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ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、米中対立のさらなる激化、依然としての残るテロ組織の脅威など、世界情勢は流動的に変化している。たとえば、10月に中国共産党の党大会を控える習近平国家主席は、3期目に向けて強いリーダーシップを国民に示すため、台湾問題などで対立する米国に対してより厳しい姿勢を示す可能性がある。こうした地政学リスクは日本企業にとって、海外事業の継続に関わる大きな問題となる。本稿では、世界情勢の最新動向を紹介するとともに、日本企業が押さえるべき地政学リスクへの対応方法について解説する。
「9.11」を起こしたアルカイダの脅威が再び?
大国間競争に世界の関心が移るが、我々は引き続きテロの脅威を注視する必要がある。たとえば、2001年9月11日に米同時多発テロ事件を首謀した国際テロ組織のアルカイダは、今日では弱体化したものの、専門家は引き続きその動向に懸念を示している。
バイデン米大統領は8月1日、アルカイダの現指導者アイマン・ザワヒリ容疑者(当時は副官)を、アフガニスタンの首都カブール周辺でドローンによって殺害したと発表した。国際テロ組織アルカイダの指導者だったアイマン・ザワヒリ容疑者が殺害されたことを受け、米国務省は8月2日、中東やアフリカなどで活動するアルカイダ地域支部やその支持者らが米権益を狙った報復テロを行うリスクが高まっているとして注意喚起した。
国務省は、各国にある米国大使館など米関連施設への攻撃が想定されるとした。今日でもアフガニスタンには数百人レベルのアルカイダ戦闘員が活動しており、そのほか中東やアフリカ、南アジアなどでもアルカイダを支持する武装勢力が存在する。アルカイダの脅威が再び「9.11」のテロレベルにまでなる可能性はゼロに近いが、勢力を盛り返す潜在的脅威は残っている。
台湾問題でエスカレートする米中対立
しかし、今日、日本企業にとってもっと差し迫った問題は大国間対立だろう。
昨今では台湾問題を巡って米中の対立がさらにヒートアップしている。ペロシ米下院議長が8月3日、台湾の蔡英文総統と会談し、米国が台湾を見捨てることはないとの姿勢を強調した。米国下院議長が台湾を訪問するのは1997年以来25年ぶりとなったが、米国の事実上ナンバー3が訪問したことで中国はこれまでになく強く反発した。
ペロシ米下院議長の訪台前、中国は訪台すれば断固たる対抗措置を取ると米国を強くけん制し、台湾周辺での軍事的威嚇を活発化させた。また、習国家主席は最近行ったバイデン大統領との電話会談で、「火遊びをすればやけどをする」とペロシ米下院議長の台湾訪問に強くくぎを刺した。だが、結局ペロシ米下院議長は訪問し、中国は泥を塗られる結果となった。
今日の鈍化する国内経済や共産党のゼロコロナ政策に中国国民による政権への不満も高まっていると見られ、3期目を目指す習国家主席としては国民に対して強いリーダーシップを示す必要がある。今後、中国はより強硬な措置に出る可能性があり、米中対立はまた新たな危険なフェーズに入ったと言える。
このように世界情勢で緊張が高まる中でも、どのように対応していいか分からない日本企業は少なくない。ペロシ米下院議員が訪台した直後、筆者の元には「このまま台湾で操業を続けるべきか、一時停止するべきか」、「駐在員を早めに帰国させるべきか」、「中長期的に考え撤退を検討するべきか」などの問い合わせが複数あった。海外展開する企業は、多種多様なリスクをできる限り回避し、安定的かつ効率的な経済活動を継続したい、と思うことだろう。
テロや台湾有事などの地政学リスクは、企業が対処すべき重要項目になっている。しかし、地政学リスクと言っても武力行使やサイバー攻撃、テロや暴動、経済制裁などさまざまなタイプがある。しかもいつどこでそれが先鋭化するかどうかの予測は極めて困難と言えよう。では、企業は不確実性、不透明性にあふれる地政学リスクへどのように対処すべきなのだろうか。いくつか提言してみたい。
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