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ロシアによるウクライナ侵攻が世界的な物価高騰に拍車を掛けたことで、世界各地の情勢が不安定になっている。たとえばスリランカでは国内産業の低迷や物価の高騰で経済危機が起こり、デモや暴動が頻発、政権が崩壊するまでに至った。こうしたケースは程度の差はあっても先進国を含めた世界各地で起こっている。日系企業としては、経営面だけでなく駐在員の安全確保の観点からも早急の対策が必要となるだろう。今回は世界各地の情勢をまとめるとともに、今後の情勢動向についても考察する。
スリランカは物価高騰で「政権が崩壊」
ロシアによるウクライナ侵攻によって、石油や小麦など原材料の価格上昇が世界で続いている。これを受け、日系企業でも自社製品の値上げに踏み切った例が多く、今後もさらに値上げ製品の数は増えることだろう。しかし、物価高騰から生じる影響で、企業が懸念すべきことは経営的視点に留まらない。
筆者は
以前の記事で、企業が抱える政治リスクとして、「政治紛争下の国家による輸出入制限や関税引き上げなど、進出先での経営状況を含めて会社全体の利益に悪影響を及ぼす恐れのあるリスク」、「暴動や抗議デモ、テロや戦争など現地に滞在する駐在員や出張者(その帯同家族を含む)の仕事や生活に悪影響を及ぼす恐れのあるリスク」を紹介した。世界的な物価高騰は、前者だけでなく後者のリスクでもある。
国によっては、物価高騰が治安を悪化させるのだ。
たとえばインド洋に浮かぶスリランカでは、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とした物価上昇や燃料不足などが、市民生活に深刻な影響を与えた。これは、新型コロナ禍で主力産業の観光需要が激減し、慢性的な外貨不足で経済が停滞しているタイミングで直面したため、より大きな問題に膨れ上がっていた。市民が政府へ抗議デモを行い、一部過激化した市民が警官隊と衝突するなどした。
スリランカのラジャパクサ大統領は7月6日、独立以来最悪の経済危機を乗り切るため、ロシアに対して原油の供給と旅客便の再開を要請したことを明らかにした。今でも停電や物価高騰、食料・ガソリンの不足が続く中、ラジャパクサ大統領は国外に脱出し政権は崩壊。市民の政治不信から、デモや暴動はさらに激しくなっている。
そして、英国外務省は7月に入り、スリランカへの不要不急の渡航を控えるよう国民に呼びかけた。その理由について、ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、スリランカ国内で経済危機が深刻化し、食糧や医薬品、燃料など生活必需品が不足していることを説明している。
ペルー・英国・ベルギーでの動向は?
また南米のペルーでも、ウクライナ侵攻によって小麦や石油の価格が急騰し、これに耐えかねた市民たちによる抗議デモが全土に拡大した。抗議デモ参加者の中には治安部隊と衝突するだけでなく、施設への放火や商店での略奪行為など、過激な行動に出る人々も見られた。公共交通機関がほぼ停止し、学校も休校となり、ペルー政府は市民の行動を規制する非常事態宣言を発令する事態となった。
暴動や略奪のレベルではないが、英国では賃上げを求める鉄道会社の従業員たちによる一斉ストライキが行われた。参加者は最大5万人規模で首都ロンドンの地下鉄も対象となり、市民の日常生活にも影響が出た。ベルギーでも7万人規模の抗議デモが行われ、参加者の中には空港職員も多く含まれ、国際線フライトの一部に遅延や欠航の影響が出た。
スリランカやペルーでは衝突や暴動に発展し、多くの死傷者も確認されたが、ポイントになるのは「生活必需品の急激な価格高騰」である。先進国でも同じ問題を抱えているが、途上国では経済格差が深刻でインフレ率が高く、それによって最低限度の生活を何とか維持してきた人々は突然生活必需品を買えなくなるという状況が生じている。これに危機感を抱いた人々がすぐに抗議デモの声を上げ、それによって衝突や暴動に発展するケースが少なくないのだ。
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