- 2024/04/10 掲載
アングル:夏の追加利上げ、政府内に慎重論 解散絡み補選に注目
[東京 10日 ロイター] - 日銀が17年ぶりの利上げに踏み切って3週間。為替円安をにらみ、市場では早ければ7月にも追加利上げに動くと予想する向きもあるが、政府・与党内からは時期尚早との声が出ている。賃金上昇がモノやサービスの価格に転嫁されていくか見極めに時間が必要なほか、次の利上げは住宅ローンなど国民生活にも直接影響を与えるためだ。岸田文雄首相の衆院解散のタイミングも関連するとの指摘もある。
<緩和的環境の維持を強調>
日銀は3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除など大規模金融緩和の修正を行った。同時に、当面は緩和的な金融環境が続き、経済・物価を支える方向で作用すると表明した。
岸田政権は、ハードランディング以外に是正のすべがないと思われていたマイナス金利やイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の解除を大きな混乱を招くことなくやり遂げた植田和男総裁の手腕を高く評価。同時に、日本経済の成長軌道を揺るぎないものにするための連携を期待している。
岸田首相は決定会合当日、植田総裁から政策修正の説明を受けた後、記者団に「現下の情勢を踏まえた新たな段階へ踏み出すと同時に、緩和的な金融環境が維持されることになったのは適切だ」と述べた。「緩和的な金融環境の維持」に言及したのは「それなりに大きな意味を持っている」(政府高官)という。
3月の日銀会合後、外為市場で円安が進み、対ドルで1990年以来の安値圏で推移する中、市場では日銀が早ければ7月にも追加利上げに踏み切るとの見方が出ている。しかし、ある政府関係者は、今年の賃上げ分が価格に転嫁していくサイクルを見極めるには、少なくとも7月の利上げは早すぎるとみる。
政府は春からの賃上げと定額減税の効果で夏以降に消費が好転する筋書きを描くが、なお不透明感もある。仮に電気・ガス代の負担軽減策が打ち切られ、5月から大幅に引き上げられる再生可能エネルギー発電促進賦課金が加わった場合、「標準的な家庭で年3万円以上の負担増となる」(第一生命経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミスト)という。電気・ガス代の大幅上昇で賃上げ分の一部が相殺されれば「賃上げからの消費増という好循環の流れに水を差しかねない」と同氏は指摘する。
「マイナス金利解除は既存の住宅ローン債務者にほとんど影響ないが、さらに利上げとなると短期プライムレートの引き上げにつながるので既存の債務者、中小企業の負担感につながる」(ニッセイ基礎研究所の上席エコノミスト、上野剛志氏)との指摘もある。追加利上げによって住宅ローン金利が上昇することになれば、日銀と連携している岸田政権にも批判が出やすくなる。
ある自民党幹部は「マイナス金利解除ぐらいはO?だけど追加利上げはダメだ」と断言。「総理はハードルの高いデフレ完全脱却を掲げており、追加利上げは簡単ではないのではないか」(内閣府)などの声も聞かれる。
別の経済官庁幹部は7月の追加利下げについて「可能性ゼロというのはあり得ないが、普通に考えればやらないんじゃないか」とみている。「消費が弱く、物価が上昇し続けるかも不透明。急いで利上げする必要は乏しい」(財務省幹部)との声もある。
<解散判断も影響>
日銀の追加利上げ判断を巡っては、岸田首相が衆院の解散総選挙に踏み切るタイミングも関連するとの指摘がある。このため、今月28日に行われる衆議院の3つの補欠選挙に注目が集まっている。自民党は長崎3区での不戦敗を決め、島根1区は野党候補の優勢が取りざたされる。残る東京15区で自民党が相乗りを模索する候補が当選できなかった場合、自民は不戦敗も含めて3補選全敗となる可能性がある。
昨年末以来、清和政策研究会(安倍派)の要職排除を決め、内閣支持率も低迷している岸田首相に対する与党内の反発は強い。ある閣僚経験者は「28日の補選が全敗に終わったら首相の求心力の一段の低下につながり、『岸田氏が自民党総裁では次の衆院選は戦えない』となるだろう」との見方を示す。
日銀や政府・与党の一部には、岸田首相がデフレ完全脱却をアピールするかたちで6月にも衆院の解散総選挙に踏み切り、一定の成果を得れば政権基盤が強化され、7月にも日銀が追加利上げを行いやすくなるとの観測が出ていたが、このシナリオは難しくなる。
早期衆院解散ができない場合、「時間とともに物価上昇ペースが鈍化し、追加利上げは難しい可能性がある」(先の財務省幹部)との見方も出ている。
(杉山健太郎、竹本能文 編集:石田仁志)
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