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最近、「デジタル化」という言葉を聞かない日はない。ただ、その言葉が持つ本来の意味を理解して正しく使っているだろうか。「デジタルという言葉は人を動かしたり、企業文化を変えたりする、などの力を持っている。誤解がないように使うことが重要」──。ガートナージャパンでバイスプレジデントを務める鈴木 雅喜氏がそのように指摘する理由や、デジタルビジネスの難しさ、今後のIT部門役割について語った。
※本記事は、2021年11月16日に開催された「Gartner IT Symposium/Xpo 2021」での講演内容を基に再構成したものです。
「デジタル化」という言葉がバズワード化している日本
「日本では『デジタル化』という言葉がバズワード化している」と、ガートナージャパンの鈴木 雅喜氏は指摘する。バズワードとは、定義や意味がはっきりしていないこと。情報化や電子化、IT化、デジタル化などと言葉は変遷しているものの、どこが違うのかさっぱり分からないもの含まれ、何でもかんでもデジタル化と呼べることもある。
鈴木氏は「だからこそ、デジタル化の中身をしっかり吟味、理解することが重要になる」と語る。デジタル化の実践においては、デジタル化が何を意味するのかを確認するということだ。
デジタルを表現する言葉には、「デジタル化」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「デジタルビジネス」などがある。中には、「ペーパーレス化」をデジタル化という人もいる。鈴木氏によると「ガートナーでは、単なるSaaS採用やクラウド導入、ペーパーレス化を図ることは、IT化/情報化の領域と定義している」という。これまでIT部門が手がけてきたことと変わらないからだ。
では、「デジタルビジネス」とは何を指すのか。鈴木氏は「新規ビジネスを開発したり、AIによる自動化などで既存ビジネスを改革したりすること」と説明する。SaaS採用やクラウド導入、ペーパーレス化などが単独、または従来の技術を活用していることに対して、「デジタルビジネスとは、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、ブロックチェーン、モバイル、クラウドなどの新たなデジタル技術群を組み合わせたビジネス革新、組織をまたぐもの」(鈴木氏)と定義する。
同氏は「IT化/情報化、ビジネス革新を明確に区別して理解し、考え方を変える必要もある」と説く。
「日本において2025年まで“デジタル化”として表現されるものの7割以上は、従来のIT化/情報化とほとんど同じか、その発展形にすぎないと予測」(鈴木氏)
DXやデジタルといった言葉を用いても、その活動の狙いがIT化なのか、ビジネス革新なのかを明確に区別して理解するとともに「IT化/情報化だけに取り組むのではなく、ビジネス革新を放置しないように注意することが大切」と説明する。
デジタルビジネス1000件中、「成功するのは数例」
具体的に、デジタルビジネスにはどのような種類があるのだろうか。ガートナーでは、新事業開発は既存ビジネスの枠を超えたり、新たなエコシステムを技術群でつなぐことが考えられるという。また、潜在ニーズを捉えたり、参加者にメリットを提供することも含まれていると説明する。
デジタルビジネスの具体的な例として、鈴木氏は、ふくおかフィナンシャルグループの100%子会社であるiBankマーケティングを挙げる。同社はモバイルアプリ「Wallet+」を開発・提供する。現在は、銀行口座の使い勝手向上などの利便性を高めるとともに、保険などへサービスを拡充している。九州の魅力を伝える補助金制度「九州 Re-Branding Fund」などによって、地域企業のデジタル化も支援する。
「これらの事業によって、消費者などの顧客と扱えるデータを増やし、マーケティングにも活用する。金融業界から、さらに異業種へとネットワークの拡大を目指している」(鈴木氏)
ただ、鈴木氏は「現在のデジタルビジネスの成功率は低い。たとえば、新規ビジネスの開発は1000件あるとすると成功するのは2~3件程度」、つまり「99.8%は失敗」と説明する。IT部門がこれまでカバーしてきたIT化/情報化の領域なら成功は90%程度になるというが、未経験のデジタルビジネスになると一気に下がるという。
同氏は「IT化は短期決戦だが、デジタル化は長期持久戦」と語り、取り組み方が異なることを説明する。また、デジタルを担う部門はIT部門だけではなく、ビジネス部門にもなり得るため、今後はIT部門がデジタルビジネスにどこまで関与できるかが、その成功の大きなカギの1つになるという。
IT部門の立ち位置について、IT化/情報化から既存ビジネスの革新、新規ビジネスの開発へとカバーする範囲を拡大させることが重要だと指摘した。
「2030年までに新規ビジネスの開発の領域まで、IT部門の参加と統制を広げないと失敗とみなされる」(鈴木氏)
【次ページ】2030年までに求められるIT部門の変化
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