヤーに対する支払いがかなり遅れている可能性が見えてきた。ロイターの調査では、請求書の未払いや下請企業間でのたらい回しに業を煮やした多くの建設関連企業が、報酬の確保のためにスペースXの土地に対して留置権の行使を申請していることが明らかになった。
ロイターの取材に応じた複数の建設会社は、スペースX関連のプロジェクトには二度と関わりたくないと話す。ハイドロズ・エナジー・サービスのオーナーであるブライアン・ロゼル氏は、「連中が今日電話してきたら、ふざけるなと言ってやる」と語る。
掘削業者のハイドロズはスペースXと契約し、同社の開発事業の多くが行われているテキサス州南部ブラウンズビル近郊の雨水管清掃を請け負った。作業完了から数カ月たった昨年6月にハイドロズは留置権の行使を申請。その約2週間後、スペースXはようやく請求額1万9214ドル(約300万円)を払ってくれた。
「うちは年商数億ドルといった規模の企業ではない。それだけに、支払いの遅れは辛かった」とロゼル氏は言う。
ロイターはスペースXに対し、孫請け企業やサプライヤーによる留置権請求や苦情についてコメントを求めたが、回答は得られなかった。
テキサス州の不動産の登録記録によると、スペースXとその下請企業による開発現場を巡っては、2019年以降、ハイドロズを含む30社近くが少なくとも72件の留置権の行使請求を行っている。ロイターの試算では、こうした請求により、合計250万ドル以上の支払いが求められている。
未払い請求書の宛先がスペースXなのか、同社に代わって業務・資材を発注した下請企業なのか、個々の留置権請求について確認することはできなかった。
いずれにせよ留置権は、スペースXが所有する土地において実施された工事に対し、債権者が同社に対する請求権を確保するための法的仕組みだ。テキサス州法では、所有する不動産で行われた工事に伴うすべての未払い請求について、土地所有者が責任を負うものと定められている。
だが不動産や建設産業の専門家によれば、そうした法的な規定があるとしても、債権回収が難航する場合もあると言う。大企業に支払いを迫るだけのリソースや法的ノウハウを持たない中小企業にとってはなおさらだ。零細企業の場合、将来的に大企業からさらに受注できることを期待して、支払いが遅延しても我慢する例も見られる。
元テキサス州務長官で会計士のカルロス・カスコス氏は、「スペースXは、遊び場を支配するいじめっ子のようなものだ」と言う。共和党員のカスコス氏はキャメロン郡の職員だった頃、同郡でのスペースXの開発計画に賛成票を投じた。「こういう支払い遅延は問題にされない。誰もがスペースXの仕事がほしいと思っているから」
マスク氏は世界でも有数の富豪であり、起業家として知名度も抜群だが、過去にも債務返済を怠って訴えられたことがある。ソーシャルメディアのツイッター(現X)を2022年に買収した後も、未払い請求を申し立てる下請企業からの提訴が頻発した。ただし、多くは和解に至っている。
Xの広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
スペースXほどの事業規模の企業にすれば、250万ドル程度の債務など雀の涙だ。
約20年前に創業して以来、スペースXは着実に、宇宙・国防・情報分野の連邦政府機関を含む顧客からの契約を勝ち取ってきた。同社は現在、米国の株式非公開企業として最も企業価値の大きい企業であり、1800億ドル以上の評価を与える金融アナリストもいる。
米国航空宇宙局(NASA)は2022年までに、さまざまなプロジェクトやサービスの対価として少なくとも118億ドルをスペースXに支払った。スペースXは2021年、スパイ衛星ネットワークを構築に関して、米国の情報機関と機密扱いの契約を結んだ。
ロイターは昨年、一連の報道でスペースXを含むマスク氏の製造ビジネスを検証した。
<「痛くもかゆくもない」>
スペースXの最近の事業拡大は、テキサス州内のいくつかの農村地帯に恩恵をもたらしている。特に顕著なのは、ブラウンズビルの東にあるボカチカの集落だ。郡から10年間の減税措置を受けたスペースXは、2014年にボカチカで施設建設に着手した。
リオグランデ川の河口近く、メキシコ湾に面したボカチカは、まもなくスペースXによるロケット発射の拠点となった。スペースXは、自由の女神よりも背の高い「スターシップ」ロケット用の発射台と、ロケット製造関連の新しいビル群を建設した。
スペースXは住宅の改築も進め、他の物件の建築も計画している。テキサス州の許認可規制庁への提出書類によれば、同社は近郊にショッピングセンターや総工費1億ドルのオフィスビルなどの施設を計画しているという。
