• 2021/08/18 掲載

アジャイル開発の管理ツール(EAPツール)とは?16社を解説、AtlassianやServiceNowなど

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DXに取り組む企業のソフトウェア開発では、重厚長大なウォーターフォール型開発ではなく、短い期間で検証とリリースを繰り返すアジャイル開発手法を大規模開発でも採用するケースが増えている。とはいえ、アジャイル開発特有の難しさもあり、工数や計画と実績の差異の把握など、プロジェクトの管理はウォーターフォール型以上に難しい。こうした課題に対応できるのが、企業向けアジャイル開発計画ツール(Enterprise Agile Planning Tools:EAPツール)だ。ここではアジャイル開発の基本やメリットから、AtlassianやGitLab、ServiceNow、マイクロソフト、IBMなどの商用ツールベンダーまで幅広く解説していこう。
執筆:友永 慎哉
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アジャイル開発とウォーターフォール開発の違い。管理手法も大きく異なる

アジャイル開発とは何か

 アジャイル開発の「アジャイル」とは、すばやい、俊敏といった意味だ。システム開発の際に起きるさまざまな状況の変化に対応しながら開発を進める手法である。

 アジャイル開発は、チームを結成して要件定義、設計、開発、テスト、リリースという開発プロセスを、小さいサイクルで繰り返す。小さいサイクルで繰り返す手法のため、開発期間中の仕様変更にも対応しやすい。結果として、最新のビジネスニーズに即した機能を柔軟に開発できるようになる。

 もともと、アジャイル開発は、2001年に米国ユタ州に17人の技術者およびプログラマーが集まり、ソフトウェア開発の主義や手法について議論。それを以下の「アジャイルソフトウェア開発宣言」として纏めた。

私たちは、ソフトウェア開発の実践あるいは実践を手助けする活動を通じて、よりよい開発方法を見つけだそうとしている。この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。プロセスやツールよりも個人と対話を、包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、契約交渉よりも顧客との協調を、計画に従うことよりも変化への対応を価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。



アジャイル開発のメリットとデメリット

 アジャイル開発の最大のメリットは、計画段階で綿密な仕様を決めないことで、開発途中であっても、ユーザーと密に連絡を取りながら、仕様変更や機能追加を柔軟に実行できることにある。これにより、不具合が発生した際でも戻る工程が少なく済む。

 一方、ウォーターフォール開発ではプロジェクト開始時に決まった設計、計画に沿うため、途中で不具合が発生すれば「最初からやり直し」になる可能性もあることとは対照的だ。

 また、開発の途中でユーザーにフィードバックし、確認しながら進められるため、仕様変更や追加などに対応しながら、ユーザーの要望に最大限に応えられる。

 さらに、アジャイル開発では、対面のコミュニケーションで意思疎通するため、文書の量を減らせるといったメリットが挙げられる。

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アジャイル開発が一般化してくるとともに管理手法も高度化している
(Photo/Getty Images)

 もちろんデメリットもある。開発プロジェクト開始時に詳細な仕様を決めないため、開発の方向性が定まらずに失敗する可能性がある。

 また、顧客ニーズに対応して変更を繰り返しているうちに、事後的に致命的な仕様ミスが発生するリスクもあるだろう。また、厳密な計画を立てないため、プロジェクト管理が難しくなり、納期を守れなくなるケースも出てくる。

【次ページ】アジャイル開発ツールベンダー16社

アジャイル開発ツールベンダー16社

 アジャイル開発を実施する場合に有効なのが、企業向けアジャイル開発計画ツール(Enterprise Agile Planning Tools:以下、EAPツール)だ。調査会社のガートナーは、EAPをアジャイル型ソフトウェア開発の管理のために、ビジネス成果主導のアプローチの実施を支援するためのツールとして定義している。

