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- 2022/11/21 掲載
イーロン・マスクの買収でTwitterに巣食う「サイバープロパガンダ」はどうなる?
サイバープロパガンダツールとしてのTwitterの悪用
最初に断っておきたいのは、イーロン・マスク氏によるツイッター社買収の是非や効果・影響について、筆者自身は評価・判断を保留している。本人のツイートなどからは「(Twitterを)自由な言論の場にすること」が買収の動機と判断できる。だが、通常のビジネスでは巨額の買収の動機にはなりにくいものだ。本当の目的は何か? また、本人は純粋に「自由な言論の場」を作りたいと思っての行動(マスク氏ならありそうではあるが)だとしても、本当にそうなるかはまた別の話だ。
マスク氏のツイッター改革は現在進行形で、状況はめまぐるしく動いている。スナップショットの評価はできても、全体の是非や結果を評価できる状態ではない。CNBCやNewYork Timesが偽解雇者のインタビュー記事を報道しているように、確実な情報が少ない。また、アカウントポリシーやフィードアルゴリズムもたびたび変更している状態なので、ツイート情報の利用にも注意が必要だ。
さて、本稿で取り上げたいのは、イーロン・マスク氏による買収と経営方針変更が、SNSやメディアとしてのTwitterに与える影響、特にサイバーセキュリティにおける影響だ。Twitterは国家支援型の「サイバープロパガンダ」に利用されていることが、以前から問題になっていた。
マスク氏による買収の目的は「自由な言論の場」の確立と本人が述べている。Twitterの恣意的なトレンド操作の是正、不当・不透明なアカウント凍結・シャドウバン(強制非表示)といった問題へも対応するとされている。
ツイッター社が組織的に特定国家や勢力と結託して、フェイクニュースやプロパガンダ工作を行っている事実は確認されていない。だが、同社の広告ツイートのポリシー、モデレートやキュレーションの方法、拡散アルゴリズムを利用(abuse:悪用)したサイバープロパガンダは、複数のセキュリティベンダー、研究者が報告している。
構造的にエコーチャンバー現象が避けられないSNS
サイバープロパガンダの基本手法は、ソーシャルネットワークやソーシャルメディアの拡散アルゴリズムとエコーチャンバー現象を利用する。
エコーチャンバー現象とは、閉じた空間では類似の意見がエコーのように反射・増幅され、対立意見などがかき消されてしまうことを指す。SNSなどでは、特定のリンクやフィルタ、あるいはレコメンドアルゴリズムによって、自分が賛同する意見や都合の良い意見ばかりタイムラインに表示されるようになる。洗脳やプロパガンダツールとして利用されやすい。
また、SNS運営側の広告やアドネットワークの悪用も考えられる。作為的なキュレーション、表示アルゴリズムの操作が可能なら、フェイクニュースを効果的に世界中に拡散させることが可能になる。このような「世論操作」は、選挙前後に政党や候補者から委託された代理店が候補者のアピール、政策流布のために行うものから、特定勢力・特定国家を貶める工作に利用される場合までさまざまなレベルが存在する。
もちろん、候補者のリアルな活動を広報する目的でSNSを利用することが即違法になるとは限らない。しかし、情報そのものがフェイクでもなく問題のない政治活動、社会貢献だとしても、その拡散方法に多額の広告費やグレーなSEO的アルゴリズムが入ることには議論が必要かもしれない。背景に国家や警察組織といった法執行機関がかかわる場合は、透明性と慎重な議論が不可欠だ。フェイクニュースや偽情報に至っては議論するまでもない。
【次ページ】最小の人員で大衆を「効率よく扇動」する仕組み
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