こうした開発や、スペースXが地域経済に与える影響、留置権の請求について郡にコメントを求めたが、担当者からの回答は得られなかった。
スペースXはこの地域に数千人分の新たな雇用と、一部の建設業者への恩恵をもたらした。だが、納得できない人がいることは留置権請求からも明らかだ。
テキサス州の建設関連企業がスペースXに対してどの程度の請求を突きつけているのか把握するため、ロイターはキャメロン、バストロップ、マクレナン各郡で過去5年間に提出された留置権請求を調査した。スペースXによる近年の開発は、ほぼこの3郡に集中している。
留置権の請求者は、掘削業者のハイドロズのような零細企業から、ノースカロライナ州に拠点を置く建築資材大手マーティン・マリエッタ・マテリアルズといった大企業までさまざまだ。72件のうち少なくとも41件は今年に入って提出された。
無事に支払われた例もある。
記録によれば、マーティン・マリエッタが留置権請求を行った約2カ月後の2023年3月、スペースXは請求額55万7611ドルを支払った。マーティン・マリエッタにメールや電話でコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ただし、ロイターが検証した請求の多くは未払いのままだ。
その原因として、対象の土地が売りに出されない限り留置権の効力が発揮されないという事情がある。留置権が付いた土地を売りに出した場合、(請求した工事業者らへの)未払い代金を清算するまで売却手続きは完了できない。
前出のカスコス氏は、「留置権請求は、スペースXにとっては痛くもかゆくもない。資産をすぐに奪われてしまうわけではないからだ」と語る。
大企業でさえなかなか請求金額を支払ってもらえない例がある。
テキサス州に本社を置く資材サプライヤーのCMCコンストラクションサービスは、26カ所の拠点を抱え、社内には法務部もある。CMCは2022年7月以降、スペースXが州都オースティン近郊のバストロップ郡で進めるプロジェクトのために、12万9592ドル相当の資材を納入した。CMC幹部はロイターに対し、2023年1月に留置権請求を行ったが、スペースXからの支払いはまだだと話した。
CMCが資材を納入した先は下請企業であるオズバーン・コントラクターズで、記録によれば、オズバーン自体もスペースXに対し、請求額の支払いを求める留置権請求を行っている。提出は昨年9月で、マクレナン郡マクレガーでのスペースXのプロジェクトに関連するコンクリート工事に対する6万7289ドルの支払いを求める内容だ。請求を行ったオスバーンの代表者マイケル・コレッラ氏は、コメントを控えた。
サプライヤーと孫請企業が長く連なり、スペースXのプロジェクトに関連した企業自体が混乱している例も見られる。
ブラウンズビル近郊の同族経営企業GCスチール・アクセサリは、スペースXのロケット施設のために鋼材その他の資材を納入したが、18カ月以上も支払いを待たされている。
留置権請求記録と、GCのオーナーの1人シルビア・ガーザ氏によると、当該の資材は、スペースXのロケットエンジンの1つ「ラプター」の保管場所と、重要な区域を爆風から守る「ブラストウォール」で使われる予定だった。GCは、2022年8月から10月にかけて資材を別の下請企業であるRGVファイブスター・コンクリートに納入した。
何度も催促を重ねた末、GCは昨年12月、合計9万9591ドル25セントの支払いを求め、スペースXの資産に対する5件の留置権請求の第1弾を提出した。「当社にとっては大金だ」と、ガーザ氏はロイターに語った。「だが、払ってくれる相手にたどりつけない」
RGVファイブスター・コンクリートはロイターに対し、同社の側でもやはりスペースXのプロジェクトに関わった別の下請企業からの支払いが滞っているため、GCへの支払いができないと説明した。RGVファイブスターのオーナーの1人、ナンシー・ガルシア氏は「支払う金がない」と話す。
ガルシア氏は「別の下請企業」の名を挙げることは控えるとしている。ロイターでは、GCが納品した資材を使用した作業や製品に関して、スペースXがいずれかの企業に支払いを行ったかどうか確認できなかった。
ガーザ氏は、こうした責任体制の欠如のせいで、社員10数名を抱えるGCの資金繰りは悪化していると語る。「お金がどこにあるのかはどうでもいい」と同氏は言う。「いずれにせよ、当社にはまったく支払われていない」
(翻訳:エァクレーレン)
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