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「リアルの郵便局ネットワークとデジタルとの融合」の実現に向け、現在、グループを挙げてデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる日本郵政グループ。2021年7月には、DX施策の推進や人材育成をミッションとする新会社「JPデジタル」を設立し、デジタル化の動きをさらに加速させている。同グループのCDO(最高デジタル責任者)およびJPデジタル CEOを兼任する飯田 恭久氏と、JPデジタルでCIO(最高情報責任者)を務める柴田 彰則氏に、同グループの現在地と今後目指す展望について話を聞いた。
聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹
聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹
日本郵政グループが「共創プラットフォーム」を目指す理由
飯田 恭久氏(以下、飯田氏):日本郵政グループは、2021年度から2025年度までを計画年度とする中期経営計画「JPビジョン2025」を発表しています。そこで打ち出したのが「デジタル郵便局」です。これは、Webやスマホアプリなどのデジタルテクノロジーの活用により、いつでも・どこでも郵便局のサービスが受けられる郵便局のことです。
これにより郵便・物流事業と銀行業、生命保険業の主要3事業を中心としたコアビジネスをより一層充実させるとともに、デジタル技術をフックに新規ビジネスも積極的に開拓していくことで、ビジネスポートフォリオの転換を図っていきます。
これらの施策によって最終的に目指すのは、当グループの最大の強みである郵便局ネットワークを生かしてお客さまと地域に新たな価値を提供する「共創プラットフォーム」の実現です。これは日本郵政や郵便局が単独で行う事業ではなく、地域の企業や住民の方々も参入できる共創プラットフォームを創造して、人々の安全・快適で豊かな生活を支えていこうという試みです。
この計画を遂行していく上で、私は日本郵政グループ全体のCDOとして、先ほど挙げた3事業を束ねたグループ全体のDXを統括する旗振り役を務めています。世間ではよく「デジタル化することがDXである」と捉えられがちですが、DXの最終目標はビジネスモデルの本質的な変革を実現することにあって、デジタル技術はそのための手段にすぎません。
得てしてAIなど最先端技術の導入に目が行きがちですが、私たちは常にお客さまの目線に立って「どんなサービスを提供できればお客さまに高い価値を届けられるか」「そのためにはどんなデジタル技術が有用か」という発想で物事を考えるよう心掛けています。
当グループでは、そのような発想のもと、全国津々浦々にある約2万4000の郵便局を介したリアルのお客さま接点をデジタル技術と融合させ、お客さまの体験価値を徹底的に高める「みらいの郵便局」を目指していきます。
柴田 彰則氏(以下、柴田氏):私はJPデジタルのCIOという役割のほかにも、日本郵政グループ全体のDX推進を担う組織である「DX推進室」と、日本郵政本体のIT部門にも所属しています。飯田と同様、グループ全体のDXの旗振り役や調整役として、グループ各社のIT部門やユーザー部門と連携しながらITの専門家としてDXを推進する立場にあります。
一方、グループ各社はいずれも極めて大きな組織で、巨大なシステム資産を長年に渡り運用し続けてきましたから、そう簡単には新技術を導入できない事情もあります。そこでJPデジタルがいち早く先進デジタル技術を導入して、そこで得たノウハウを各社にフィードバックする役割も担っています。
「技術ありき」ではなく「お客さま目線」で何が必要かを考える
飯田氏:日本郵政グループが現在進めているDX戦略の最終的な目標は、お客さまの体験価値を徹底的に高めることです。そのための手段としてデジタル技術を積極的に活用しようとしています。
具体的には、従来からある郵便局でのリアルの接点の価値をデジタル技術でさらに高めるとともに、郵便局に来なくてもWebやスマホアプリでサービスを受けられるような新たなチャネルも開拓します。
こうした構想を実現するために何より大切なのは、お客さま目線で物事を考えることです。当グループは郵便事業だけでなく銀行業や生命保険業も営んでいますが、たとえ事業が分かれていてもお客さまは1人ですから、お客さまにとっての価値を追求するためには事業の垣根を越えたグループ一体の取り組みが必要です。
ただし、郵便局は全国津々浦々に根を張るユニバーサルサービスであり、地域によって利用者の属性が大きく異なるのも事実です。そこで私たちは各郵便局の特徴をいくつかのパターンに分類して、それぞれにペルソナを設定しています。DXのメニューも複数用意し、各郵便局の特徴やニーズに応じたメニューをそれぞれ選んで導入する方針を打ち出しています。
たとえば地方の郵便局では事務処理をデジタル化して、そこで捻出できた時間を高齢のお客さまと対話する時間に割り当ててもらう一方、都会の郵便局ではWebやアプリのチャネルを充実させて来局しなくても手続きを済ませられるサービスを充実させるといった具合です。
柴田氏:「社会を支えるユニバーサルサービスをしっかりと維持すること」が私たちの事業の大前提です。したがって、現在の郵便局のサービスがすべてデジタル化されてアプリから提供できるようになればいいわけではありません。
デジタル技術はDX実現のための手段にすぎませんから、まずは「お客さま目線に立ったときにどんなサービスが求められるか」を組織の垣根を越えて皆で議論して、その上で「そのサービスを実現するためにはどんな技術が必要か」という順番で話を進める必要があると考えています。
飯田氏:これまでの議論を体現するモデルとして、リアルとデジタルの融合によりお客さまの体験価値を徹底的に高める「みらいの郵便局」についても、この7月から大手町郵便局で実証実験がスタートしました。
Webで事前に郵便局の混雑状況や待ち組数を確認可能な「デジタル発券機」や、お客さまご自身で郵便物の差し出し、物販商品などを購入できる「セルフ差出&セルフレジ端末」を実際に利用できる形で展開しています。さらに、金融サービスなどについて話を聞ける「リモート相談ブース」や局内でもリラックスして物産品などを購入できる「Lounge(待合スペース)」など、これまでの郵便局とは異なる体験が可能です。
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