 そのうえで、ビジネスの成果に基づいて月次、週次、日次で数値を更新しているか、Scaled Agile Framework(SAFe)などのエンタープライズアジャイルフレームワークのサポートがあるか、製品ロードマップの優位性、仕事の流れの可視性・コラボレーション機能の充実度といった視点から、各ベンダーを評価している。

 なお、SAFeは、生産性向上、市場投入までの時間の削減、品質や従業員のエンゲージメントの改善など、アジャイルを拡張するためのフレームワークとして、Scaled Agile社が提供しているものだ。

 2021年4月発表の「Magic Quadrant for Enterprise Agile Planning Tools」では、ベンダーを以下のようにリーダー、チャレンジャー、ニッチプレイヤーに分類している。

主要な企業向けアジャイル開発計画ツールベンダー(EAP)
リーダー アトラシアン(Atlassian)
Digital.ai
プランビュー(Planview)
サービスナウ(ServiceNow)
ブロードコム(Broadcom)
ギットラボ(GitLab)
ターゲットプロセス(Targetprocess)
チャレンジャー マイクロソフト(Microsoft)
シーメンス(Siemens)
IBM
ニッチプレイヤー Inflectra
Planisware
Digte
マイクロフォーカス(Micro Focus)
TCS
Farvo
(ガートナーの資料を基に筆者作成)

 ここではリーダーとされている企業を中心に、各社の主なツールを見ていこう。

Atlassian
 Atlassianが提供するEAPツールは「JiraAlign」だ。複数のエンタープライズアジャイルフレームワークをサポートする大規模企業向けツールである。2020年10月にはJiraAlignのクラウドへの移行と、今後オンプレミスのサーバー版のサポートを終了すると発表している点に注意が必要だろう。

Digital.ai
 Digital.aiの「Digital.aiAgility」は、SAFe、LeSS、DADなどのエンタープライズアジャイルフレームワークをサポートしている。2020年にCollabNetVersionOne、XebiaLabs、Experitest、Numerify、Arxan Technologiesが合併してDigital.aiを結成後、ツール全体に大幅な改善を施した。

ServiceNow
 ITサービスを提供するServiceNowのプラットフォーム上に、ITBusiness Management(ITBM)として提供している。中規模から大企業を対象とし、過去1年間SAFeのサポートを拡大、AzurePipelinesやGitLabなどのサードパーティツールと統合するなど拡張を続けている。

Broadcom
 Broadcomが提供するRallyはポートフォリオプランニングで、Clarityは管理機能で、エンタープライズ規模のアジャイル開発を支援する。価格競争力に優れる点も特徴となっている。RallyとClarityが別製品であることや、全体として大企業向けであるため、中小企業が導入するには負担が大きい可能性があるという。

GitLab
 GitLabは幅広いユーザーと寄稿者コミュニティで開発されている点で、他製品と異なっている。GitLabによるSAFeのサポートが限られている点に注意が必要だ。

Targetprocess
 社名と同名のツールであるTargetprocessにより、組織はリーンでアジャイルな開発を大規模に推進できる。年10%ほどのペースで着実に成長しているが、競合他社に比べると成長が遅く、規模も小さい。アクセンチュアが主要なパートナーだが、直接販売をメインとしている。

 ここまでがリーダー企業だが、これを追う形で、マイクロソフトやIBMなどの主要企業がチャレンジャーとしてツールを提供している。

マイクロソフト
 マイクロソフトは開発サービスであるAzure DevOpsスイートの一部としてAzure Boardsを提供している。

IBM
 IBMはEngineering Lifecycle Management(ELM)スイートの一部としてIBM Engineering Workflow Managementを、EAPツールとして提供している。

 アジャイル開発は、企業システムで急速に進むクラウドシフトやDXへの取り組みによって、今後さらにアプリケーション開発手法の主流になると見込まれている。各社の組織体制強化状況などを参考に、ツールの効果的な利用を含めて、ビジネスにおける競争優位性確保ための一策として準備しておきたいところだろう。

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